見出し画像

Junk Arrow

Kurt が昼飯とショッピングとドライブを兼ねて、アパラチア山脈を見に行こうといってくれました。そんなに遠くはありません、車で1時間ほど西に走れば、ノースキャロライナの人たちが「Blue Ridge Mountain」と愛情こめて呼ぶ、青い峰の山々を一望できるのです。

短いドライブの途中で見つけた、小さなハンティングショップに立ち寄ってみました。もちろん多くの銃やフィッシング用品、そしてアーチェリー用品もありました。そこで驚いたのです。本当に小さなショップ(日本のアーチェリーショップよりは遥かに大きいですが)の中の一角に、これまで見たこともないような大量の「完成矢」が、箱に入って床に並べられているのです。もちろん日本より遥かに安い価格でです。

これは日本にいたのでは考えもしない、アメリカのアーチェリーの現実なのでしょう。アメリカのハンティング事情は、州や地域そして獲物によってすべて規制は異なります。一般的に春から夏にかけては動物の子育ての時期であり、プロテクトされている場合が多いようですが、そうなると逆に10月頃から年明けにかけての今はハンティングシーズン真っ盛りということです。そして獲物にもよりますが、一般には弓でのハンティングが銃より先に解禁され、期間も長いようです。ここアパラチアは、ナショナルパークなので、禁猟区ですが、例えばここより北のペンシルバニア州でどれくらいのボウハンティング人口があると思いますか。弓でのハンティングは、銃と違って所持も狩りもライセンスが不要な場合がほとんどなので正確にはわかりませんが、「300万人」とも言われるようです。
もしこの連中が、1シーズンに1ダースの矢を購入すると考えれば、その数は3600万本です。これがアメリカ全土になれば、想像もつきません。日本はペンシルバニア州の1%にも満たないマーケットなのです。まずはこの背景を理解しなければ、全体を見誤ります。ではこれらの矢がすべてカーボンアローかといえば、そうではありません。
Kurt は、ここに並んでいるような矢を「Junk」と呼びます。カーボンシャフトだけでなくアルミシャフトも、これらは品質や精度においてガラクタだというのです。確かに日本で試合に使っているような矢はありません。実際、これだけ巨大なマーケットを形成するアメリカにおいて、90%以上が「Junk」で占められているのが現実です。最大の理由は、ハンティングアーチャーの中で、弓やスパインの選択やチューニングをちゃんとできる連中は10%にも満たないからです。年に1度だけ物置から弓を取り出したり、買ってきたパック詰めの弓のセットで裏庭で射つ程度のアーチャーにとっては、スパインや12本の均一性など問題にならないのです。
そしてこの現状に拍車を掛けるのが、輸入品の増加です。品質、精度、性能を気にしないのであれば、矢のカタチさえしていれば安いに越したことはありません。そのため、中国、韓国に加え、近年はメキシコ、ブラジルをはじめとする南米諸国からの「Junk」輸入が大きく増大しています。その中にはもちろん、日本でおなじみのブランド名がプリントされた矢も多く含まれています。

話は違いますが、日本にいると隣国に輸出するので、カーボン繊維を売って欲しいという問い合わせがあります。問題はその中身です。カーボンのグレードも状態も示さずに、「カーボンをコンテナ1杯」欲しいというのです。怪しげでもありますが、意味が分からないので知り合いの新日本石油の方に聞いてみたのです。するとどうでしょう、この業界では「コンテナ1杯」や「コンテナ2杯」という単位が存在するというのです。それらは先の「Junk」を生産する国からのオーダーらしいのですが、はっきり言えばカーボンの屑です。
日本のカーボン繊維は世界一です。しかしそんな高品質を欲しいというのではありません。製品を作った時に出た、捨てるカーボン繊維の切れ端を、グレードも状態も関係なく、コンテナに詰め込んで取り引きされるらしいのです。それがどうなるかといえば、某国で釣竿やラケット、そして矢やリムに化けるというのです。精度や設備、ノウハウが「Junk」なだけでなく、中身も「Junk」というわけです。しかし製品になれば、中身までは分かりません。それもまた現実です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?