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シンデレラのあなたにガラスの靴を履かせたいぼく #超短編小説

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かめがやひろしの超短編小説マガジンです。
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#夏

ぼくの夏休みはまだまだ終わらない。(超短編小説#23)

「今日さ駅前の通りのお祭りじゃん?」 ふと携帯の画面が明るくなった。 無条件に相手の顔を浮かべる。 「あーそうだね。功太が行くって言ってたわ」 LINEの送り主へ 胸のうちを悟られないように 自然に、自然にだ と言い聞かせながら 返事を打つ。 同じ部活の功太は 気だるそうに それでも行くという意思を 確かに含んだ言葉を 朝練の帰りに口にしていた。 朝練の終わる午前9時は 自習時間の教室のように ゼミがありとあらゆる音を 鳴らしていた。 午後2時のいま 2人のあいだ

夏の始まり。(超短編小説#3)

体を起こすとすでに開け放たれた窓から、夏の蒸し暑い香りが入りこんでいた。 隣に寝ていた陽子の姿はなく、かけていたタオルケットも彼女がいたことを忘れさせるくらい、ベッドに力なく寝そべっていた。 昨日は花火を観に行った。 海上から観える花火を近くで観るために、開放された港にシートを広げて花火が打ち上がるのを待った。 風がなかったせいで、花火は曇った空に隠され、どんっ!という大きな音とは裏腹に赤や青に光る空しか観えなかった。 目の前の浴衣を着た若者たちは、始まって10分も