見出し画像

あをによし日帰り旅行〜蕎麦屋のおいちゃん②

↑のつづき

いらっしゃいませと通されてカウンターに座った。
①で店主の風貌を書いたけど、筆者の目には「店主」「マスター」というより、「おいちゃん」が表現としてしっくりくる。そんな方だった。

店内の雰囲気はどちらかというと、夜がかきいれどきな感じ。カウンター席の背後に座敷、頭上には造り付けの棚に伊万里焼のお椀が一面に飾られていた。おいちゃんの趣味らしい。

休みの札をかけているのは「…いっぱい人来ちゃうと大変だから ヘヘッ」とのこと。夜の仕込みの兼ね合いで、昼は調整しているんだろう。


注文はざるそばと、揚げ出し豆腐。そばだけにしようかと思ったところに「揚げ出し豆腐」の文字がチラついてダメだった。

そばは薄い色で細麺。量は男性は物足りないかなというぐらいで、個人的にはちょうど良い。暑さのせいもあって、トゥルントゥルンの冷えた喉越しがありがたかった。

揚げ出し豆腐はだしてくれる前に「これぐらい量あるけど大丈夫そ?」と確認してくれた。ナイスホスピタリティ。
そしてこれがまさかの大当たりで感動することになる。

まず豆腐はフワトロ、衣は軽いのにジューシーなのだ。加えて出汁の旨み。あっさりしているのに、味の層を感じる。養生食にも良さそうな優しい味。
「出汁って何?」と聞かれたときの模範解答になる品。
出汁が食欲を増進させたおかげでケロッと食べてしまった。
「お味は?」と聞かれたので「めちゃくちゃ美味しいです👍」と返した。

最後に「春日ぜんざい」なるものを食べた。これはこの店だけのオリジナルメニュー。甘酒に黒豆と、隠し味には白味噌が入っている。こっくり・まったりな逸品。 冬場に屋台で出してほしい。


鹿〜


そこからポツポツと世間話をした。
具体的な内容は忘れてしまったけど、どこから来て、どうやってこの店を知ったかとか、そんなことだったと思う。

話していると、おいちゃんが何か思い立ったように作業場の隅をゴソゴソ。
「これあげる」
手渡されたのは、薄緑で切符よりも少し大きいぐらいの券で、なんと東大寺の無料参拝券だった。

「近所に住んでる人間はもらえるんよ 余ったからあげる」
そんなものがあるのか…!と軽く衝撃を受ける。ちなみに東大寺大仏殿の拝観料は大人1人/600円。
しかもよく見ると券の期限もだいぶ長い。
観光地って地元の人間ほど行かなかったりする。



ふらっと入ったそば屋さんで、こんなお得に巡り合うとは。旅の醍醐味を味わえて嬉しかった。

そしてまた奈良に来れる。来れるというより呼ばれたに近い。

その後、別日にその券を使って友達と東大寺に向かった。ご飯は友達の好みもあって、おいちゃんの店には行けなかったけれど。

筆者は退職して地元の北海道に帰る直前。
大仏様には今まで楽しかったことのお礼と、気軽に来られなくなってしまうけど、これから頑張れますようにと念じておいた。



その日を最後に奈良には行けてない。
あのお店、おいちゃんは元気にしているだろうか。

『あをによし 奈良の都〜』の和歌のとおりだといいな。



ここまでありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?