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保留された椅子

朝の光を浴びた当駅始発の列車がホームに入ってきた。
ドアが開くと、椅子取りゲームが始まった。

席は次々と埋まり、最後の一席に
おじさんとおばさんが走り込んできた。

二人は席の前でぶつかりそうになり、おじさんは身を引いた。

おばさんは悪いと思ったのか立ち止まり、「どうぞ」と手を差し出した。
おじさんに席を譲ろうとしたのだ。

しかしおじさんはムッとして、無視をした。

その時だ。
後ろから別のおじさんが走り込んできて、保留された椅子にドスンっと座った。

おばさんはしばらく放心していた。
しばらくすると何事もなかったように吊り革につかまり窓の外を見ていた。
席に座れなかったおじさんはすでにイヤホンをして目を閉じていた。
周りの客はスマホを見ていた。

僕は、どうしようもなく嫌な気持ちになり、
会社に行くのをやめたくなった。

はやく家に帰りたくなった。

自宅に戻り、いやむしろ通り過ぎ、
町を出て、野原を抜け、山に入り、
森の中で寝ていたいと思った。

コンコンと寝ていたいと思った。
いつまでも、いつまでも。
寝ていたいと思った。

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