論文紹介001❘ PI3KはCLOCK-BMAL1複合体とコアクチベーターを形成して転写を誘導する

 PI3Kはイノシトールリン環のD-3位をリン酸化する酵素であり、細胞外刺激(成長因子やサイトカイン)によりPI3K/AKT/mTOR経路を通して、細胞の増殖・抗アポトーシス作用・代謝などを調節する有名な因子である。がんではこの経路の調節不全により常に活性化しているため、治療標的の候補にもなっている。
 PI3Kはこの構造と基質特異性に基づき、「クラスⅠ」、「クラスⅡ」、「クラスⅢ」が存在する。今回注目するのはクラスⅢのVps34と呼ばれているPI3Kで、Vps15と共にオートファジーによるリソソーム分解を活性化することで知られている。
 そもそもPI3Kが間接的に時計遺伝子に影響を与えることは既に報告されている。以下に例を挙げる。
① マウス肝臓中でインスリンシグナルがPI3K/AKT経路を介して、BMAL1のSer42をリン酸化し、転写活性を抑制する。(Nat Commun, Dang F (2016))
② AKTによるCLOCKのSer845のリン酸化により、他の時計遺伝子を正常に発現させる。(J Biol Chem, Luciano AK (2018))

 結果としては、Vps34とVps15をそれぞれKOまたは阻害剤を用いて阻害することにより、Vps34 KOではBmal1の結合による時計遺伝子(Nr1d1, Dbp)の発現は抑制されなかったが、Vps15では抑制されることが明らかになった。
 加えて、転写に必要なpolⅡはVps15およびVps15/Vps34複合体と共局在していることが明らかになった。このうち、Vps15単体はClock/Bmal1複合体とコアクチベーターとして転写活性を促進し、Nr1d1, Dbp,プリン代謝酵素であるPpatの発現を上昇させることが明らかとなった。


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