「少女文学 第四号」刊行のお知らせ&神尾あるみサンプル
もうだいぶtwitterやらなにやらで盛り上がっていて、いまさらお知らせを出しても……というだいぶ乗り遅れた感じではありますが、
「少女文学 第四号」が、出ます!
詳細については、紅玉さんのnoteをご覧下さい。
こちらのページに、各作品の扉絵と冒頭サンプルが掲載されています。
「少女文学 第四号」(表紙イラスト・梶原にき)
今回のテーマは「少女×戦争」です!
もうこのテーマを聞いただけでわくわくしちゃいますね。
そのわくわくを裏切らない中身になっているので、ぜひ多くの方の手に届くと良いなと思っています。
それでは、気になる執筆陣をご覧下さい。
執筆者・掲載作(敬称略)
特集『少女×戦争』
須賀しのぶ「魔女の選択」扉・梶原にき
紅玉いづき「戦場にも朝がくる」扉・☆
小野上明夜「蛙になったお姫様」扉・ゆき哉
東堂杏子「あなたはだあれ」扉・狐面イエリ
市川珠輝「竜乗りエッダ―箒星が流れたら―」扉・すみす
神尾あるみ「夜に咲く花」扉・島田ハチ
栗原ちひろ「雛が墜ちる」扉・itsumonoKATZE
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ノンテーマ
津原やすみ(SNS:津原泰水)「恋するマスク警察」扉・鳴海ゆき
若木未生「クウとシオ」
凄くないですか?
毎度凄かったですけど、凄くないですか?
胃をキリキリさせながら、掲載順を見守っておりました。
「少女×戦争」というテーマのなか、予想以上にいろんな方向性の作品が集まっており、一冊通してぐるりと世界一周旅行したような気分になりました。
えー、それから、また例によって例のごとく、今回の刊行を記念して紅玉いづき、栗原ちひろ、小野上明夜、神尾あるみで(概念)居酒屋対談をしています。
とりあえずあの……神尾と猫がどうも申し訳ありませんでした、とだけ言っておきます。両者共に悪気はなかっ…………(黙)
というわけで、最後に神尾のサンプルを置いておきます。
テーマを聞いて、「戦う少女を書ける!!」と意気込んでいたはずなのに、どこをどうしてどうなったのかよくわかりませんが、なぜか書き上がった作品には少女が一人も出てきませんでした。
でも、それでも、少女小説です!
今回の扉絵も、島田ハチさんに描いていただけました!!
見てくださいこの燃える城を!! 見事! 炎上!!
恐る恐るお願いした燃える城を……こんなに見事に……素敵に……本当にありがとうございます。
前回に引き続きまたこんな面倒なものを描いていただき……わたしはそのうち叩かれませんかね。叩かれてもいい……こんな城を見られるなら。
また、タイトルロゴとデザインはゆき哉さんが手がけてくださいました。
かっこいいタイトルをあしらっていただきありがとうございます。
燃える城を背負ったこの男、何者なのか……。
どうぞ物語を読んだ後、このどこか虚ろな瞳をもう一度みて頂けたらなと思います。
いつの間にか夕闇が辺りを包んでいる。春雨に濡れた躰が重く、まるで泥水の中を進んでいるようだった。
「若、急がれませ」
すぐ後ろで、苦しげな声がそう言った。熱い手の平に背中を押され、暗い山中を先へ先へと駆け上がる。否、駆けているとは言い難い歩みだった。鎖帷子が重い。その場に座り込んでしまいたいほど疲れている。それなのに、
「若、追っ手が迫っておりまする」
「朝信様、もっと早う」
若、朝信、と。家臣たちの声が早く早くと追い立てる。
すぐ傍で、ひょうと風が鳴る。直後、前方に火が上がった。 火矢だ。近い。と、後ろで声が囁き合う。急げ、とさらにいくつもの手が背中を押してくる。
いくら急いだところで、無駄だというのに。
矢風が夕闇を切り裂く。そのもっと後ろから怒声が聞こえ、武具のこすれる音が波のように押し寄せる。あ、と短く、衝撃に息が漏れる声がして、背中を押す手がひとつ減り、また新しい手が背中を押す。
若だけはなんとしても、と。御鷹家の存続のため、と。
その手に押しやられて、先の見えない山の中を分け入ってゆく。矢が降りそそぐたびに、ひとつ、またひとつと背を押す手が消えていく。
「若、どうかご無事で」
と、最後の手が離れた。惰性で進んだ数歩を最後に、足が止まる。
最早辺りはすっかり闇に沈んでいる。
新たな火矢が突き立ったそこに、ぼんやりとなにかが浮かび上がった。
それは朽ち果てたちいさな祠だった。苔むした屋根は崩れ、外れた戸板もしめ縄も土に還りかけている。
ひょうと風が鳴り、次いで殴られたような衝撃を感じた。
矢が当たったのだ、と遅れて気づく。躰から力が抜け、膝から崩れ落ちた。投げ出された手が、土に埋もれた鈴に触れ、ちりんとかすかな音が鳴った。
――生きて、また会おう。
城を抜け出すとき、背中にかけられた言葉が、不意によみがえった。どだい無理なことを、平気な顔をして言った男の顔を思い出す。
大嘘吐きめ。当然のような顔をして、無責任な絵空事ごとばかりを抜かしやがる。
……あいつは無事に、逃げただろうか。
追っ手の声が迫っている。
朦朧とした頭では、それ以上なにも考えられなかった。せめて楽に死ねたらいい。
とうの昔に忘れ去られ、うち捨てられた祠に神がまだいるなら。ああ、どうか俺の願いを聞いてくれ。
どうか。
意識は闇に塗り込められていく。
応える声が聞こえた気がした。
まぶたを叩く滴に、起こされた。
緑の匂いのする光が目に飛び込んでくる。薄く開いた瞳が、木々の隙間から落ちてきた朝露に打たれ、再び目をつむる。
「いい朝だ。そうは思わないか?」
突然聞こえた声にぎょっとして、反射的に躰が動いた。途端、肩や肋(あばら)が悲鳴を上げる。軋む躰をようよう起こして声のした方を見た瞬間、痛みなど一息に吹き飛んでしまった。
そこにいるはずのない男が、微笑みを浮かべてこちらを見つめていたから。
「どうして」
ぽかんと口を開けている自分に、その男は小首を傾げた。
「昨晩の雨を、木々も鳥も虫もよろこんでいる。いい朝ではないか」
「そうではない」
男の首がさらに傾いだ。
「なぜ、こんなところにいる。朝信!」
自分が身代わりとなって、城から逃がしたはずの男、御鷹朝信。御鷹家の嫡男であり、ただ一人の跡取り。
その朝信が、目の前で穏やかに笑っている。
白々とした朝陽が満ちる山中、見つめ合う二人の男はまったく同じ顔をしていた。
「おまえが、ここにいるはずがない」
御鷹朝信の影武者、夜は、呆然と呟いた。
(「少女文学館 第四号」本誌へ続く)
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