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高円寺の珈琲店

 高円寺にある珈琲店が好きだ。

 まず、店名が好きだ。「喫茶」ではなく、「珈琲」店。そんな名前の店は地元にはなかった。また、「喫茶店」はおしゃべりをする場、にぎやかな社交の場というイメージだが、「珈琲店」と聞くとシュッとしている、背筋を伸ばして珈琲そのものを楽しむ店という感じがしてくる。

 次に、立地が好きだ。この珈琲店は、かの皆さんご存知スターバックスコーヒーが進出していないことで有名な高円寺にある。高円寺といっても駅前周辺ではなく、商店街を通り抜けて駅から10分ほど歩いた住宅街の中にひっそりとある。それがいい。

 そして、遮音のためか少し重たい扉を、ぐっと開けるとすてきな店内が待っている。少し薄暗い店内。縦に細長く、カウンター5,6席ほど。ガスコンロの上には年季の入った手廻しロースター。食器棚の上のスピーカーから流れる心地よいジャズ。と、マスターの丁寧な「いらっしゃいませ。」が出迎えてくれる。

 私はこの珈琲店で深煎りの珈琲を覚えた。また、「ネルドリップ」という抽出方法も知った。深煎りの珈琲を注文すると丁寧に時間をかけて、少しずつお湯を落とす「点滴」と呼ばれる淹れ方で珈琲が抽出される。その所作に惚れ惚れする。静かに眺めて待つゆっくりとした時間がとてもよい。何度も通って好みになったのは、シンプルにブレンド、かインドネシア・マンデリン トバコ。アイス珈琲もとても美味しい。他にも、季節によって世界各地の珈琲豆が選べる。ブラジル、エチオピア、タンザニア、イエメン、タイなど。

 苦味だけでなくコクと芳醇な香りの珈琲。この珈琲に添えられる邪魔しない甘さの甘味がこれまたとても美味しい。私はこのお店で「チョコレートテリーヌ」の味を覚えてしまった。さらに、季節限定で「水羊羹」もメニューに並ぶ。珈琲には洋菓子という先入観が覆された。四角く切った艶やかな金箔のかかった水羊羹。これと深煎りの珈琲がとても合う。夏には水羊羹とアイス珈琲。この組み合わせで何度幸福を味わったことか。皆様にも是非、深煎りの珈琲と水羊羹の組み合わせを試してほしい。

 夏は冷たい水、冬は白湯が出てくる、珈琲店のお話でした。




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