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文体の舵をとっている12

〈練習問題⑨〉直接言わない語り
問一:A&B
この課題の目的は、物語を綴りながらふたりの登場人物を会話文だけで提示することだ。
1~2ページ、会話文だけで執筆すること(会話文は行の途中で改行することが多いので、文字数で示すと誤解のおそれがあるから用いない)。
脚本のように執筆し、登場人物名としてAとBを用いること。ト書きは不要。登場人物を描写する地の文も要らない。AとBの発言以外は何もなし。
その人物だちの素性や人となり、居場所、起きている出来事について読者のわかることは、その発言から得られるものだけだ。
(※文字数については巻末の訳者解説を参考として400~1200字とします)

問1.
A「よくここがわかったわね」
B「刑事部長に教えてもらいました。警部補はよく射撃訓練場にいらっしゃると」
A「時代遅れの訓練場で文字通りに無駄弾ばっかり撃ちやがって、って言ってたでしょ?」
B「……はい」
A「あなたもそう思う?」
B「私は捜査支援AIです。警部補の行動の合理性を測ることはできますが、可否の判断は決められません」
A「正直ね。まぁ部長の言う通りだとは思う。あなた達のようなアンドロイドやスマートガンの発達、人体拡張による射撃統制システムのインストール……。標的に当てるだけならこんな昔ながらの訓練なんて必要ない」
B「では何故こんなことを?」
A「ご存じの通り、あたしの身体は機械によって生かされているし、それによる恩恵も数えきれないほど受けている。仕事や生活のほとんどが機械任せの時代だけど、だからこそあたしはヒトの能力を振るうことでヒトである自覚をしたいの」
B「訓練や練習を繰り返すことで、自身の能力の成長を感じたいということでしょうか?」
A「簡単に言えばね。人類は遠くへ手を伸ばすために棒を拾い、石を投げ、弓矢、クロスボウ、銃を発明し、ロケットやミサイルを生み出した。より遠くへ、より正確に。人類は距離と精度を追い求め続ける生き物なの」
B「つまり警部補は標的に当てることではなく、標的に当てようとする意志を目的にしてらっしゃるということですね。刑事事件でも犯人を検挙するだけではなく、事件に至るまでの経緯や背景を捜査することが求められています。結果はもちろん重要ですが過程にも配慮しようとする警部補の考えは間違っておられないと私は思います」
A「アンドロイドのくせに部長より頭が柔らかいじゃない……。そうだ、あなたもレンジに立ってみない?」
B「私の専門は記録と分析です。火器使用のプログラムは――」
A「だから、そういうのはいいんだって! 構えて狙って引くだけだから」
B「こうでしょうか?」
A「そう、腕は真っすぐ突き出して……、呼吸の乱れも心の動揺も反動もアンドロイドには無縁の話だから、意外と良いセンいくかもね」
B「撃ちます」
A「あらら、惜しい。最初はそんなものか」
B「今後の捜査に必要とあれば火器管制プログラムのインストールを申請しますが」
A「それはダメ。時間があったらあなたもレンジに立ちなさい」
B「それにどんな意味があるのでしょうか?」
A「目指せ、シンギュラリティ」


地の文がない会話文だけでの語りとなる。ネット上ではSSスレなどで見かけることが多いが、私はそのスタイルで書いたことがなかったので、今回も創作としては初めての経験となった。
地の文がなく説明する文章がいれられないので、単語の持っているイメージが強く読者が想像しやすいSF的な背景にすることで、設定の補強とした。
書き終えてから気付いたのだけど、これを含んだ前回までの8課題に『警察機関』『銃器』『的当て』が登場しており、自身の創作の”ヘキ”なんだなぁ、という気付きが生まれるなどしました。
・『Detroit: Become Human』
『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』アルフレッド・W・クロスビー

などが大きなイメージソースとなっている。


講評覚書

・枠(シチュエーション、ジャンル、舞台の立ち上がりなど)を早い段階で構築し提示していることが、読み易さにつながっており読者に優しい文章。
・Bの三回目のセリフ「私は捜査支援AIです~」は本来なら説明的なセリフとなってしまうが、この課題このシチェーションにおいては上手いセリフである。同様に『警部補』『刑事部長』などの肩書が物語の補助線になっており強い。
・Aの口から別人のセリフが出てくることで、登場していない人物との関係性が垣間見えるのがテクニカル。
・「簡単に言えばね~」からのセリフは人間でない相手に語るからこそ出てくるセリフ。人類相手ではないセリフだから人類の話ができる。コントロールの取れていない状態でこういったセリフが出てくると作者の顔がちらついてしまうが、上手くコントロールできている。サイエンティフィックな面白さもあった。
内容の建付けがしっかりしているからこそできる会話。
・意味のありそうなシーン→後の伏線となり得るような今後を予期させるシーンが良い。
後半のBが銃を撃つアクションが伴うシーンは課題として地の文が省かれているが、実際に会話劇として実作にするにしても地の文の端折り方の参考になるくらいに自然である。地の文がないことに不自然さがない。


合評会中も今後の展開や展望を素敵なアイデアで各自予想していただけて、作者としても出来栄えに直結していたように思えて大変嬉しかったです。

どうだろう、見えるだろうか?


枠の強さは読み易さでもあり、読者の手を引く誘導ともなるが、読者の想像内で収まってしまいがちになる、故に一捻りが重要である。


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