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文体の舵をとっている13

〈練習問題⑨〉直接言わない語り
問二:赤の他人になりきる
400~1200文字の語りで、少なくとも二名の人物と何かしらの活動や出来事が関わってくるシーンをひとつ執筆すること。
視点人物はひとり、出来事の関係者となる人物で、使うのは一人称・三人称限定視点のどちらでも可。登場人物の思考と感覚をその人物自身の言葉で読者に伝えること。
視点人物は(実在・架空問わず)、自分の好みでない人物、意見の異なる人物、嫌悪する人物、自分とまったく異なる感覚の人物のいずれかであること。
状況は、隣人同士の口論、親戚の訪問、セルフレジで挙動不審な人物など――視点人物がその人らしい行動やその人らしい考えをしているのがわかるものであれば、何でもいい。
※「自分とまったく異なる感覚の人物」は異生物やアンドロイドのような非人間は禁止とします。

問2.
「なぁ、ヤれたか?」
 マッチングした女の子とデートに行く、と週末言っていた二瓶を出社途中に見かけた俺は朝の挨拶もそこそこに開口一番そう声をかけた。
「うわ! 青村か! やめろよ、朝から道の真ん中で」
「いいんだよ、そんなことは! で、どうだったん?」
 はぐらかそうとする二瓶の退路を断つようにして歩道の隅へ身体で追い込み、更に問い詰めた。
「……、してないよ」
「は? 何で?」
 渋々といった調子の答えについ反射的に食ってかかった。その結果だけが今日の楽しみだったというのにそれを奪われた気分だ。
「それじゃあ何したわけ?」
 他人のデートプランなんぞどうでもいいが、二瓶がどんなプランで過ごしたのか、何故ホテルへ連れ込めなかったのか分析してやろうと、自然と詰問口調になってしまった。
「何って……、相手が行ってみたい、って言ってた美術館の展覧見て、近くの喫茶店でお茶して、ウィンドウショッピングして、居酒屋で酒飲んでご飯食って終わりだけど」
「うわぁ、つまんねぇ」
 普通すぎてつい口から感想が漏れてしまった。
「いや、そんなもんでしょ? まだ会うの二回目だよ、そういう雰囲気でもなかったし、お互いに楽しめていたと思うぜ?」
 二瓶とは大学からの付き合いで同じ職場に就職した仲だが、コイツは昔からこういう奴だった。顔は悪くないくせに女っ気がなく、いつもあまり興味がありませんみたいな澄まし顔をしてやがる。学生時代、無理矢理合コンに連れ出してベロベロに酔わせて、半ば強制的に相手の女ひとりをあてがって帰したことがある。後になってその時初めて女を抱いたことを告げられた時は大笑いをした。しかも酔っていて肝心の当夜の記憶はほとんど無いという二段オチだ。
 俺には全く理解できないが、がっついてないのがイイって思ってるクチだ。ひと昔前なら草食系で通ってたかもしれない。俺から言わせればヘタレに近い。
「勿体ねぇなぁ。せっかくの休みに女と会ってるんだから、抱いてなんぼだろうが」
「俺は青村みたいに口が上手くないんだよ。俺には俺のペースってものがあるの。それに相手にも失礼じゃん」
「まぁ、好きにすればいいけど。で、次はいつ会う予定なんだよ? 今度こそ勝負つけようぜ! おすすめのホテル教えてやろうか? 口説き方も教えてやるよ」


今回の課題も難しく、特に書く側からすると自分の中に異なる感覚の人物を降ろさなければならず、精神的な負荷もかなりのものになる。自分の好みではない人物、思想や感覚が異なる人物を描くということは、逆にその「好ましくなさ」や「異質さ」を表立たせることもできるがそれは控えてできるだけフラットなものを書くことに意義があるものとされている。なので単に嫌なやつや悪人などではなく、認知の歪みを如何に自然に書けるかが課題の肝となりそうという結論になった。

わたし自身も今回の下半身至上主義な軽薄キャラは、今まで創作したことも作中に登場させようと思ったこともない人物なので、書き始める前は唸りながらキーボードに向かっていたが、このタイプに近い後輩が職場にいたことがあり、彼を思い出しながら書いていくと思いのほか筆が進んだ。ごめんねUくん。


講評覚書

・書き出しから嫌な気持ちになった(誉め言葉)
・書こうと思えば書けるキャラクターだが、あまり書きたくないキャラクターを選ぶチャレンジ精神を評価したい。
・ヘイトコントロールの技術に近い。
・リアルな軽薄さ、こういう人間いるよな、という感情移入できる会話劇、二人の腐れ縁感、仲良さ感、BL感、ホモソーシャルの良くない部分を書けている。嫌悪はあれど憎めないキャラクターではある。
・青→二、BLレーベルならBLとして読める。
・『二瓶とは大学からの付き合いで~』からの説明パートは必要な情報ではあるものの、会話劇主体でこの文量だとやや説明的な悪目立ち感がある。細かく小出しにしたり、他の会話の中に散らせる情報を散らすなどの工夫。


ワシ、BLも書けたかもしれん


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