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オネエさんの話①

以前はデザイン重視だったのに、去年から夏の高温に耐えきれず、機能重視で涼しい自然素材(高島ちぢみ、近江麻)の服を選んでいる。
そのため、35℃前後の日にビスチェを着た女性たちを見て、重ね着が出来る暑さへの耐性に驚くばかり。

若い時の私は、友人・同僚と同じ(よくあるお友達同士、同じような髪型・服モンダイ)が嫌で、周りが着ない服を探して原宿や新宿へ行くこともあった。

ある年に、ビスチェを見つけた。当時は誰もが着るアイテムなほど流行はしてはいなくて、DCブランドが少しだけ出していた。
当然、私は飛びついた。
半袖白Tシャツの上に、赤茶色で厚手に編んだデザインのビスチェを重ね、フレアスカートと合わせるのが好きだった。

OFNで初オネエ


その服装で、東海道線の某駅前で信号待ちをしていた日のこと、後ろから野太い声がした。
「あ〜らアナタ、オシャレね〜! 」
振り向くと声の主は、髪を肩まで伸ばし、化粧で白くなった顔に口紅を塗っていた。その口元は青っぽく髭の跡が見える。

スカートにサンダル姿で「ちょっと近所まで」という気楽な姿で、買い物バックを待つ筋肉質な腕が印象的だった。
「あ、ありがとうございます!! 」
この、ひと言が精一杯だった。

ドラマチックなオネエさん


職場のリーダーに、カマタさん(仮名)という人がいた。
上げた前髪を後ろに流し、一筋の乱れもなくまとめられた髪型。
生地に上質感と品の良い艶がある高そうなスーツを着て、高級ブランドのネクタイをしている。さらに靴はピカピカに磨き「欠点のない都会のビジネスマン」な外見をしている。

「この件は、俺に。次は…」
朝礼の時には、仕事の流れや目標をテキパキと説明する。自分の仕事だけでなく、部下に細やかな目配りをし面倒見が良いため、会社から「仕事が出来る人」と一目おかれていた。

入社してすぐの頃「ちょっと、カメちゃんに用事があるから」先輩にそう声をかけ、カマタさんは私を他の社員がいない場所へ連れて行った。

「カメちゃん、ここはアナタとワタシだけしかいないから。思う存分泣いていいのよ」
「え、泣く? 」
「無理しなくていいわよ。オトコでしょ? それ、オトコ」
カマタさんは眉間にしわを寄せた気の毒そうな顔をして、自分の目を指差した。

「あ! 瞼が赤紫に腫れちゃってるやつですか⁈  私、敏感肌で、自然派化粧品を使ってみたらカブレちゃったんです」
「えっ!! アナタ、オトコじゃなかったの? いやだわぁ、ワタシてっきり…」
評判通りの、きめ細やかなフォローだった。

ある時、社員食堂で空席を探していたら、鼻にかかった声が聞こえた。
「カメちゃ〜〜ん、こっちよぉ。コ・ッ・チ! 」
女性社員に囲まれたカマタさんが、手を振っていた。
「ワタシたち、だいたいこの辺で食べているの。よければカメちゃんもいらっしゃい」

「この前の休みぃ、カレとディズニーランドに行ったのよ。そしたら雨でさあ、もう11月じゃない? 寒くてたまらなかったわ。だけど、アナタたち知ってる? 雨の日ってミニーとかがレインコート着て、それがカワイイの。雨も良いものね。今度アナタたちも行ってみなさいよッ!」

よりによって、予定していた日が雨なのか。そういう日を引き寄せるのか。カマタさんに起こることは、いちいちドラマチックに語られた。

別の日、「ワタシ、今日寝不足なのよね」と気だるそうに話を始めた。
「夜の2時に女友達から泣いて電話がかかってきたの。ダンナに殴られたって。「大丈夫? 」って聞いたら「大丈夫じゃない」って言うから、ワタシ行ったのよ。友達の家に」
「2時にですか? 」
「そうよ。タクシー飛ばしてアイツを叩き起こしてやったわ。アイツって、ワタシの男友達ね。だからその奥さんも友達なのよ。
それで「自分より弱い者を殴ったのはお前か! 」って。台所にフライパンがあったからボコボコにしてきたわ。

「弱い者を殴るとは何者だ! 反省しろ! 反省しろ! 」ボコッ、ボコッ
「痛い! やめろ」
「相手の痛みを思い知ったか」ボコッ、ボコッ
「痛っ! や、やめてー」
「もうしないか! しないと誓え。奥さんに謝れ! 」
「も、もうしません。ごめんなさい。俺が悪かったですー」

カマタさん、今もドラマチックに生きてるかな。















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