信じてもらえなくても、結構です。
鳥羽根 ➡ プラバネ ➡ ソフトベイン ➡ フィルムベイン と、ハネには変遷があるのですが、これらすべてに同じ役目があります。「アーチャーズパラドックスの制御」蛇行を抑えることと、「独楽の原理」により矢を回転させることです。これによって矢は「安定」を得ます。
人類が弓を使い始めたのは、およそ2万年前。矢に羽根が付いたのはいつからかは分かりませんが、2万年の歴史の中で羽根の発明は飛躍的に的中精度を高めたはずです。そして近代においては、弓における最大の発明は、1969年のコンパウンドボウ。そして矢においては、1975年のフィルムベイン「Spin-Wing Vane」の登場でしょう。
これこそが、現在多くのアーチャーが使っている「スピンウイング」の出発点です。ただし、今のフィルムベインとは違います。「180°×2枚バネ」でカマボコ板に釘2本を打てば、どこでも簡単にハネが貼れると画期的でしたが、何よりも革新的だったのは、「素材」と「矢を回転させる方法」です。
今のアーチャーは「フィルムベイン」と言えば、「120°×3スピンウイング」を指し、それを使う少なからぬ理由に、フレッチャーが不要で、どこでも簡単に貼れると言うでしょう。しかし、その前に「フィルム」という素材について知っておく必要があります。
こんなハネを覚えていますか。「マイロベイン」です。1984年頃から、ヤマハが輸入代理店として日本に紹介、販売したフィルムベインです。アメリカのマイラーさんが考えた、両面テープで貼るフィルム製の3枚バネですが、スピンウイングの形状ではなく、昔ながらの3枚バネのソフトベインをフィルムにしたハネです。
日本でも多くの競技者に使われましたが、アメリカのナショナルチームにも支持され、1982年に世界記録を樹立しています。
世界チャンピオン、リック・マッキニーが銀色の「3枚バネ」で、50mの世界新記録「345点」を樹立しました。トータルは1330点(310-325-345-350)。当時の世界記録はダレル・ペイスが1979年に記録した、アルミアロー最後の最高点1341点(312-333-340-356)です。この記録はArizona FlexFlech P26の「ソフトベイン」3枚によって樹立されたものです。
1341点の世界記録をたった1点更新するのに、カーボンアローという魔法の道具と10年の歳月が必要でしたが、50m345点の更新にまだ数年の歳月を要し、アルミアローによる最後まで残った世界記録となりました。
なぜアルミアロー最後の時代に「フィルム製」のハネが登場して、活躍したのか。その理由は、薄さ(空気抵抗)もあるのですが、それ以上に何よりも「軽さ」です。
現在の軽いカーボンアローでは、フィルムの軽さはアドバンテージには、さほどなりません。しかし、当時アルミアローは、的中性能向上と安定を重さの限界ギリギリのところで目指していました。アーチャーは重い矢で、風に流されない安定と的中精度を目指しました。そのため矢の総重量と「F.O.C.」のバランスが最後の課題で残りました。アーチャーは、重いだけでなく、できるだけ「トップヘビー」にしたかったのです。重心位置を前方に移動したいのです。ところが重いポイントを使えば、総重量が重くなり、長距離で失速します。
軽いフィルムベインは、矢の前方を重くするのではなく、後ろを軽くすることで、重心を前に移すという逆転の発想で、総重量は同じでトップヘビーの矢を作ったのです。
最初のスピンウイングは、3枚バネでも4枚バネでもなく、「折り曲げ」られた「2枚」バネでした。1975年のデザートインクラシックで、ダレル・ペイス圧勝でデビューを飾りました。しかし、それがインドアであったことと、その後アウトドアでの使用があまりなかったことから、飛躍的に広がることはありませんでした。
ところが1981年のプンターラ世界選手権において、現在と同じ形状の3枚バネが再びペイスによって使われ、同点2位に甘んじたものの、その後の普及は目を見張るものがありました。
そして多くの「コピー商品」が生まれます。フィルムに模様が付いたり、硬さが違ったり、カタチが違ったりするものが登場するのです。そしてここから、アーチャーは勘違いをします。
「フィルムベイン」=「スピンウイング」と刷り込まれることで、世の中のハネを「ソフトベイン」と「フィルムベイン」に大別してしまいました。ソフトベインは、昔ながらの形状の3枚バネのビニールの柔らかいハネを指し、フィルムベインは、カールしたハネすべてのことだと思い込むのです。
しかし、ハネはソフトとフィルムの2種類ではなく、「4種類」の組み合わせで考えるべきです。「ソフト」と「ハード」、「昔ながらの3枚」と「カールしたハネ」のそれぞれ4つを組み合わせたハネがあります。
スピンウイングと言っても、柔らかいフィルムも硬いフィルムもあり、プラスチックの硬いカールしたハネもあります。昔ながらの3枚バネでも、ソフトもハードもあるのです。
「蛇行の制御」と「独楽の原理」を最大限発揮するには、それぞれのアーチャーがこの4つの組み合わせから、自分に合った矢を作らなければなりません。
そこでこの動画を観てください。1988年ソウルオリンピックで、ジェイ・バーズがACEを使って優勝した時のプロモーションビデオです。そしてACEには、今のスピンウイングが貼られています。ハネをよく見てください。
すごい回転だと思いませんか。ストリングが復元して、矢がノックから離れた後、ハネがレストを通過するところで、すでに回転が始まっています。普通の3枚バネでは、このようには回らないでしょう。
そこでもう一つ、写真も注意して見てください。今のスピンウイングの倍の長さとまでは言いませんが、どれも今よりずいぶん大きいハネにピッチも付いています。今のスピンウイングは、サイズが小さく、ピッチを付けずにストレートで貼るようになってきました。
矢の回転数は、多ければ多いほど良いというものではありません。1秒間に7回転程度が必要十分条件ともいわれているのですが、スピンウイングはその形状からして、大きければ回転も大きくなります。そしてカーボンアローによって、矢速が増すことで、回転数も増えます。しかし、不要な回転数は矢の挙動を不自然にするため、近年サイズもピッチも回転を抑える傾向になってきたのです。
回転は前方からの空気の流れによって起こります。その時の空気抵抗は、表面積と合わせてピッチの付け方が重要になります。ところがスピンウイングはハネ自体が膨らんで面積を増やしているのです。もう一度動画をみてください。スピンウイングは、ちょうどイカが泳ぐように、ハネを閉じたり膨らませたりして飛んでいます。ハネが羽ばたいているのです。ソフトスピンは普通の3枚バネとは違う方法で回転を得ています。
では、矢の蛇行を抑えるパラドックスの制御についてはどうでしょうか。蛇行して飛ぶ矢は、空気抵抗でそれを抑え、直進性を得る必要があります。その時の空気抵抗は、表面積が重要になり、蛇行運動をより早く解消するには、表面積の大きいハネが有効です。しかし大きければ重く、風に流され、発射時のレストでのトラブルも心配になります。しかし、スピンウイングの形状は空気を抱え込むため、蛇行を抑えるのに合わせて、横風には流されやすくなります。
カールした柔らかいフィルムベインは、回転数と引き換えに、飛翔中の「変形」という特長を持っています。普通のハネが、ジェット機の翼のように空気を切り裂いて飛んでいるのに対し、スピンウイングは空気を抱え込み、形を変えながら、羽ばたいて飛んでいるのです。
あなたは、飛んでいる時に翼のカタチを変えたり、羽ばたいて飛ぶ飛行機を見たことがありますか?!
でも、分かっています。みんな使っています。世界チャンピオンも使っています。これだけは、信じてもらえなくても、結構です。ただ、個人的には、試したことはありますが、試合で使うことはありません。羽ばたく、カタチの変わるハネは使いません。もっとしっかりして、同じ効果を持つハネは他にもあります。フレッチャーの有無は、的中精度とは無関係です。
2万年後に答えが出ますが、最後にこれはどうでしょう。コンパウンドの世界では、ほぼスピンウイングは使われません。これは矢がレスト通過時に、ハネがヒットしやすいというアーチャーもいるでしょうが、スピンウイングが良ければそれは何とでもチューニングするはずです。
羽ばたかない普通のハネこそが、パーフェクトを狙い、パーフェクトを見せてくれる世界では、必要な道具になっているのではありませんか。どうでしょう。
ところで、今でも「2枚バネ」のスピンウイングにして、悪い理由はありません。レストでトラブルが起こるアーチャーや貧しいアーチャーは、試してみてはいかがでしょうか。それも組み合わせの内です。
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