見出し画像

小詩集・こもれび

こもれ日のあたたかい午後

巣立ちの雀が親に甘え

口うつしにエサをねだる

なさけうるわし

わが老いの年代記

こまやかな葉陰にしるす

よみびとしらず

ふかきかなしみを

おだやかな風となして

徹夜あけ

光をもとめ

徘徊す

光あり

満ち足り

静謐なる

わが老いの季節を刻む

私鉄の支線の終点の駅前で

おじいさんが胸にプラカードをさげて

なにか言いながらうろうろしていた

「人は右車は左を守りましょう」

おじいさんにはそれが

人生をかけて訴えたいことなんだ

正しいことを語りたいんだ

僕は思い出して涙がにじむ

たしかに

人は正しいことを語る情熱を喪い

こざかしく嘘をつかなければ

あるいは嘘を信じなければ

生きてゆけなくなった

駅前を流れる女神伝説のちいさな川をみつめ

真実を求めるかなしみを問うた

おじいさんお元気で


写真、京阪私市(きさいち)駅wikiより

逆光の影に

風景が潜むなか

水だけが

光をとらえる


僕の前には

光の道があるのだろうか

無い

あくまでも水のイリュージョン

僕の前には道などない

僕は影を観察する

幻影は追わず

水の実体を見定める

小夜曲


夜はなぜ暗いのかと

悩んだ天文学者がいた

宇宙には無限の彼方まで銀河があり

夜空にはいくら微細とはいえ

無限の銀河の光で満たされたなら

夜空は明るいはずだと


ひとつの答えが宇宙の膨張

遠くでは光の速度以上の速度で

宇宙は遠ざかっているから

そこからは光は届かない

どんな情報も知るすべはない


もし今宇宙の膨張が止まったなら

あふれる宇宙放射線に

すべての生き物が滅びる

ニセモノの神様が

光あれとのたまうと

僕たちがみんなだまされるように


夜は暗いから

僕たちは生きられる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?