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折れたからって、叫ぶんじゃねえ!

性能以前かもしれませんが、弓には「耐久性」という性能があります。速い球が投げられても、コントロールが良くても、続かなければ壊れては仕方がありません。
リムが「壊れる」ことは、あまり知られていないというか、隠されるために見過ごしがちですが、折れたり剥がれたりするリムは、あなたが思う以上に世の中にはたくさんあるのです。あまり認識がないかもしれませんが、アーチェリーのリムほど湾曲、変形、復元し、そこから性能を得るという道具は少ないのです。テニスラケットやスキー板と比べても、リムがどれほど曲がり、跳ね返り、炎天下の過酷な条件で使われ、性能を求められているかがわかるはずです。
そのため、高価なリムや高性能を謳う競技用モデルほどトラブルを抱えています。理由は、これらのリムが高ポンドなのに加えて、速さを求めるため、CFRPの板の接着枚数が多く、高速、高反発で復元を繰り返すためです。そこで、性能と耐久性を両立させようとすれば、素材や設備だけでなく、知識やノウハウが不可欠となるだけでなく、何に重点を置き、どんなリムを目指すのかという、メーカーとしてのポリシーが問われるのです。

リムが「壊れる」時、どんな状態を思い浮かべますか。リムが折れると、アーチャーは「折れた!」と大声で叫ぶか、人によっては「クレーム」として勝手な評価を与えたり、文句を言います。それは個人の勝手なのですが、同じ壊れるでも、実は2つの状況があるのを知ってください。「折れる」と「剥がれる」です。この2つは作る側からすれば、全く違う原因から発生しています。

「座屈」、これを何と読むでしょうか? 建築に携わっている方や、理工系の学生さんなら、分かるでしょう。「ざくつ」と読みます。建築関係の専門用語でもあり、一般の方にはなじみがない言葉だと思います。意味は「構造物に加える荷重を次第に増加すると、ある荷重で急に変形の模様が変化し、大きなたわみを生ずることをいう。」と書かれています。言葉の語源は見つからなかったのですが、あくまで個人的想像ですが、正座をする時に膝を折って座る姿に似ているところから来た言葉ではないでしょうか。

折 損 ー 座 屈
こんなのは、理由は分かりませんがCFRPの強度不足でしょう。

これらのリムが「座屈」です。正座のように折れています。座屈は、なぜ起こると思いますか? リムに貼り合わされているFRPにしてもCFRPにしても、引っ張りや曲げには非常に強い素材ですが、圧縮には弱い性質を持っています。そのため、こうして起こる座屈は、よほどでない限り100%がリムの圧縮側にあたるフェイス側で発生します。それを理解したうえでの、最悪の原因は設計段階における強度不足です。強度計算をして作られたものが折れる原因はいくつもあります。図面段階ではわからない、応力集中が起こることもあります。CFRP自体の品質の悪さや素材管理の問題もあります。あるいは、できあがった塗装前のリムに、バランスやポンドを調整するために、表面やサイド面を研磨することによって、本来の強度が失われることもあります。

剥がれ ー 剥 離
接着剤が乗ってないでしょう。塗れてないか、芯材が吸い込んだか。

座屈に代表される「折れ」とは別に「剥がれ」があります。「剥離」です。こちらも原因は複雑です。先の強度不足同様に、最悪な原因は、接着剤の選定ミスです。普通のリムは、芯材に対してCFRPを何枚も貼り合わせるのですが、当然貼り合わされる素材によって、接着剤が異なります。CFRP同士を貼る接着剤と、芯材とCFRPを貼る接着剤では当然異なります。また、芯材が木か発泡材かでも異なります。接着剤があっていても、素材が接着剤を吸ってしまったり、逆に弾いてしまうこともあります。そこには知識やノウハウが必要です。それだけではなく、人為的に起こることもあります。接着剤の扱いやそれを塗布するのは、ほとんどが現場の職人です。何100ものリムに接着剤を塗っていれば、塗り忘れはないにしても、塗りムラといった単純ミスや接着剤の混ぜ方が不足することもあります。品質管理の問題です。あるいは、プレス圧の過不足もあったり、接着面にカッターマークや油脂が残っている場合もあります。また、室温管理がなされていない現場では、冬場に生産したリムに剥がれが多発することもあるのです。

リムが壊れる原因は多様です。見極めは難しいのですが、ちょっとリムを観察してください。折れているか、剥がれているか。折れてから剝がれた場合や剥がれることで折れた場合もあります。それに折れたからクレームで、そのモデルすべてが悪い、全部が折れるというものでもありません。偶然その1ペアの場合もあります。
それに、ユーザーの扱いに問題があることもよくあります。炎天下や車のトランクに長時間放置することは、致命傷です。そして最後に、値段や使用期間を踏まえ、そこに納得がいくかも重要です。
そんなこんなをよく考えたうえで、叫ぶか叫ばないかを判断しましょう。

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