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王子キノクロス株式会社が開発したバイオマスの不織布「キナリト」でパッケージを作る。

こんばんは。
今回は、静岡県富士市で生まれたバイオマスの不織布「キナリト」について。この不織布で、パッケージデザイン協会に送るサンプルパッケージを作ったので、その過程を書いておきたいと思います。



⚫︎「キナリト」とはどんな何紙か・特徴は?

富士市にはさまざまな紙の会社があります。
あるイベントで知り合った紙の開発者。王子キノクロス株式会社のMさんから「キナリト」という不織布について教えてもらったことが始まりでした。
「キナリト」の主な特徴はこちらです↓

  • 木材由来のパルプが主原料

  • 成形・加工が可能

  • 粉末等を配合可能

  • 生分解性を有する

ちょっと使用感のある「デザインのひきだし47号」

この不織布は、ふんわりとしていて、軽く、生分解性を有しているサスティナブルな不織布として開発されました。

木材由来のパルプが主原料。原材料に使用しているセルロースやバイオマスプラスチック(PLA)は生分解性を有していて、自然に還ることのできる素材です。
まるで綿をギュッと圧迫してできたような風合いで、印刷、箔押し、縫製、エンボス加工が可能です。なんと紙通には有名な「デザインのひきだし47号」(グラフィック社)の表紙にもなっています。

友人宅で焚き火をしているときに、おもむろに開発者のMさんからこの紙を見せてもらい、何か活用法はないか?とアイディアを交わしたしたのがきっかけでした。
キナリトとはこんな不織布


⚫︎「キナリト」で感動した話

しばらく経って、「キナリト」でサンプルボックスを作って、パッケージデザイン協会に納品することになりました。Mさんから見せてもらった印刷サンプルには、4色で植物を印刷したもの、小さな箱に整形したもの、スリッパの形になったもの、お茶の葉が配合されているものなどさまざま。

茶葉配合
印刷

その中でも、鳥の羽のモチーフを金と銀で箔押しをしているものがあり、その線の細かさにおゝと声が出ました。柔らかい不織布に、細かな凹凸まで箔で表現できていることに感動したのでした。この素材の軽さ、繊細な箔の表現。これは鳥の羽を起点にしたサンプルボックスにしようと決めました。

キナリトに銀の箔押し


⚫︎「キナリト」で「トリBOX」草案

まずは、不織布の柔らかさをどのように形にするか。この素材に包んで欲しいものはどんなものか考えました。ヒグチユウコさんのひとつめちゃんのようなお化けまで表現してしまう素材。工業製品ではなく、ひとつひとつ表情の違う民藝品のようなパッケージにできないだろうか。
この不織布を使うとしたらどんなシーンだろう。
例えば、母親がお気に入りのジュエリーを娘に渡すときにジュエリーを入れて置けるような、ジュエリーボックスはどうだろう?オルゴールBOXは?
例えば、箔を施して絵合わせに使うような貝の形もいいかもしれないなど、
思いを巡らせながら。


キナリトBOXの形状を探る旅


暮らしの手帳の編集者、花森安治のラフスケッチが載っている別冊太陽を引っ張り出してきて、花森の布の表現を参考に形を探っていきました。

花森のスケッチを見ながらラフスケッチ

王子キノクロスは、「木」の「クロス(布)」と言う意味だそうで、布のような形が合っているのではないかしら?
鳥籠の形は、窓のような形にもなるし、ワインラベルのような形にもなるな。
思考錯誤する時間は至福です。
やがて3つのラフスケッチが出来上がりました。

トリカゴキキュウ型
トリの羽根型
トリカゴクロス型

「キナリト」の軽さと変幻自在に成形できる特徴をみてほしい。
このボックスの中に、箔押しや、エンボス加工や、活版印刷などカードを入れて取り出せるようにしたい。
キナリト開発者のMさんにまずは、草案を渡しました。


キナリト草案



⚫︎「トリBOX」が平面から立体へ


数日後に、Mさんから連絡がありました。

「トリBOXでいきましょう!」
まず一度、ほっとしました。
鳥の羽をモチーフにした形状は、持ったときに不織布の軽さを感じる「キナリト」にはぴったりです。
Mさんと成形会社さんとのやり取りで、まずは2Dの図面が上がってきました。

1回目の鳥BOX図面

ここで発覚したのが、BOXの厚みの制限でした。パッケージを郵便でも送れる厚みに抑えたいこと。
BOXの蓋を閉じたときにピタッと止めるには、鳥籠型の内側に7mmほどの立ち上がり(盛り上がり)を作り、その立ち上がりの角アールがあることで蓋を密閉するのだそうです。ここでも数回に渡り、Mさんを介しての成形会社さんとの修正をやり取りしました。
がま口のとっての部分もぷっくり膨らんでいた方がいい。
不織布の入る内側には、不織布を取り出しやすい部分に指を入れる溝を作る。技術者の意見を伺いながら細かく修正が加えられました。

3D図面が到着!

その後、やってきた3D図面です。こちらは画面上で動かすことができて360度形状をチェックできます。

仕上がってここでの問題点は、翼の膨らみの不自然さでした。
特に、真ん中の方の羽の一つ一つが大きな面では、厚みがあまり取れない中で、自然に羽を膨らませることが難しいことが分かりました。
薄さの中で一番高い点をどこにするか。丸みを帯びて傾斜にするのか、
直線的な面で角を作るか。まずは見本を作っていただきました。


仕上がり1回目

3D図面から仕上がってきた仕上がりの1回目。図面から形にしてくれる
職人さんは、毎回素晴らしいなと思います。良く形になるよと。
それでも、せっかくならとてもいい状態にしていきたい。
羽というモチーフを使うのは、軽やかさを出すため、それからジュエリーケースのような装飾的な部分も出していきたい。
こちらからこのように提案していきました。

形を印象付けるために細かく見直す

まず、のっぺりとしている真ん中の大きな羽のパーツの膨らみを少し上に上げ、膨らみの重心を低くして丸みを強調するために、羽の輪郭を丸く。
職人さんからの提案で下のケースを開けるための突起をなくし、ケースとしての強度を上げることを目指しました。製作所では、この形の金型を作り、圧縮して不織布を形づけているとのこと。
小さな修正も、大変な作業になることが予想されました。
それでも、たくさんの人が手に取って「いいなぁ」と思ってもらえるような形にしたい!制作側の思いはひとつでした。

そうして
仕上がってきた不織布ケースです。

端の処理がぷっくりしているキナリトケース
上の3段の羽も真ん中の羽の膨らみも自然に。


パッケージを開けると、ブレスレットや、ネックレスが入るとキラキラとして綺麗ではないかな。
そう思って作っています。

繊細な金や銀の箔押しにも対応するキナリト

活版印刷にもできるキナリト。
柔らかいので押したときにも深く沈みこむ具合が鮮やかです。

ケースを開けると、活版、箔押し、エンボス加工と3枚のキナリトが入っています。



仕上がってきたキナリトケースには、担当の開発者Mさんの言葉を添えています。

はじめまして、キナリトです。
ふれて、光にかざし、質感を味わってみて下さい。
新しい表現を一緒に考えてみませんか?
こんなもの作ってみたいのご相談をお待ちしています。

キナリトが原材料に使用しているセルロースや
バイオマスプラスチックは植物由来の材料です。
製品として使用した後は一定の条件のもとで分解され
土に帰る素材です。

これから、日本生まれの素材として羽ばたいて行って欲しいなと思います。

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