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2024年6月の読書記録

今後はnoteで読書記録をまとめていきます。

6月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:4675
ナイス数:109

ヴィクトリア朝時代のインターネット (ハヤカワ文庫NF)感想
このタイトルでSFではなくノンフィクションである時点で、もう面白い。遠隔地に迅速に情報を伝達する手段として、インターネットの祖先にあたる電信が18世紀末から19世紀中頃に普及し、次世代の情報伝達手段である電話に取って代わられるくまでの経緯を追う。悪用しようとする人々、軍事的利用、電信の規約(プロトコル)や関連法規、旧世代のメディア(新聞)は廃れる予測の存在まで、電信の普及時に起こったことはインターネットの普及時に起こったことの相似形であることがよくわかる。
読了日:06月02日 著者:トム・スタンデージ,Tom Standage

戦争と平和3 (光文社古典新訳文庫)感想
3巻は貴族社会のゴシップ的描写が中心の戦間期にあたる。とはいえ、ピエールには妻の不倫、不倫相手との決闘、フリーメイソン加入などいろいろなことが起こる。人間描写には所々唸らされた。
読了日:06月03日 著者:レフ・ニコラエヴィチ トルストイ

戦争と平和4 (光文社古典新訳文庫 Aト 3-10)感想
ナポレオン、フランス軍を率いてモスクワに迫る。戦場では命のやり取りが行われているというのに、モスクワの貴族社会では緊張感があるんだかないんだかよくわからないような印象を受けたが、近代的な国民国家の総力戦ではない当時の戦争とはそういうものだったのかもしれない。歴史家の分析を批評するトルストイの筆致はどこか銀英伝っぽい。
読了日:06月07日 著者:トルストイ

戦争と平和5 (光文社古典新訳文庫 Aト 3-11)感想
ナポレオン率いるフランス軍、モスクワを陥落させる。だがそれはロシア側の焦土作戦の一環で……。瀕死の重傷を負ったアンドレイは退場し、物語も大詰めに近付く。それにしてもオステルマン=トルストイ伯爵は作者自身の同族かと思ったら違うようで、それも実在の人物だった。
読了日:06月07日 著者:トルストイ

戦争と平和6 (光文社古典新訳文庫)感想
敗走するフランス軍とそれを狙うゲリラ兵との戦い。エピローグはピエールやニコーレンカなど残された人々の様相と作者の歴史論。ナポレオンもクトゥーゾフも意志を十全に発揮したわけではなく、逆に意志を欠いていた、とする作者の見解は「歴史は一握りの英雄ではなく数多の民衆が作るもの」という歴史論が垣間見えると同時に、クラウゼヴィッツの言うところの「戦場の霧」ようなものを感じた。終始土の匂いがする、絢爛にして浩瀚な作品だった。
読了日:06月12日 著者:トルストイ

物語 オーストラリアの歴史 新版-イギリス植民地から多民族国家への200年 (中公新書 2741)感想
実は一生に一度に行ってみたい国の一つがオーストラリアなので読んでみることにした。英国の植民地を経て1901年に建国したオーストラリアにとって、米英中と並んで日本が、環太平洋地域の国としていろいろな意味で因縁が深い国であり続けてきたことがよくわかった。面白かったのは、明治維新以降の日本の動向を警戒していたが、日露戦争では反露感情から日本側についたあたりの経緯。悪名高い白豪主義から多民族主義政策に転換したことに、人道主義というよりはリアリズム的背景があったのも興味深い。
読了日:06月18日 著者:竹田いさみ,永野隆行

中国哲学史-諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで (中公新書, 2686)感想
今まで読んだ中国思想関連の本は、儒教の仁義礼智といった徳目や修身・斉家・治国・平天下のような為政者の心構えを説いた四書五経のような著作のテキストの解釈が中心だったが、本書は道教や仏教を含む中国の伝統的思想と西洋哲学をシームレスに接続する内容。一般的に中国の思想というと儒教を中心とする、静的で古色蒼然とした印象がある。だが、仏教など外来の思想との接触を経てパラダイムシフトを起こしてきたこと、近代西洋と対峙するため、中体西用に留まらない哲学としての近代中国哲学の確立を図る奮闘があったことがわかった。
読了日:06月21日 著者:中島 隆博

台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書 2803)感想
著者の専門分野がアメリカ政治ということもあり、アメリカとの共通点と相違点や台米関係に関する記述が多い。国民党と民進党の対立、デジタル民主主義の危うさ、多民族国家としての台湾など、台湾の民主主義の「現場」をうまく取り上げている。台湾は1996年に総統を直接選挙で選出する制度を導入し、2000年に初の政権交代を実現して以来、民主主義指数がアジア勢トップで、同性婚など本邦でも遅々として進まない制度の導入に成功している。対岸に中国を臨みながら中華圏の民主主義最後の灯火を掲げ続けている台湾の今後や如何に。
読了日:06月24日 著者:渡辺 将人

「逆張り」の研究 (単行本 --)感想
Twitterでのリベラルvsアンチ・リベラルの抗争に関する話題が多く、研究というよりも軽めの社会派エッセイという感じ。元々投資用語だった「逆張り」がここ10年ほどで広まり、「逆張り冷笑おじさん」「逆張り野党」みたいに、世間の良識や倫理道徳を冷笑したり、多数派と逆の言動を取ったりする人、などのレッテルとして機能していることを論じている。「人それぞれ」の相対主義やどっちもどっち論に疑問が呈される中、「逆張り」について考えるきっかけになる本。
読了日:06月25日 著者:綿野 恵太

オッペンハイマ-: 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか (中公新書 1256)感想
ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』を見て読んだ。米国内の原子力行政や核の国際管理など、政治分野にも積極的に関与した「原爆の父」の評伝。映画でも描かれたが、優秀な物理学者としての一面だけでなく、ギリシャ語やサンスクリット語を習得したり、乗馬などの趣味を持ったりと、高度かつバランスの取れた知性の持ち主だと思った。彼ほどの知性の持ち主でさえ、事前に原爆の恐ろしさに思い至らなかったのがかえって印象深い。あの映画が割と史実に忠実だっんだな。
読了日:06月27日 著者:中沢 志保

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)感想
アウリンを手に入れたバスチアンが増長し、何でも思い通りにしようとする度に自分にまつわる記憶を一つずつ失っていくのが切ない。そして、すべての記憶を失った彼を元の世界に戻したアトレーユとフッフールの友情の麗しさよ。一人ひとりにそれぞれ異なった「はてしない物語」があるという語りかけがとても印象的だった。「生命の水」とはバスチアンが壮大な旅の末に見つけた「愛」のこと、と表現すると神話のようにも思える。
読了日:06月30日 著者:ミヒャエル・エンデ

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