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オランダでもう手遅れの虫垂炎!手術をする決意をしたひとこと

19歳の時の話。

「ああああああー------」

朝、おなかが痛くて起きた。脂汗が噴き出ていた。

いや、起きたら痛かったのではなく、痛いから起きたのだ。

腹痛とっても体の真ん中(胃のあたり)ではなく、下腹部の端っこの痛み。

横たわったまま右足をあげて痛かったら、虫垂炎…と聞いたことがある。

おそるおそる右足をあげる。

うっ・・・・

確定だ。

絶対、虫垂炎だ。

虫垂炎じゃなかったとしても、まずい…。この痛みは、やばい…。

右足を上にあげなくても、痛い、痛いよー!


その時、私は、オランダに短期留学をしていた。3ヶ月程度の滞在。オランダは英語が通じる国ではあるけれど、海外で、こんなことになってしまうとは。

確か、私が寝泊まりしていた大学の寮に医者が来てくれた。そして「これは虫垂炎ですね」「総合病院に行ったほうがよい」と言った。

やはり…。

でもね、海外で手術をしたくない。

虫垂炎だったら、がんばって日本に戻って、手術をすればいいじゃん。

親だって娘が海外で体にメスを入れることを反対するであろう。「日本に戻ってきなさい」という言葉を期待して国際電話をかけた。

LINEも、メッセンジャーもSkypeも、Zoomもない時代。

1分、数百円の世界です。

「お母さん、絶対虫垂炎だと思う。保険に入っているのでカバーはされると思うけど、手術になるのは嫌だよ」と言った。

そうしたら、母が言った。

「オランダで、手術をしたほうがいいよ。」

あ、私のいまの状況はそんなに悪いのか。

オランダから日本へ飛行機で移動中、虫垂炎が破裂することを恐れて母はそういっているのだろう。

確かにこの痛みは、日本までの移動は耐えられないかもしれない…。

「だって、ターヘルアナトミアを出した国だよ」

「は?」

「ほらほらほら、杉田と前田が、がんばって訳した、あの本を出した国だよ。だから大丈夫!」

杉田と前田は、おまえの友達かっ。

そんな突っこみができる状況ではなく、盲腸の痛みが私の脳まで蝕んだようだ。

「そだねー、確かにー」

そう母親に言って、私は電話を切った。


その後私は、車に乗せられ総合病院に送られる。

ここからは、痛みで意識が朦朧としている中での医師との会話が始まった。

医師の診察は、やはり虫垂炎(だと思われる)

医師から「どうするかね」と聞かれ(たように思われる)

Please cut me.  私を切ってください。

という名言(迷言!?)を述べると、私は即、手術室に送られた。

人は痛みの中、正しい文法とか、英単語を脳裏に描くのは無理である。


全身麻酔で、虫垂炎の手術をした私。10センチほどの手術の後。「溶ける糸」を使われることもなく、細い鉄の糸(というか針金)で縫われた傷。

抜糸のときは剪定ばさみのような医療器具で、ばしばしと針金(ではなく、糸…鉄の糸)を切らた。

そしてその傷跡は、だいぶ残りつづけ、大学で日本史専攻だった妹と温泉に行くと「切腹のやりかけのような傷跡」と言われる。


でもね、海外で体調を壊すと何かにあやかりたくなる。

All or Nothingで、結論を言ってもらいたくある。

そんな中

「だって、ターヘルアナトミアを出した国だよ」

は、かなりのインパクトとともに、決断をするに至るにふさわしい一言であった。

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