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詩1編~喫茶紫煙



#喫茶紫煙


ふるさとの廃墟の街の

崩れたビルの残骸にある

ちいさな駄菓子屋

紫煙

昔とかわらず

はっかパイプをくわえた子供たちが

木の長椅子をきしらせていた

必ず帰ってくるんだよと

ここのお婆さんと約束したような

思い出をたよりに

帰ってきた

満面の笑みにくしゃくしゃになり

僕を迎えてくれるただひとりの人

店先のはっかパイプを手に取ると

本当の煙草は知らないのだねと

もう二十歳なんだからと

店の奥にいざなう

煙草なんて世界から消え去り

何十年たったことだろう

そんなものがあるわけがないと

きしむ扉をあけて

押されるように僕は

紫煙たなびく

喫茶紫煙にいた

そこにいた女性は

僕の妻だとわかった

ここは僕の店

紫煙のなかで

喫茶店主として幸福な人生を

僕と彼女は生きた

やがて煙草は禁止され

喫茶紫煙は閉店を命じられた

すべては統制され

世界から紫煙は消えた

紫煙をながめ思索する時間も失われ

正義と正義の対立は歯止めをなくす

ついに時空を歪めるプラズマ兵器が

はずみで作動する

一瞬の閃光ののち

僕は廃墟の孤児になっていた

紫煙のお婆さん

二十歳の僕は帰ってきたよ

あなたの人生の伴侶として

二人は再度開かずの扉にむかう

その先にあったのは

すべての生物が滅びた海

僕たちは裸になり

始原の細胞となりいだきあう

海の心のゆらめくままに

ああ紫煙のごとき銀河のした


       画像、ハッブル宇宙望遠鏡、Google

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