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月下美人屋敷狂 ⑤

5中旬
私はいまだ、この屋敷の謎の解明には至っていなかった。しかし、ここに来て被害者にある共通点があることを事務員の貴子が気が付いたのである。

「似たような顔つき?」

貴子は、うんうんと頷きながら行方不明になった少女たちの写真を見せた。

「いや最初は偶然かなって思ったんだけど中臣はるかさんと白畑杏子さん、の顔つきほら見てみてよ」

確かによく似ている。何も言われなければ姉妹と勘違いしてもおかしくはない。だが当然彼女らは親戚でも何でもない。顔つきが似ているのはよくある話だと言える。二人とも日本人形に似た美しい顔立ちだった。対して草間由美は、二人とは対照的にエスニック的な美人顔だ。

「ひょっとしたら...犯人の狙いは二人のような顔つきの子供だったんじゃ...」

私はすぐに機動捜査隊の浅井氏に連絡を取り、過去五年間の行方不明者の中に10代の女性、とりわけ日本人形的な顔立ちの女性だけのピックアップを頼んだ。
翌日、浅井氏からメールと共に電話があった。

「侑、お前の考えた通りだった。過去五年で振り返って調べてみたらな10〜15歳の少女が相模原、厚木、伊勢原周辺で行方不明になった事件が幾つかあった。調書に月下美人を見にいくと言い残してって記述があった。やっぱりあの屋敷臭いな」

その後の調べで三人の少女の学校でやはり10〜15歳の少女が年齢を聞かれたり、老人に後をつけられる被害に遭っていた子供たちがいた。
私はもう一度あの老人に会うことを考え、屋敷周辺を探し回った。しかしその姿が発見出来なかったため、あえて屋敷の前で車を止めて待つことにした。老人が現れたのは夕暮れどきであった。

「あんたここは私有地の前だぞ」

老人は私を見てハッとしたようになった。

「失礼しました。実はあなたを探していまして」

私は経緯を話した。あえて少女たちが誘拐されたではなく子供たちがと言い換えた。するとやはり老人はボロを出した。

「女の子たちがねぇ...」

「どうして女の子だって思ったんですか?」

私の問いに老人はギョッとした顔して

「あんたが言ったからだよ...」

「変ですね。あなたには子供たちと言っただけです。女の子たちとは言っていませんよ?前に会った時もそうでした。僕は女性と言ったのに、あなたは女の子と言った...これはどういう事なんでしょうか?」

そこに浅井先輩が駆けつけ、話を聞くことになった。
老人の名前は永江春海(82)だった。以前は相模原市内で林業を営んでおり、月下美人の栽培で富を成してあの屋敷を建てた人物だった。
浅井先輩ら刑事の事件への関与に関しては黙秘を貫いていた。しかし、あるとき突然自供を始めた。

「娘のね...娘のために子供らを誘拐したんですわ」

以下、彼の独白である。

「私が3歳の頃ね...広島にピカが落ちたんですわ。まあ運良く私も弟も両親も無傷で助かったんです。今でも忘れませんね...あの地獄のような光景を。晴れ渡って真っ青な青空には煙が立ち込めて夜みたい。皮膚を垂れ流して熱い熱いって言ってる人やガラスが刺さって...見れたもんじゃない人を大勢みました。それで避難した先で柚子江と出会ったんです。本当に綺麗な子でね。けど柚子江の両親は焼かれて死んでしまってた...たまたま知り合ったのを機にわしら家族と暮らすようになったんですわ...」

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