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文体の舵をとっている3

問一:一段落(二〇〇〜三〇〇文字)の語りを、十五字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。各文には主語(主部)と述語(述部)が必須。英語の主語+述語という主体と動態の構造関係は、日本語にそのままで当てはまるものではないため、たとえばここでは、〈何〉について、〈どう〉であるか、のように主題を対象とする陳述・叙述が成立していればよいものとする。

 寝過ごした! ぼくは目覚めと同時に直感した。
 定刻二十分オーバー。アラームは見事に止まっている。誰の仕業だよ、と思っても自分の顔しか浮かばない。次いで浮かんでくるのは担任の憤怒の顔。そしてクラスメイト達のニヤケ面だ。放課後の罰則だけは避けたい。今日はみんなと映画の予定だ。
 顔を洗い、歯を磨き、髪形を整える。呆れ顔の母の小言を背に家を飛び出す。
 天気晴朗なれど波高し。ぼくは自泳車〈チャリ〉に跨り波間に漕ぎ出した。
 浮島都市〈フローティング・シティ〉に吹く春風は穏やかだ。しかし堪能もしていられない。水飛沫を派手に巻き上げぼくは風になる。


合評会の取り決めとして「主語は省略してもよいが、述語と目的語は省略しない15文字前後の文章を重ねて、200~300文字執筆する」ということになった。つまり――
(Sは)OをVする。
これを15文字前後の短文で刻んでいき、200~300文字の文章に仕上げることになる。
この課題は個人的にかなり難しく、見てわかるように上記の《縛り》を守り切れていない。(S)はOをVする。の文章になってない箇所や、15文字前後というには長すぎる箇所もある。無念。


問二:半〜一ページの語りを、七〇〇文字に達するまで一文で執筆すること。

 俺の探偵事務所を訪ねて来る奴にロクな奴はいない、そもそも俺自身がロクでもない部類の人間なのでそれはそれで仕方がないが、一応の客商売をしている身分としては死活問題で、その訪問者の内訳は俺に一発お見舞いしようと殴り込んで来る奴が五割、金を取り立てに来る奴が四割、その内の半分は家賃の催促に来る大家のステラ婆さんだが、彼女は話の『通じる』側の人間でもう半分は話が通じない代わりに金勘定や人をどやしつけることだけが得意分野な天才チンパンジーどもで、そして最後の一割が俺の収入源となる貴重なお客様というわけなんだが、彼らが持ち込むのはステラ婆さんが枯れ木のお仲間を連れてジョシ旅に出るから列車のチケットを発券しておいて、という子どものお使いと同じくらいのしょうもない依頼か、旅行に行っている間に庭木にできたバカでかい蜂の巣を撤去しておくように、という婆さんの言いつけを素直にこなしていた方がいくらかマシ、みたいな厄介事を押し付けるかのような依頼のどちらかで、俺は明日を生きるためにゴロツキと殴り合ったり、類人猿の飼育員になったり、婆さんの小間使いをやってばかりだったものだから、その日俺の事務所のドアを蹴り開けることなく、ノックまで添えて訪ねて来た地味な服装をしているが、隠しようがない上流階級の上品な立ち振る舞いと雰囲気、白磁のように美しい色白の柔肌を不安と緊張からか殊更に蒼白にし、戸惑いにその形の良い切れ長の眉尻を下げた不安気なうら若き女性が視界に入ったその瞬間に、この女は一割の中でも特大の大当たりの上客で、婆さんの庭の蜂の巣が可愛く見える程にクソでかいビッグトラブルを抱えてやって来たことを即座に理解したうえで俺は「庭木のお手入れからペットのお世話、警察もお手上げの難事件まで即座に解決、バッカス探偵事務所へようこそ、お困りごとですかお嬢さん」と名探偵を気取るのだった。


課題2では句読点を用いない文章作成だったが、この課題では読点〈、〉アリでひと繋がりの文章を作成するというものだ。
一人称の自分語りというフォーマットはこの課題と相性が良く、前回同様シチュエーションと全体のイメージを決めるとそれなりにスムーズに書くことができた。


講評覚書

問1
・酉島伝法のような造語と漢字、ルビによる圧縮はこの課題への最適解のひとつ。

・課題への〈縛り〉が守りきれていない。

問2
・ハードボイルド調の一人称自分語り、ボヤキ節は課題と相性が良く、思考や意識があちこちに飛ぶなかで、一度出てきた話題が別の形になって再登場し物語が進んでいくのは面白いし、長い文章をだらけることなく読ませるスキルは感じられる。ただ中盤と終盤に構造が取りにくい箇所があり、修飾節の「係り」がとっちらかってしまった不自然な部分があり整理しきれていない。

・「俺」は活き活きとしてキャラクターが立っているのに、依頼者の女性の描写が紋切型であり、「俺」とのバランスが取れていない。ややクリシェに頼った構成。ただクリシェにはクリシェの良さがある。


課題という枠にはまりすぎない。
フェチ』と『オリジナリティ』を活かせ。

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