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足柄のツチノコ

ツチノコを見た事があるだろうか?
これは祖母の話で太平洋戦争が始まる少し前のことだったそうだ。力松さんが結婚を機に足柄の山の中から小田原の風祭のほうへ出てくることになった。なにぶん今まで両親と住んでいたところは、鹿、猪、猿、熊、野犬などなどの野生動物、町では見慣れないデカさの虫たちが当たり前に現れるような場所であった。祖母...美代は赤マントの一件以来、よく行くようになったがいかんせん、そう言った動物や虫たちには慣れることはなかったと美代は笑っていた。
そんなある日、力松さんの奥さんになる千代さんと力松さんの実家で迎えにくるのを待つことになった。千代さんも町暮らしが長く、最初は家の中にひょっこり顔を出す鹿や、風呂の壁を破って入って来た熊と遭遇し、喰われるかと思ったら千代さんの大声に驚き逃げるのかと思うと、彼女のおっぱいを徐に触って悠然と去って行ったなど笑い話のような出来事に笑いこけていた時だった。

ガサガサガサ...

天井から妙な音がした。何かが這うような音に聞こえたようで千代さんが

「アオダイショウでないかね?この辺のは大きいのよ」

美代は、そんな大きい蛇みたくないなぁ...と思ったという。すると庭にいた猟犬が突然怯え出した。美代が「どうしたの?」と声をかけると尻尾を内股に丸めて小屋に入ってしまった。美代と千代さんは互いに見合って

「「何もなきゃいいけどねぇ...」」

2人が不安を漏らした。すると天井から

ダーン!ダーン!ダーン!

と何かが飛び跳ねるような音が聞こえた。ギョッとした2人が同じ場所に寄った時だった。ドスッ!と何かが天井から落ちて来た。千代さんが

「なん?...え?......大きな蛭...?」

確かにこの足柄の山の中なら大きい蛭くらい居ても不思議ではない。ところが2人は目を丸くした。それは一升瓶くらいの大きさの蛇だったという。ただ自分たちの知る蛇とは少し違っていた。妙に大きい頭、そして膨れ上がった腹、シュッと細くなったしっぽだった。そいつは綺麗な目をしていたと祖母は語っていた。

シィィ...

蛇がそう発したように聞こえたという。すると鎌首を上げたような姿勢を見せた。どうやら威嚇されているらしい。そして次の瞬間、ぴょーん!と飛び上がりそいつは2人を無視して外へジャンプしたのだと言う。そのとき初めて明るい場所で見たそいつを祖母は

「あー迷彩色っていうのかな。アメリカ軍の着てた上衣みたいな色に見えたね」

その迷彩の蛇は再びジャンプし、森へ消えていった。その夜、2人が力松さんにそのことを話すと

「そいつは野槌かもしんねぇな。オイラも見た事はねえけど昔からいるいるって言われてたやつじゃねえか?」

なんだ、捕まえとけよと冗談を言う力松さんに「あんなもん触れるか!気持ち悪い!」と千代さんが食ってかかった。
その後、太平洋戦争が終わったあと美代は祖父・サブと結婚した。そのとき貸し本屋で好きな推理小説を探していたときだった。蛇の専門書が目に入った。美代が何となく力松さんの家でのことを思い出し、本を開いていくと似たような蛇の絵を見つけた。そこにはツチノコ...幻の蛇と記されていたと言う。

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