さかなとさいころ
「もう辞める、引退だ! 俺はもう新作なんか作れない!」
世界的に有名な監督はそう言って頭を抱え、叫んだ。
この所もう何度この監督はそう叫んでいるのだろう。
困った事に毎回これは本気の叫びなのだ。
会議室のテーブルの上には、何十冊もの児童文学書が並んでいる。
彼はこれまでの苦い経験から、漫画を原作にすることを———自らが描いたモノ以外———絶対にやらないのだった。
(さて、今度はどうやってこの人の疳の虫を取り除けるのやら)
プロデューサーとはそういう商売だ、少なくとも彼にとっては。
(だが、それだって昔に比べれば贅沢な悩みだよな)
そう思いつつ、彼はいつもの「儀式」につかう道具をさりげなく取りだして、机の上に転がした。
今から数十年前。
ここから先は
1,373字
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?