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「Kopi Luwak」を飲んだけど、一生に一度のコーヒーかもしれない

インドネシアで生まれた、世界一と称されるコーヒー。
初めて存在を知った時、その正体が「ジャコウネコの排泄物」と言われて頭がパニックになったのはおよそ15年前。
2022年、ついに会うことができた。

コーヒーベリーを食べたジャコウネコは、豆の部分を未消化で排泄する。
これを丁寧に洗浄、乾燥、焙煎したものがKopi Luwak(インドネシア語でそのまま、ジャコウネココーヒー)として世のコーヒービギナー達を翻弄しているのである。

とにかく非常に希少で、お値段も高いという噂だけはよく耳にする。
当然、近所のスーパーはおろか、コーヒー屋さんでも見かけたことはない。
自分とは縁のないコーヒーだと思っていた。

それがなんと、最近知合った那覇の遠藤珈琲さんのところにあるという。
ここで出会ったのも何かの縁、ということで意を決して一杯注文してみた。

那覇の牧志にある遠藤珈琲さん

遠藤さんにネルドリップで淹れてもらった褐色の液体。
その衝撃的な採取方法とは異なり、口当たりは非常にスッキリ。喉越しもクリア。ほんのり甘い香りにバランスの取れた味と、フルーティーな軽い酸味がスっと抜け、変に後味が残らない。
それは良くも悪くも「コーヒーらしさ」とは異なる美味しさにも感じられた。実に上品なお飲み物、という印象が残る。
他のコーヒーでは味わえない体験。ハマってしまうと大変そうだ。

コピルアクを飲みつつ、遠藤さんからいろいろお話しを伺った。
始まりは、オランダの植民地になったインドネシアに、栽培に適した場所と安い労働力のためにコーヒーの木が持ち込まれたところから。
コーヒーは全てオランダ人のためのもので、奴隷同然の現地の人はコーヒーを飲めない環境であった。
その状況において、森で見つけた豆を焙煎して飲んでみた、というのが起源らしい。好奇心かあるいは罰ゲームだったのかは分からない。
野生のジャコウネコは完熟のコーヒーを選んで食べるから、豆の品質は最高。
消化酵素や腸内細菌の働きによって、特有の風味がもたらされることが、唯一無二の味を生み出している。
さらにカフェイン量も通常の半分程度になっているらしい。

そんな美味しい話しの一方で、
ジャコウネコの人工飼育問題についてもお話を聞いた。
狭い場所で、大量のコーヒーを餌として与えていて、ジャコウネコの健康状態も良くない。
肉食でもあるのに、自然の中で様々な栄養素の摂取ができていない。
このような状態で採取されたコピルアクは「偽物」と呼ばれ、比較的安い値段で流通しているが、
そもそも完熟でない実も含めて無理に食べさせていて、その味は本物とは比較にならないという。

本来は大量供給できるような代物ではない。
かろうじて広い森全体を飼育エリアと捉えて、自然に近い状況下において無理なく確保している事例もある。
遠藤さんの豆も、その流れで採取されたものらしい。それも個人的な繋がりで手に入れているという。

世界のコーヒー産業と貧困の問題も難しいが、これはまだコントロールできる範囲かもしれない。
珍しさに魅かれて、詳しい背景も知らずに気軽に頼んでしまったが、話を反芻するほど問題意識として迫ってくる。
おそらく様々な条件が重なって、人生で1度だけ発生する特殊イベントだったのだろう。
2杯目は存在しないコーヒーとして、自分の中で意味と価値を付加させることにした。
最初で最後のコピルアク。

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