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父親がおっぱいアイスをめちゃくちゃねぶりながら食べてたから流石に注意した話

おっぱいアイスというアイスをご存知だろうか?
形態としては無味無臭のゴムの中にバニラやチョコレートのアイスが詰まっており、先端の突先部分をハサミで切る事で、少しずつ中身のアイスが出てくる。
そしてゴムを押しながら、その突先部分を吸い出すという独特な食べ方と食感が楽しめる。
「ボンボン」「風船アイス」「たまごアイス」など色々な名称があるようだが、見た目と食べ方から「おっぱいアイス」という名称がより一般的かと思う。

実家近くにシャトレーゼがあった事もあり、我が家の冷凍庫には頻繁ではないものの、このおっぱいアイスが身を潜めていた。



当時23歳の僕と中3の弟はリビングで何気なくテレビを見ていて、母親はキッチン、父親はダイニングテーブルでスマホをいじっていた。
4人家族の何でもない普遍的な光景。

「ガラガラガラッ」
背後の冷凍庫が開く音がした。
何となくの気配で父親が冷凍庫からアイスを取り出した事は分かったが、僕と弟は気に止めずテレビに夢中のままだった。
数分後、先程の「ガラガラガラッ」の音が耳に残っていた僕はパブロフの犬のごとくアイスが食べたくなり、キッチンに向かおうとおもむろに立ち上がった。


すると、眼前に広がる衝撃の光景。
「グチュッ、ズリュリュッ、ジュジュジュジュゥ〜」
47歳の父親がおっぱいアイスを貪るようにねぶりながら食していた。

「、、、、、」
あっけにとられすぎて、僕はその場に立ち尽くした。
言われてみれば今まで1度も父親がおっぱいアイスを食べている瞬間を見た事が無かったし、父親がどのようにおっぱいアイスを食べるのかなんて考えた事も無かった。
僕と弟が主に好んで食べていたので、母親も息子達の為に買ってきてくれていたのだと思う。
僕は、おっぱいアイスをこれでもかとねぶって食べる父親の行動が、一体どの種類の欲望を満たす行動なのかは分からなかったが、とにかくその時に強く思ったのは

「もうそれをそうやって食べるって事は、そういう時もそんな感じって事やん!!」

だった。


家族4人の普遍的な光景は一家の大黒柱の手によって完全に壊されたが、亀谷家の長男として、いや1人の人間として、僕は父親に注意した。

「流石にねぶって食い過ぎや!」

父親は一瞬何の事か分かっていない困惑の表情を浮かべたが、すぐに事態に気付いたのだろう、突先部分だけでなくゴムの三分の一ほどを頬張った口をもとに戻し、その数秒後、強烈な恥ずかしさからか大胆に笑い出した。
人は無意識の行動を指摘され、そしてそれが許容量以上の恥辱であると笑う事しか出来ないらしい。

私立大学まで出した自分の息子にこんな情けない姿を注意されるなんて。
その時の父親の恥ずかしさは計り知れないし、もしかすると僕は父親の尊厳を傷付けてしまったかもしれない。
それでもこの状況は、中3の多感で複雑な思春期を過ごす弟のためにも僕が対峙するべき事態なのだ。
実父の恥ずかしい部分を目の当たりにした時、息子はその恥ずかしさの倍以上に恥ずかしさを感じてしまう。
それが父子関係というものだ。
弟も恥ずかしさの入り混じった表情で大笑いしていた。


とは言え、これが家庭内で起きた事件で良かったと思う。
もしも数十年前、父親が母親の実家に結婚の挨拶に訪れた際、お茶とおっぱいアイスが出てきていたら、確実に結婚を許されていなかっただろう。
もしも数十年前、父親がマイホームを購入する為に不動産屋を訪れた際、お茶とおっぱいアイスが出てきていたら、確実に住宅ローンの審査に通っていなかっただろう。
もしも数十年前、ジョン・F・ケネディの暗殺犯の特徴が“おっぱいアイスをねぶって食べる奴”だったら、父親は重要参考人として国際指名手配されていただろう。



勇気を振り絞って注意したおかげで、今日この日以降、父親はおっぱいアイスを京美人のように慎ましく食べてくれるはずだ。
そんな事を考えながらふとキッチンに居る母親を見た。
母親は顔を赤らめてとても照れ臭そうにしていた。



「ほなもう確定でそうやないか!!!」











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