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フィアット 500e Pop(2022年モデル) 2/3

食わず嫌いにこそ体験してほしいワンペダル

やはりこのサイズ感とキビキビ具合の本領が発揮されるのは街中だろう。
EVはガソリン車のようにアクセルを踏んだときに一瞬身構える「タメ」がない。
トランスミッションの反応を待つことなく素直に加速が立ち上がるから咄嗟の動きにスッと反応できる。これはモーターの大きなメリット。ウオーン! と無粋なエンジンの呻りが室内に充満しないのは本当に良い。どこまで行っても静粛。タイヤノイズもさほど気にならないレベルだった。

静粛さから生じる同乗者との気まずさにも慣れたころ、ドライブモードを変えて走る面白さに気づいた。
とりわけ「ノーマル」モードよりちょっとだけ強いブレーキが利く「レンジ」モードは、気軽にワンペダルドライブを楽しめる。10年以上前、BMW i3でおっかなびっくりで体験したころに比べたらとても自然だ。
「アクセルペダルだけで停止も発進もできるなんて信じるものか」と自分にかけていた呪いはあっという間に解けた。
クラッチペダルがなくても操る喜びがあるじゃないか。
アクセルのオン/オフに小気味よく反応するから、MT車を運転するようなリズムでフロントタイヤに荷重を加えチャキチャキとコーナーを曲がれるのが面白い。

思えばいろんなところに音量スイッチがあるクルマだったな

右足に神経を集中させてワンペダルだけでどこまで行けるか試すEVのオーナーがいると各所で聞くが、その気持ちには共感しかない。
ゲーム感覚と言えば不謹慎かもしれないけれど、誰でも挑戦したくなる衝動がある。最終的に運転がスムーズになるのだから悪くないかもしれない。
けっきょく街中のストップ&ゴーで違和感なく使えるので「レンジ」モードを多用してどこにでも行っていたと思う。
停止するかしないかの絶妙なタイミングでブレーキランプが点灯する芸の細かさにも感心した。メーターに表示されている車体のグラフィックも同じタイミングでブレーキランプが点灯することに気づいたときは思わず声を上げてしまった。
上手いなあ…。もしかしてほかの最新のやつはみんなそうなのか。
ただ「レンジ」モードより強力な回生力が得られる「シェルパ」モードは、名前の優しさとは裏腹に極めてハードな性格で、気まぐれにスイッチを合わせた時は必ず後悔するシロモノだった。
不意に(って自分でアクセルを操作しているのだが)首を後ろにガックシと引っ張られるので、どうしても最後まで仲良くできなかったことを告白しておきたい。誰がいつどんな目的で利用するのだろう。よほど眠いときに選ぶのか。だとしたらいったん寝たほうがいいと思う。

貧弱な充電インフラ

いっぽうで残念だったのがニッポンの充電インフラだ。
こればかりは利用してみないと気づかない。
メディアで扱っているレベルほど市井に浸透していない印象を抱かざるを得ない。
EV化をやっちゃえと盛んに拡めているメーカーのディーラー担当者がまったく充電装置に詳しくなかったり、いざプラグを差し込んでみても充電が始まらない装置があったりと、クールでクリーンな印象とはほど遠い体験をさせてもらった。
充電器にはサポートセンターに繋がる通話装置が付いているのだが、先方の担当者も頼りない。いっこうに問題が解決しないので、少ない充電量を気にしながらほかの充電設備へと移動する、なんて場面もあったほどだ。
移動するたびにCHAdeMOの巨大なアダプタをワッセワッセと引き抜き、ワッセワッセとラゲッジに積み込む様子は情けないメン・イン・ブラックそのものであった。

普通充電は異様な遅さ(当然か)

さらにその酷さに拍車をかけているのが充電スポットを利用するためにアクセスしなければならないWebサイトの存在だ。なんのための会員登録なのだろうと利用するたびに首を捻ってしまった。
ときどきしかEVを利用しないであろうビジター会員にはとことん冷たい設定になっている。
充電装置との相性が悪いとログインを何度もさせられるし、決済のためのクレジットカード番号をその都度入力しなければならない。
充電スポットの検索結果と現地で充電を開始させるための画面がまったく連携されていないなど、頭のどの部分を使ったらそうなるのか、どういう事情でこういう結果になったのか、じっくり話を聞いてみたいと思ったほどである。
それを短時間で何回もさせられるユーザーの気持ちを考えて欲しい。

驚くべきなのはそれらすべてがスマートフォンの画面に表示が「最適化されていない」のだ。
どこの誰がPCを持ち歩いて電気自動車を運転するというのか。
クレジットカードの番号をスマホに最適化されていない極小の入力枠に指を合わせ、チマチマ数字を打ち込むのは人工衛星で指定された個室居酒屋のお猪口に日本酒を注ぐぐらいの難易度である。
DXがどうのこうのと寝言を言い出し、ボタン一個の仕様を決めるのに不毛な会議ばかりを続ける間抜けなニッポンの象徴的なWebサイトおよびアプリの開発実態が透けて見えたような気がした。

まず、急速充電の課金システムについて概略を説明しておくと、今、日本国内に整備されている充電インフラのほとんどは「NCS(日本充電サービス)」に加盟して、NCSの課金システムを採用しています。でも、NCSには会員カードを持っていない人が充電器を利用するための「ゲスト充電」の仕組みがなく、それぞれの充電器ごとに設定されたさまざまな認証システムを使って充電する必要があります。
ちなみに、NCSウェブサイトの利用方法説明には「カードをお持ちでない方(カードをお忘れの方)は充電器本体等に記載のビジター利用でご利用いただけます」と説明されていますが、詳しい案内はありません。あと、充電スポット検索アプリ『EVsmart』では、各充電スポットのゲスト充電の際のビジター料金や認証方法の種別などを確認することができます。

https://blog.evsmart.net/charging-infrastructure/quick-charger/how-to-quick-charge-without-a-charging-card/

ううむ。心底知らんがな、という話。だいぶ噛み砕かないと浸透する気がしない。
カーシェアやレンタカー利用が増えるであろうこれからの時代、どうするつもりなのだろう。ましてやそこが僻地で充電スポットがそこにしかなかったら…。
余計なことながら心配になってしまった。
(つづく)