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文体の舵をとっている。

 昨年発売されてからTwitterのタイムラインを始め、よく目にするようになった『文体の舵をとる』活動。

http://filmart.co.jp/books/novel/steering-the-craft/

 文章での創作活動に片足を突っ込んでいる身としては非常に興味があり、挑戦してみたいと思っていたところご縁を戴き、各々が課題を提出しDiscord上で合評をし合うという貴重な合評会の場にお招きを受け、舵をとっているというわけだ。
 自分の記録用あるいは今後舵をとる人たちへの参考になればと、以下に合評会に提出した私の課題作を掲載する。


〈練習問題①〉文はうきうきと (本文p31~)
問1:一段落〜一ページで、声に出して読むための語り(ナラティヴ)の文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい――ただし脚韻や韻律は使用不可。

 ぷううぅぅぅん、ぷううぅぅぅん、と不快なヴィブラート音に私はがばりと飛び起きた。朝のアラームよりもスムーズに起きられたけれど、寝起きの気分はサイテーだ。
 やり過ごしてしまえ、と再び入眠を試みるがうつらうつらし始めた頃にぷううぅぅぅん、ぷううぅぅぅんと何度もやられてしまったらこちらも黙って寝ているわけにもいかず、しぶしぶベッドを後にした。
 吸血鬼は家の主が招き入れないと家の中に入り込めないというが、
「もしもし、わたくしヤブカ商事営業部のヒトスジ シマカと申します。いつもお世話になっております。突然のご連絡で恐縮ではございますが、今夜血液を戴きにお伺いしたく思っておりまして、午前三時頃はご在宅でいらっしゃいますか?」
「ご丁寧にありがとうございます。午前三時頃ですと多分寝ていると思いますが、網戸の一部が壊れて隙間が空いておりますのでそこからどうぞお入り下さい」
 そんな阿呆なアポイントメントを取り付けた覚えはない。
 ここにしまってあったはず、家族を起こさないようにコッソリと戸棚の奥から電気式の蚊取り線香を見つけ出しベッドに戻ると、タオルケットをほっかむり肌の露出が最低限になるように丸くなって、ジジジとかすかに聞こえる蚊取り線香の駆動音だけを意識して目をつむるのだった。
 翌朝目覚めると、足の裏が真っ赤にぷっくり腫れていた。

問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物を描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現してみること。

 黒々としたヘドロのような粘り気のあるもの、そして触れるもの全てを侵すような毒性を持つものが胸の中でぐるぐると渦を巻いている気がした。その渦の中心では私を裏切った二人が汚濁に飲まれぐちゃぐちゃのもみくちゃに溺れている。
 しかし現実の二人といえば真っ白な晴れ着を身にまとい、屈託なく幸せそうな笑顔を周囲に振りまいていた。汚穢とは全く無縁な二人と異なり、想像上とはいえ毒の濁流が粘っこく嵐のように渦巻く私の胸中の傷は本物だった。無力感が渦の速度を一層加速させるが、その中心部では私のいちばん大切にしたい柔らかな部分を「粘つき」がすり潰すように、なぶるように、こそげ取るように、苛むように、爪を立ててゆっくりと加虐的に通過していくのだった。
 とうに冷めた怒りでもなく振り切った悲しみでもなく、名付けがたいこの粘着性の感情が私の心をどうしようもなく傷つけ続けるのだった。


 実際の合評の場では思いのほかに好評を頂けたり、作者(=私)が意図していなかった部分を好意的に解釈してもらえたりと、ミュート状態で自作を合評されるというのはなかなかにこそばゆい経験となった。
 また意図していなかった部分をスキルやギミックとして好意的に読み取ってもらえるというのは、意識せずともそういうことができる能力が身に付いていることでもあるので、合評会とは自分のできていることを自覚する場でもある、というお言葉をいただき、まるで異能バトル物の漫画で初めて自分の能力を発揮した登場人物が「これが俺の能力チカラ……?」となっているかのような体験をすることができた。
 もちろん課題の出来次第では改善点を指摘される場合もあるわけで、それらひっくるめて他人からの評価があるというのは非常に勉強になるのは間違いなさそうだ。


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