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今まで読んだ中で一番かっこいい論文

以前、友人がこのような記事を書いた。もう10年以上前のハナシか。

殺シ屋鬼司令II 2013-10-05
オープンアクセスのことは嫌いにならないでください!
https://thinkeroid.hateblo.jp/entry/20131005

もともとはPLoS ONEをはじめとするオープンアクセス誌に掲載される研究をどう評価するか、というようなハナシだったと思う。ここで友人が述べる通り、僕は「査読」を経たものはおおいに論文として評価したらよろしい、という立場に立つ。

そして彼が言うのように、自分が読者として論文を探すときに重要なjournalは必ずしもnatureやscienceのような高IF誌ではなく、PLoS ONEの方が参考になる論文も多く、また面白いと感じる内容も多い。最近ではEcology & Evolutionの論文も僕の趣味に合致するものが多い。natureやscienceの論文は、なんというか物量で殴る暴力的な内容のものが多く、僕のような非モデル生物対象の自然史研究には全く参考にならない。ときどき派手な恐竜化石論文が掲載されたらチラ見にいく程度で学術誌の論文定期巡回ルートからは完全に外れている。それに本当に必要な論文を探すときにはgoogle scholarで探しに行くので、どのjournalを見に行くかというのはもう完全に趣味のお散歩ルートの問題でしかなくなっている。学振PD10連敗という癒えることのないコンプレックスがあるので、やはり出せるのであれば高IF誌に出して俺を落とした審査員どもに自らの節穴っぷりを叩きつけてやりたいという野心は未だ燻っているものの、幸運にも民間企業に就職することができてしまい、ポスドク公募戦線での闘いのために高IF誌に論文を掲載させるというインセンティブも昔に比べれば薄くなってしまった。

そんな感じで最近は Ecology & Evolution や PLoS ONEなどをチェックすることが多くなっている。OA誌は掲載に金を払うのだから査読がヌルいのでは、という疑念もないわけではないだろうが、そもそも査読とは掲載を拒否するためのものではないはずだ。限られた紙面を巡る競争の中で、高IF誌は人気が出るので結果的に競争過多となりリジェクトという結果が返ってくることが多いが、そもそも査読は研究者同士の指摘で原稿をよりよいものに仕上げていくためのものであったはずだ(実際にそのような牧歌的な時代がいつまで残されていたか知らないけれど)。オンラインのオープンアクセスで、少なくとも紙面という物理的制約がなくなった現在、紙面をめぐる競争で掲載拒否されるということ自体がナンセンスな時代だということすらできる。

さて、これまで自分が読んできた中で一番カッコいいと思った論文はなんだろうかと思い返してみると、実はPaine (1966)だったりする。
Paine RT (1966) Food web complexity and species diversity. The American Naturalist, 100(910), 65-75.
https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/282400

生態学の教科書のどれにも紹介されている有名な内容だし、ここで改めてその中身に言及はしないけど、僕がこの論文が死ぬほどカッコいいと思う理由は、実際にやったことといえば毎週磯に通ってコドラートからヒトデを投げ飛ばしていただけ、という点だ。別に研究者サマでないと扱えないお高い機材を使っているわけでもなく、やろうと思えば誰でもできる作業で教科書に載って誰にも知られる成果を導き出した点である。僕はここに「超カッコいい」と思う。なんというかオチがあるわけでもないけど、非常勤の講義でひさしぶりにこの内容を説明して、やっぱPaineはかっこいいよなと思ったのだ。


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