3ヶ月

フリーランス宣言をして3ヶ月になろうとしている。20数年の間制作会社に所属する映像監督だった訳で、映像制作に纏わる大概の事はもとより社会人として生活していくために必要な大体の事は経験しているつもりでいたのだが、そんな自分の驕りを嘲笑うかの様に世を生き抜くためのハードルが目の前に次々と現れ戸惑っている。
いち市民としての責務を果たす為、そして自分や家族の生活を守るための納税や保険に関する事。仕事のきっかけを掴む為や誰かにアプローチする為にかかる膨大な下準備時間。作業に必要なパソコンやソフトウェアの調達。ポートフォリオサイトの立ち上げや名刺の印刷ひとつにしても、これまで勤めていた会社やそれを支える誰かの手でいつの間にやら整えられていたありがたみに気づいていく毎日である。
名刺作りなど様々なことはインターネットを通じて自分で出来る様な世の中になってはいるのだが、いざ実行し始めるとやはり欲が出るものでフォーマット化された様式のものやフラット化されたデザインのものに物足りなさを感じてしまい、結局は様々な人に大いに助けられてなんとか必要なものがひと揃いしたような状況だ。

そんな日々のはじめて経験する出来事の中に、ハローワークに行って手続きを行うというものがあった。
これは退社の際に人事部の担当者から、フリーランスになってからの相談をしに一度はハローワークとコンタクトをした方が良いとの勧めに従っての事だ。
役所への連絡はあまり興がのるものではないが退職後のある日意を決し担当地域のハローワーク窓口に連絡してみた。まずは電話でのカウンセリング的な聞き取りをとの事で、これからの展望などをインタビューされた。この時点であれ?と思う。たまたまかもしれないが担当して頂いた職員の方の話しが大変分かりやすく、そして私自身の個別の事情に対して適応される可能性のある雇用保険や補助金などの種類と条件を至極丁寧に説明してくれる姿勢に、これまで何度も落胆させられたいわゆるスローでおざなりなお役所仕事な対応とは全く別の何かを感じたのだ。そしてその印象はその後何度か直接ハローワーク窓口に足を運んだ際も同じだった。窓口の前には失業認定を受ける人や再就職の相談をしに集まった人が列をなしている。私自身を含め様々な事情を抱えている人の集合であるからして、ややもすると殺伐とした雰囲気になりそうなものだが、予想に反してどの窓口も手続きは淡々とむしろ前向きな雰囲気の会話の中で進められているのだ。

日本の失業率は世界の先進国の中でも群をぬいて低いと言う。実際にハローワークというある意味社会の様々な問題が前景化される場所にはじめて入りそこで行われているやり取りを目にした事で、前線で対応にあたる職員の方達の真摯さみたいなものが日本社会の安定に一役かっているのは間違いないと感じる事が出来た。そして企業への再就職を目指すわけではない私のようなイレギュラーな相談にまで様々な角度からアドバイスくださる姿に頭が下がる思いであった。
幸いな事にいくつかのプロジェクトが走り出したのでハローワークでの相談は一時停止予定だ。なのだが今後どんな状況になっても社会保障という後ろ盾がある事を知識だけではなく体感出来た事は、この3ヶ月の間に起きたなかでも大事な出来事だった様に思う。

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