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『進化思考批判集:デザインと進化学の観点から』について

昨年、美大の講義資料をまとめたブログ記事が反響を呼び、デザイン学会で『進化思考批判』という発表をされた松井さん・伊藤さんからお声がけいただき、元の記事に追記・整理した原稿が本に収録されました。

デザイン分野に進むであろう学生も多くいる美大という環境で『生態学』という講義を担当している以上、有名らしいデザイナーがデタラメ吹き散らかしてるのを放置してはいけないだろう、というモチベーションでまとめた資料を書き起こしたのが昨年の記事でした。これがどこぞの国立大の理学部で非常勤やってます、とかそういうシチュエーションだったら「アホか」と一蹴して無視していただろうと思います。

師匠の師匠(僕は直接お会いしたことはないのだけど)も30年くらい前に竹内久美子批判してましたし、これも血脈なんでしょうか。やな血だ。そういや去年は応動昆の師匠集会の打ち上げ飲み会でよめふじに「口の悪さが師匠にそっくりだ」と言われました。

というわけで不本意ながら初の書籍はフジツボ本ではなく進化思考批判集です。教科書というわけでもないけど一応「進化」についてよくある誤解を正す教科書的なものにもなったかなと思います(なってるといいなと思います)。

公開討論会のようなイベントはしないのか、という声も一部にありましたが、詐欺師はてきとうにいいかげんなことをペラペラしゃべり倒せばいい一方で、検証する側はいちいちそれに対して出典を確認しなければなりません。検証は今回の批判集のようにたいへんに手間のかかる作業で、労力があまりに非対称なものです。斬った張ったの討論会のような形で議論した場合には詐欺師側が圧倒的に有利かつ批判側に「適切に反論できなかった」という印象だけが残るでしょう。なので対面の討論会のようなイベントを実施する予定はありません。反論があれば適切な資料・出典を示して提示してくれればそれでいいと考えます。

批判集が公開される少し前に、千葉先生の「ダーウィンの呪い」が出版されました。

出版社の内容紹介より引用、
第一線の進化学者で、進化学の歴史に詳しい著者は、ダーウィンが独創した進化論は、期せずして3つの「呪い」を生み出したと分析する。「進歩せよ」を意味する〈進化せよ〉、「生き残りたければ、努力して闘いに勝て」を意味する〈生存闘争と適者生存〉、そして「この規範は人間社会も支配する自然の法則だから、不満を言ったり逆らったりしても無駄だ」を意味する、〈ダーウィンもそう言っている〉である。順に、「進化の呪い」「闘争の呪い」「ダーウィンの呪い」である。

講談社現代新書 内容紹介より

進化思考批判集では、まさにこの

「進歩せよ」(たとえば p.47, 48…)

「生き残りたければ、努力して闘いに勝て」(たとえば p. 337, 339…)

「ダーウィンもそう言っている」(たとえば p. 276, 344…)

という『進化思考』の3つの呪いを指摘しています。この批判集が、進化思考読者にとって3つの呪いを解呪するための一助になればいいなと思います。

さて、本として出版できてめでたしめでたしというところなのですが、「本できたよ」と師匠に報告したところおおむねおーけーなお返事をいただき安心した一方で、一か所ツッコミが入ったのでそこについて訂正させていただきます。

進化思考批判集の58ページの下の方、

> ギガンテウスオオツノジカの絶滅に関する記述は明確に誤りだ。もし、その角が原因で絶滅するようならそのような形質はそもそも進化しない。この絶滅に角の進化は一切関係ない。7700年前に絶滅したのは、気候変動による生息域の減少と人類による狩猟圧が要因であるとされている(50)。

進化思考批判集 p. 58

ここについて、Runaway processの結果 誇張された形質が生物個体群を絶滅させる可能性は理論的にはありうる、という指摘でした(たとえば Rankin et al. 2007など)。

「もし、その角が原因で絶滅するようならそのような形質はそもそも進化しない。」

というテキストを

「絶滅率を上げるような進化が性選択で生じることは理論的にはありえるが少なくともギガンテウウスオオツノジカの絶滅は別の要因で生じたとされている」

くらいに表現するのが適切ではないかとコメントいただきました。

というわけで一か所ツッコミどころが残されてしまったのですが、「増補改訂版」などと称して自分の不勉強をなかったことにしようとするようなぶさいくなマネはせず、これも自分の不勉強の刻印として残しておこうと思います。

以下は特に読む必要のない、出版後いただいたコメントで個人的にちょっとうれしかった内容についてです。

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