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名探偵じゃなくても


本日紹介する本は、小西マサテル先生の「名探偵じゃなくても」です――。

本作は、以前にブログで紹介した「名探偵のままでいて」の待望の続編。
前作の紹介は、コチラから↓

ブログで紹介した縁で、小西マサテル先生からサイン本を頂いてしまいました。
小西マサテル先生、ありがとうございます!!

あらすじ

小学校教師の楓の祖父は、幻視や記憶障害を伴うレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。
だが、楓が身の回りで生じた謎について話して聞かせると、祖父の知性はかつての輝きを取り戻し、その真相を物語として紡いでいく。
サンタクロースの消失事件を始め、連続自殺事件や、泣いている死体といった不可解な謎の数々を、祖父が名探偵のごとく解決する、ハートフルミステリ。

感想

本作の魅力をひと言で語るのは、非常に難しいです。
なぜなら、あらゆる要素が凝縮されたエンタテイメント作品だからです。

レビー小体型認知症の祖父が、事件を解決する――という設定が秀逸なのは、言うまでもありませんが、これを単なる設定として描いているのではなく、症状について丁寧に描き、関わる人たちの心の揺れ動きを紡いでいます。
また、作品世界に郷愁にも似た独自の空気感を生み出し、読者の心にも訴えかけてきます。

真相を幻視に映し、物語として紡いでいくという解決編の描き方も、本当に素晴らしいです。
独自性だけではなく、様式美を感じます。
探偵ものにおいて、解決編の様式美は、もの凄く大事なのです。歴史に名を残す名探偵は、必ずこの様式美を持っていました。

扱う謎も、バリエーション豊かで、かつユニークなものばかりです。
それでいて、ミステリとしての骨組みがしっかりと固まっているのです。明かされる真相は、意外性に満ちているだけでなく、関わる人々の心に何かを残してくれます。
例えば、一話目のサンタクロース消失事件においても、事件が解決して良かった――という単純なカタルシスだけでなく、その後を想像させる余韻があり、本を置いてからも、読者の頭の中に残り続けるのです。

私も、ミステリ書きの端くれとして、様式美と真相が明かされた後の余韻を、もっと大事にしなければいけませんね。

キャラクターも魅力的です。
主人公の楓はもちろん、同僚の教師の岩田。劇団員の四季。本作から登場する、祖父の元教え子の刑事、我妻といった個性豊かでありながら、愛すべき人たち。
それぞれが心に抱えているものがありますが、決して陰鬱にならず、前に進もうという力強さと優しさがあります。
故に、読んでいて、癒やされていくのでしょうね。

楓、岩田、四季の三角関係も読みどころです。
この三人の関係は、読んでいて「ああ! もう!!」と思わず声を上げくなります。
私は、岩田派なので彼を応援しています……笑

本作では、繰り返しアルフレッド・ヒッチコックの話が出てきます。
私は、幼い頃「ヒッチコック劇場」(再放送)を観ていましたし、「ヒッチコックコレクション」のDVDBOXも持っているくらい好きなので、名前が出ただけで大興奮!!
さらに、ヒッチコックの作品などに絡め、エンタテイメントについての見解も語られるのですが、その内容に強く感銘を受けました。

何より凄いのは、これだけの要素を詰め込んだら、普通は物語が破綻してしまうものですが、そうはならないのが、小西マサテル先生の凄いところ。
構成力が凄いことは言うまでもないのですが、紡がれる言葉の一つ一つに並外れたセンスがあるからこそ、多くの魅力を内包しつつも、すっと読者の心に染み入ってくるのだと思います。
あとは、小西マサテル先生が持つ、人間力も大きく影響しているのでしょう――。

補足

アルフレッド・ヒッチコック
「サスペンスの巨匠」「スリラーの神様」などと呼ばれ、「サイコ」「鳥」「裏窓」「北北西に進路を取れ」など、数々の名作を世に送り出したイギリスの映画監督。

「ヒッチコック劇場」
自らがストーリーテラーとして登場し、一部作品を監督して放送されたテレビドラマシリーズ。


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