見出し画像

もう少し雨はやまなくてもよかったかもしれない(まよなかめがや#25)

不可抗力で生じたちょっとしたできごとを
ぼくは想い出として大切にしたい性分だ。

そのなかでも雨の日の想い出集は
群を抜いて分厚くなっている。
きっと雨男だからなんだろうと思う。

小学校のある日
夕方から土砂降りに加えて
雷がピカドンピカドン近所に落ちまくる日があった。
その日はパート帰りの母が傘を持って迎えにきてくれた。
なんてことのないいつもと同じ帰り道なのに
母と一緒に歩いた風景を
今でもよく覚えている。

そしてぼくはその日に
お気に入りの横浜マリノス(当時まだ合併前)の
キャップを学校でなくした。

今からもう8年くらい前のある日
大型台風が関東に迫っていた日があった。
JRの運転終了時間を繰り上げさせるほどの
大きな台風が近づいている夕方に
当時付き合っていた彼女とぼくは
「まだ大丈夫でしょ」とデートの帰りに
五反田で降りてホテルに行った。

五反田のホームに電車から飛び降りる瞬間も
渋谷・新宿方面の山手線に乗って帰る
彼女を見送った五反田のホームも
とてもよく覚えている。
肝心の大型台風はたしか
夜中に関東を抜けて行ったのではなかろうか。


昨日の夜も雨が降っていた。
夜のフットサルは降りに降られ
どしゃぶりでずぶ濡れだった。

帰るころもまだ雨は降っていて
いつもおしゃべりするおじさんと
クラブハウスの外のベンチで
雨が止むのを待っていた。
アスファルトは雨で十分冷やされていて
半袖だと少し肌寒かった。

「夏の雨のにおいが好きなんですよねー」

ふとおじさんが口にした。
どこかもの寂しくそれでいて爽やかな
きれいな雨の香りがした。

雨が止むまでの30分くらい
仕事のこととか家庭のこととか
コロナのこととか明日の予定とか
だらだらとおしゃべりをした。

本当は片手に缶ビールがあれば
もっと最高だったのかもしれないけれど
どこか懐かしくて愛おしい時間だった。

コロナが落ち着いたら
缶ビールを飲みながらまたあの時間を過ごしたい。


どの想い出も雨が降らなかったら
想い出と呼べるものにはなっていなかった。

そしてもし
もう少し雨が降っていたら
想い出の内容もその続きも
また違う形や色になっていたのかもしれない。


そう思うとほんのちょっとだけ
もう少し雨は止まなくてもよかったかもしれない



かめがや ひろしです。いつも読んでいただきありがとうございます。いただいたサポートは、インプットのための小説やうどん、noteを書くときのコーヒーと甘いものにたいせつに使わせていただきます。