ライオンの歯


あじさいが咲くこの梅雨の季節

晴れを褒めるような夕日が沈んでる今日、仲の良さそうなカップルが手を繋いで仲良く歩いている

この二人は最近付き合い始めたらしい

彼は普段無口でシャイな年上の男の子 雅人26歳

そして只今、彼に絶賛ガチ恋勢中の私、よく喋る明るい年下の女の子で華香20歳

今日は雅人との休日デート、ずっと浮かれている私はデートの終盤に近づいた帰り道

お互いの家に帰る別れ道で彼の雅人が大人びた優しい甘い声で急に言った。

「ねぇ、今度の日曜の休みさ、華ちゃん暇?」

自分からはあまり喋りかけて来ない彼が言った言葉に華香は喜んで返事をした‥

「えっ?、うん、もちろん暇だよ
でも、次の休みは用事あるって言ってたでしょ?」

すると雅人は、少しだけ恥ずかしそうにボディーバックから2枚のチケットを取り出しピラピラと動かしながら見せつけて、こう言った。

「前にさ、華ちゃんが行きたいって言ってた動物園のチケットがあるけど行く?」

「実は昨日、会社の飲み会でビンゴ大会があったんだけど、その景品で動物園のチケットが手に入ったんだ!
せっかく当たったからさ、どうかなと思って!」

「えっ!ほんと?うれしい雅くん!」

嬉しさのあまり、華香は雅人に抱きつき
上目遣いで雅人の顔を見上げてこう言った

「でも、雨降ったらどうするの?」

「雨、雨かぁ〜、雨の日の動物はやだなぁ、雨降るとやりたい事もあるし、もし雨が降るならその時に考えて連絡するね」

「それじゃ、来週は晴れを祈りながら楽しみに待ってるね!」

そう言って二人がお互いにずっと握っていた手を離し、お互いに顔を見ながらテレた顔をしつつ雅人は立ち止まり華香を見送る。

華香は見送られながら、後ろから感じてる視線が気になるのか、雅人が見えなくなるまで何度も、何度も、後ろを振り返りながらも手を振りながら家に帰った。

そして待ちに待った日曜日
あいにくの雨…。

前日の天気予報では晴れの予報だったはずなのに強い雨の音で目を覚ました華香は寝ぼけながらも携帯を手に取る

すると寝ている間に雅人からLINEの通知が来ていた。

今日は雨が降ってるから用事もあるのでデートは中止にしようって書かれていた内容だった。

「あ〜、やっぱりかぁ〜っ、雨だから動物園デートの中止は仕方ないよねっ」

華香はすごく楽しみにしていた分、かなり落ち込んだ。

しかし、用事って何だろう?っと不思議に思った華香はその理由を聞こうと思い直接話しをしようと考えながら電話番号を検索し始める。雅人からその理由を言って来なかったのには訳があると思い、嫌な女と思われたくない為、我にかえり指を止める、そして、携帯をベットの上にポンと軽く投げ飛ばす。

「あぁ〜あ、もう、何してんだろ私、
でも雨だからって用事を入れてデート出来ないってのは、ほんっっっとに信じらんない!雨でもショッピングモールやカフェとかデート出来るのに最悪だよっ」

私には雅人に電話をする勇気がなかった…

自分の本能や理性を抑えながらも、自分の感情を無理やり止めた後、冷静になった華香はLINEの返事を打ちながら、雨だから仕方ないよね、了解だよ雅くんっと、涙目になりながらも可愛いスタンプと共に返信した。
 
華香はその日、なんだか1日モヤモヤしつつ無駄に時間を過ごしてしまった。

そして数日が経ち、先週の動物園デートをキャンセルされた事をずっと気にしてた華香は、次の休みにデートしてくれるか、断腸の思いで勇気を振り絞り、恐る恐る雅人にLINEを送る

「ねぇ……雅くん
明後日の日曜日は会えるの?」

すると、数分遅れて、雅人からLINEが返ってくる

「えっ?、もちろんその予定だよ?逆に動物園に行かないと思ってたの?この前の日曜日は雨でデート出来なかったから決定事項かと思ってたよ。明後日の日曜日は約束してた動物園デートしようね!」

その返信をみた華香はうつ伏せでベットに飛び乗り、枕に顔を埋めながら足をバタバタして喜んだ。

華香はすぐさま、携帯で天気予報を確認する。

日曜日は晴れマークが付いているのを見た華香は、ベットから起き上がり、なんだかソワソワしながら、いたたまれなかったのか、なんとなくティッシュを丸めながらデートの事を考えながらテルテル坊主を作って飾ってみた。

そして、予報通り日曜日は晴れになった。

ふと目が覚めた華香は朝起きてすぐにベットから起き上がり窓を開けると、鳥のさえずりが聞こえてくる。

華香は晴れた空を見て、嬉しさのあまり自分で作ったテルテル坊主に向かって

「晴れてくれてありがとねっ…」

と右の人差し指でツンツンしながらインスタグラムにテルテル坊主をアップさせ、バッチリメイクで家を出た。

待ち合わせの公園で子どもたちが騒いでいます。

そこに子供を見ながらベンチに座ってる雅人が居た。

雅人を見た華香は手を振ながら嬉しそうに雅人に近づく。

するとさっきまで滑り台で遊んでた二人の子どもが近寄ってきた。

一人は帽子を被った活発そうな男の子
が唐突に言った。

「おにぃちゃん、良かったね。彼女が来てくれて、ずっと待ってたもんね!
ねぇねぇ、この人がさっき携帯で見せてくれたテルテル坊主を作った人?、あのね、お姉ちゃん、おにぃちゃんがね写真見せてくれた後、すぐに❤のいいね押してたよ?」

そう言った後に続いてピンクのワンピースを着た女の子が驚くように見つめながら……

「うわぁ〜、このお姉ちゃんすごく綺麗、私も将来、お姉ちゃんみたいになりたいな!」

っと褒めて来た。

すると雅人は

「そうだろ、可愛いだろ?自慢の彼女なんだよっ、でも、このお姉ちゃんもかわいいけど、キミもきっと可愛くなれるよっ」

と、そう言いながら女の子の頭をなでる。

そして雅人は女の子の頭から手を離すと女の子が言った。

「ちょっと二人とも待っててね」

そう言って、急に走り出し、花を持って来た。

すこし息を切らした女の子

「はぁはぁ……お兄ちゃん、お姉ちゃん、はいコレ、褒めてくれたお礼、楽しいおデートしてきてね。」

そう言って黄色いタンポポを一輪づつ
手渡してきた。

二人は口を揃えて

「ありがとう」

と言いながら受け取り

華香は子供に向かって

「楽しいデートをしてくるね」

そう言って二人は幸せそうに動物園に向かった。

公園の出入り口で華香は言う。

「ねぇねぇ、このタンポポ、せっかくだからさ、1個づつ持ったまま、写真を撮らない?」

「華ちゃんは本当に写真をイスンタに載せるのが好きだよな!」

「だってさ〜、タンポポをこのまま捨てちゃうのも勿体無いでしょ?」

「しかたないなぁ〜、ほら、華ちゃん
撮りなよ」

二人は仲良く公園の出入り口で、1輪ずつ持ったタンポポを並べて写真を撮り、華香はインスタグラムに載せた。

すると華香の携帯に通知音が鳴るので
とりあえず通知を見る

すぐに❤のいいねが押されていた。

雅人は喋りながら歩き始める。
「オレが一番始めにいいねを押したから、また一つ、華香の一番になれたかな?」

そう言われる華香は嬉し恥ずかしそうにテレながら携帯で顔を隠して横に並んで歩く

そして、動物園についた二人は、受付を済ませて園内に入った。

じっくりと動物の配置図をみて
回る順番を2人目で決める。

いろんな動物を見つつ華香は楽しそうに雅人の手を引っぱる……

「あっ!こんな時間、早くあっちのパンダさんを見に行こうよ」

「おっ、おい、そんなに急いでもパンダはにげないぞっ」

「雅くん何を言ってるの?もう、パンダは逃げないかもだけど、15:00からパンダイベントでしょ?パンダグッツがなくなっちゃうよぉ〜」

急いでパンダイベント広場に行くと
パンダイベント場で人があふれかえっている。

「うわぁ〜、人がたくさんいる。
ほら、雅くん、パンダイベントを舐めてたでしょ!ほら、こっちこっち」

二人並んでパンダを見てると、雅人がふと笑いながら言った。

「パンダって、ふわふわしてて、
なんだか、パンダの頭がタンポポに見えてきたよ」

「もう、さっき子供たちからタンポポもらったからって、そこから連想したでしょっ」

「バレた? フフフッ」
 
そんなやり取りをしつつ二人は
幸せな時間を楽しく共有した。

そしていつものお別れの分かれ道

「雅くん、来週はどうするの?
会ってくれる?」

「もちろん、次もデートしよっか」

雅人は優しく微笑みながらそう答えた。

そしていつものように雅人がずっと見送ってくれる中、また、何度も後ろを振り返りながら私は家に帰った。

週末が近づき、華香は雅人に電話をかけて、日曜日のデートの話を持ちかける、すると雅人は天気予報を見て言った。

「あっ!日曜日は雨の日っぽいね、華ちゃんごめん、雨の日は用事があるからデートは中止にしてほしいな」

雅人の用事という言葉が華香の頭をよぎってしまった。

華香は、なぜか自分の口が勝手に動いてしまった感覚があったように思わず聞いてしまった。
「雅くん、雅くんはさ、なんで晴れの日しかデートをしてくれないの?」

そう言われると雅人は少し沈黙になってしまった後、雅人はポツリと答えた

「ごめん、雨の日は家の用事に専念したくてなるべく家に居たいんだ。
本当にごめんな」

そう言われた華香はこの件に対して納得はしてないが、雅人と喧嘩をしたくなかったので我慢してしまった。

そして日曜日が来た。
華香は雅人に結局デートは断られ、休日に一人寂しくベットの上でスマホゲームをやっていた。

しかし、ゲームも飽きてやることがない

家にいても気分が晴れない華香は気分転換に外に出ようと思った。

そう言えば最近できたカフェが気になっていたので傘をさして足を向ける

本当は雅人と行きたかったけど今回は雨で会えなかった腹いせに、インスタグラムから雅人に自慢しようと思い。
お店の前で写真を撮りインスタグラムに載せてからお店に入ってみた。

英国や仏国のアンティークに囲まれた大人の隠れ家的雰囲気の中、ロングの髪の毛を一つに束ねた美人のデキる女性っぽい人が華香を見ると、いらっしゃいませ〜っと、かわいい声であいさつしてくる。

さっきまで日本に居たのに、ここは、まるで本当のヨーロッパのような空間が広がるアンティークカフェになっていて、コーヒーの匂いが店内に漂いながら、テーブルには美味しそうないろんなワッフルを美味しそうに食べているお客様が目に入ってくる。

席に案内された華香は周りの雰囲気を楽しみながらコーヒーの匂いに癒やされる。

美人の店員さんがお水とお絞りを持ってきた。

とりあえずオススメのワッフルとアイスコーヒーを注文する。

華香は店内にあるアンティーク雑誌を見つつ注文したものを待つ

すると一人の店員がやってきて柔らかい大人びた優しい甘い聞き慣れた声が耳に飛び込んで来た…

どうぞ、アイスコーヒーと当店オススメのワッフルでございます。

お互いにびっくりし、声が思わず出る

「えっ??」

華香は聞き慣れた声の店員を見上げる

するとそこには白いシャツに黒のテーラードカラーエプロンを着た大人の落ち着いた雰囲気を漂わす雅人だった。

「雅くんがなんでここにいるの?」

華香の顔を見た雅人はすぐに言った。

「あれ?華ちゃん?」
「あのね、ごめん、華ちゃん実は……」

雅人はお店にいる訳を言おうとすると
入店時に挨拶してくれた美人の店員が雅人の後ろから声をかけてくる。

「あれ?まぁくんのお知り合い? まぁくんお取り込み中ごめ〜ん、ちょっとあっちのテーブル片付けてくれるかなぁ?」

雅人との話しに割り込まれた華香は不機嫌そうに二人を見つめる。

「あっ!真希、了解」
そう言って軽い返事をした雅人は返事の後で華香にの顔に近づき小声で…

「華ちゃん、こので働いている理由はきちんと話すから。仕事が終わったら、また後で連絡するね。」

そう言って雅人は忙しそうにテーブルを片付けに向かった。

華香の目線が無意識に雅人や真希に向いてしまう

華香は気になって仕方ないのだった。

華香は雅人がここで働いている事や、いつも無口な雅人とは別人のように社交的な姿を見て、自分の知らない雅人や真希と親しく会話している光景に、いろんな感情が入り混じり、涙目になりながら、ワッフルを食べます。もはや今の状況が自分で理解できない状態で、珈琲の味もワッフルの味も何も感じられないまま完食して逃げるようにお店を出てしまった。

外は大雨、水たまりを後ろに蹴り飛ばすように泣きながら顔を雨と涙でグシャグシャになりながらも行くアテもなく、ただ、息を切らし、いろんな悪い想像を膨らましながら走る。

なぜ、嘘ついてまで働いてるのか
なぜ、この仕事を内緒にしていたのか
なぜ、本当の事を話してくれないのか

本当は、真希という彼女が居たのか
本当は、華香の事は遊びだったのか
本当は、今が夢だったらいいのに

夢、そう、夢だったら……

そう思いながら息を切らして疲れた華香はビルの壁にもたれながら座り込みずっと泣いてしまっている。

華香は体操座りをしつつ腕を組み、膝に目をくっつけながらつぶやいた。

「な、なんでよ!なんでなのよ」

「カフェで仕事してるって聞いてないし」

「真希って誰よ!そんな女知らないし

「すごく真希と楽しそうに仕事しちゃってさ、私じゃそんなに不服ってこと?」

「もう、嫌、ほんっとに嫌だ……! 」

負が負を呼ぶような、この絶望感に
華香は、ただ、ただ、落ち込んで行くだけだった……

何時間もびしょ濡れになっている華香の身体に雨が当たらなくなった。

空が晴れたのである。

しかし、華香の心は晴れない

そんな時、アスファルトから飛び出して咲いているタンポポを見つけた。

がんばって這いつくばって生えているタンポポを見ながら華香はつぶやいた。

「私はこの、タンポポのように強く生きられない。」

がんばって生えているタンポポに自分が負けてるようで悔しくなり、華香は無理やり息を吹きかけて胞子をとばしてみる

すると濡れているタンポポはあまり飛ばない、

頑張って生えてるタンポポを見て、なぜか再び泣けてくる。

すると晴れた空なのに、なぜか黒い影が華香を覆い尽くす。

目が真っ赤に腫れた華香がその影の方向を見る。

するとそこにはびしょ濡れになり、
白いシャツが泥だらけで前に立っていた。

息を切らしながらすごく心配している顔をした雅人が急に安心したような顔で華香に話しかける。

「オレさ、実はね、」

そう言うと華香は暴れるように

「聞きたくない、雅くんなんか、雅人の声なんか聞きたくない」

そう言いながら耳に手を当てながら顔を左右に振り続ける

すると雅人は前から華香を抱きしめながらこう言った。

「オレさ、華ちゃんに会うまで、本当に根暗で、人と接することが苦手で、何しても仕事が続かなくてさ、そんな時だったんだ、いつも待ち合わせしている公園のベンチでさ、友達と話している華ちゃんを見て、それがすごく輝いて見えたんだ。

華ちゃんがいつも明るく、しかも友達だけじゃない、近所の人や、通りがかる人にいつも挨拶していたでしょ?

オレ、そんな華ちゃんが羨ましくって、いつか、華ちゃんのように、いろんな人と接せれる様になれたらなって、思って見ていた時に華ちゃんがオレに声かけてくれたんだよ!

そんないつも頑張ってる華ちゃんを見習って、このままでは自分はダメだ、そう思い、オレは実の姉のところで働かせてほしいって自分からお願いしたんだ。

ここで自分が変わりたい、頑張ってみたいって、はじめはすぐに仕事を辞めるからって反対されたけど、姉の旦那さんが、お店が忙しい雨の日だけ手伝ってくれって言ってくれて、それから夢中でがんばったんだ。

ねぇ、なぜ、いつもあの公園でデートの待ち合わせにしたいって言ってた理由が分かってた?

あの公園ってタンポポが多いだろ?

どんな所でも頑張って地に足をつけて生きていく、そんなタンポポってさ、必死で咲かせた花を踏ん張って、踏ん張って、黄色い花になり、最後には白くなった大人たちは風に乗って、またその子達は色んな経験を積んで生きていくんだろうね。

タンポポの胞子が無くなっても
頑張って生きているんだよ!

葉っぱや根っこは生きていて冬を越し

花は、葉っぱの集まりの中心から、また新しいつぼみが伸びてきて咲いていくんだよ

タンポポって胞子が全部飛ばされた後って儚い気持ちにさせるよね

でも、まだそこに根を付けて生きているんだよ

本当はさ、もう少し自分に自信が付いたら言おうとと思ったけど、今じゃないとダメな気がする。

だから華ちゃん、聞いてほしい……

これからもこのタンポポのような強い二人で一緒に並んで一生、寄り添って下さい。華香を苦労させる事があると思うけど、こんな頼りない僕と結婚してください。」

そう言って濡れたポケットから出した指輪を華香の薬指に着けに来た。

華香はたくさん泣いて、枯れていたはずの涙が再び流れ出し、声になっていない声で……

はい、よろしくお願いします。

そう言って、二人は結婚をして
5年後、夫婦でカフェを開きました。

お店の名前はドイツ語で…
レーヴェンツァーン

Löwenzahn(レーヴェンツァーン)は直訳すると【ライオンの歯】実はドイツ語のみならず色々なヨーロッパ言語でも、同じものを「ライオンの歯」と表現するんだそうです。
これは何かというとタンポポと言うらしい……

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