常設展「夢路をたどる」開催にあたって 蛯子睦月インタビュー
※ 新設ギャラリーならびに、常設展のプロモーションを含みます。
きっかけは、思いがけないお誘い
──普段の活動拠点は主に京都で、職場も京都、ご出身の高校も大学も京都と、大阪とは接点が少ないように思えますが、今回の常設展に至った経緯を教えてください。
蛯子睦月(以下、蛯子) 常設展に至った経緯は、ギャラリーのオーナー様が父の仕事仲間で、「ギャラリーの開店にあたって、作品を展示しませんか」とお声掛けいただきました。急なお話でしたが、今年2月に個展を開いたばかりで展示準備を整えた作品が揃っていたので、対応することができました。2月の展示がなかったら、大慌てだったと思います。
──その2月の展示も、急な声掛けだったんですよね?
蛯子 そうです。2月の展示会場になった先で勤めている友人がいて、「ギャラリーのスケジュールで2月に空きがあるので展示をしないか」と前年(2022年)の11月頃に声がかかり、額装や大きい作品の準備に追われながらもなんとか開催することが出来ました。描き溜めていた作品があったものの大きな会場を満たすには足りない状態だったので、急遽描き足した作品が沢山ありました。
今回の会場にある小さな作品は、2月の展示直前に描いたものです。
──今回どの作品にも猫が描かれていますが、小さめの作品の猫は大きめの作品の猫と雰囲気が違うように思うのですが。
蛯子 F10号前後の作品は、その時々の自分由来のものを描き表した作品になるため、愛猫を描いています。ポストカードも含めた小さな作品は、人の手に渡ることを意識して描いているので、描き込まれている猫は愛猫とは違い、鑑賞者の皆さまそれぞれが思い描く猫、皆さまの中にある猫、として描いています。
ギャラリーとの調和を意識した常設展
──これまでの個展と比較して、今回の常設展はどう違いますか?
蛯子 今までの展示は比較的広く、遠くから作品を鑑賞できるような場で開催してきました。カフェスペースのような公共の場では、自分の作品がどのように見えるのかなど、それまでは知り得なかったことを学ぶ良いきっかけとなりました。
今回お世話になるギャラリーアンドシングは、小部屋で仕切られた、作品との距離が近い会場です。私の今の作風からすると、ザラリとした質感や、近づいて鑑賞することで分かる細部のこだわりを発見できたり、現地で肉眼で鑑賞しないと伝わらない色合いの機微を感じやすい展示になっていると思います。
初回の個展は初めて自分ひとりでつくりあげる会場に、今までお世話になった仕事関係の方々や友人、家族に来てもらい、自分の経験や発見、そして学びの成果を見てもらえることが出来たら良いなという想いが一番にありました。
今回は「自分を先行させたくない」という思いがあったので、初めての個展とは違うコンセプトになっています。
──それは何故ですか?
蛯子 展示会場が近隣にお住まいの方々が利用される、老若男女が行き交う商店街の中にあるということが最大の理由です。そんな場所へ新設されたギャラリーの展示は、近くの人々と寄り添うことが出来る内容にすべきだと考えたからです。
今後ギャラリーを利用される方々の作品とも、調和しやすい内容になっていると思います。
今回DMに使用した作品「しんしん」も、どんな人が鑑賞しても身近に感じられて、見どころが沢山あるという周りの意見を参考に選びました。
日本画の学びが、今に繋がっています
──触れてしまいそうな距離で見ると、どの作品も不思議な質感、ちょっと変わったタッチだと思うのですが、これらも日本画の影響なんでしょうか。
蛯子 アクリル絵の具でも、日本画の絵の具のような質感を出したいと思って実践したという部分はあります。質感というよりも、描く対象への向き合い方や、自分自身の姿勢を見つめ直す、という点での影響は大きいです。
──京都出身だから、日本画を選んだのでもなく?
蛯子 美術系の高校に進学した時点で描く行為を続けたい気持ちが一番にあったことと、「京都に住んでいるならば日本画だろう」という漠然としたイメージが子どもながらにあったので、その思いのままに専攻しました。実際に日本画で使われる岩絵具を触った時、その質感が気に入ったことも、日本画を選んだ大きな理由でした。大学進学時も、「京都の公立の美大ならば日本画を学ぶ」というイメージがあったので、迷わず高校での学びの続きとして日本画専攻へ進みました。
今はアクリル絵の具を使って絵を描いていますが、先ほどお話ししたように、描く対象へ誠実になること、向き合う自分自身を見つめ直すこと、描くと言う行為自体の精度の高さを求めることなど、描く人間としてのあるべき姿というものを、私は日本画から学んだと思っています。
これからも、絵を描くために生きていく
──ご自身のプロフィールには生まれ年と学歴、「OWL美術研究所 講師」しか書かれていませんが、ご自身で自分の肩書きを自称する、自分はこういう人間だとラベルをつけるなら、何になりますか?
蛯子 主な生業としての画塾の講師は、自分に向いていると思っています。教えることによって自分の学びにもなるし、気に入っています。また、自分が何のために生きているかを考えると、絵を描くために生きているとは言えます。描くことに興味があり、普段の生活の延長線上に描くという行為が必ずあります。それは何かのためや誰かに指示されたことではなく、自分で決めたことです。それらを踏まえると「絵を描く人」ということになるかもしれません。
──今後はどんなことをしたいと思っていますか? 例えば、次の個展とか。
蛯子 そういうのも、あまり欲がありません。個展を目的に作品をつくることも、好きではありません。描くこと自体に誠実になるべきであり、邪念の入らない状態で向き合いたいと思っています。
画面を目の前にして絵を描いていない時でも、頭の中には絵にする時のための物の見方が働いているし、それは本を読んだり、作品鑑賞に出かけたり、身体が向くままに散歩したりすることです。
そういう日々を積み重ねることが出来た後に作品が溜まって、自ずと次の個展の予定が立つ、というのが理想ですね。
今後、今回展示にある作品よりも大きなものを描きたくなる時がくるかもしれないし、絵を描く日々のご縁で私にお声がかかるようなことがあれば、いつでも応じられる自分でいたいと思います。
──最後に、何かメッセージがあれば。
蛯子 ギャラリーや絵画鑑賞を特別なものだと思ってもらいたくないし、生活の中に自然と「身近にあるもの」だと思ってもらいたいです。今回の展示は気軽に見てもらえる内容になっています。商店街散策のついでに、遊びに来てみて下さい。
常設展 蛯子睦月「夢路をたどる」
会期:2023.10.23〜
開館時間:11:00〜19:00
休廊日:火・水曜日
会場:gallery &sing
住所:〒545-0011 大阪市阿倍野区昭和町1-16-12(文の里商店街内)
電話:06-6786-8751
メール:info@and-sing.com
HP:https://gallery.and-sing.com
※ 他の展示会の開催により、常設展の展示を中断している場合がございます。詳しくはホームページの展示会情報をご確認ください。
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