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敬意と回想に満ちたハートウォーミングなステージ 小泉今日子『マイ・ラストソング』レビュー

4月から『あまちゃん』4K再放送が始まっている。同作は近年の朝ドラ、また、クドカン宮藤官九郎、そして東日本大地震を深く心に刻み続けさせてくれる最高峰と個人的に位置付けている傑作である。月〜土が帯、日曜総集編とドラマ愛好者には、いささか大袈裟ながら毎日『あまちゃん』という至福の毎日である。
ドラマの主役は言うまでもなく能年玲奈あらためのんである。けれども同作を佳品になさしめているのは狂言回しとして母春子を演じる小泉今日子であること周知の通り。おかげで、毎日のん以上に毎日小泉今日子で嬉しく、わが家では配信全盛でしばらく遠ざかっていたDVDプレイヤーを4k有機elテレビにつないで知る人ぞ知るの名作『マンハッタンラブストーリー』をマイコレクションから取り出しある意味『あまちゃん』伏線篇として合わせて楽しみながら、4K録画とDVDとを夕餉の肴にしている。
そうした小泉今日子熱昂じて、小泉今日子が永年ライフワークのようにして公演を重ねている浜田真理子との『マイ・ラストソング』横浜ライブ(5月7日Billboard Live YOKOHAMA)に足を運んだ。同名CD発売直後の営業宣伝でもあった模様だが、小泉今日子の久世光彦をまっすぐ尊敬する親愛の情に満ちた、浜田真理子との掛け合いも楽しい心温まるステージだった。

いまが取り立てて不遇というわけでもないのに、昔の人は、どうしてこんなに恋しいものだろう 

久世光彦は『マイ・ラスト・ソング』の「何日君再来」のくだりで、そう書いている。自分にとっての大切な存在を、その亡き後、思い返すときの優しい心情を普遍性豊かに表した字句である。

小泉今日子の、同書名を冠したステージには、紛れもなく、その恋しさが満ち溢れていた。真っ直ぐで、誰かと比べたりするんじゃない、心から敬意を発することの、温かさ美しさは格別である。そうした想いに抱きしめられる2時間弱のステージには、混じり気のない親愛感があった。初演から15年という年月による熟成感もあったな、と終演後、そぼ降る雨の中を馬車道を歩きながら思い至ったことだった。

横浜から始まったこのたびの5月6月のツアーは、すでに大阪まで回数を重ね、その後、島根、岐阜、北海道と回って、しんがりは東京有楽町とのことである。

いつの間にか戦前化しつつある、いやすでに戦中感のある現況を、小泉今日子、浜田真理子と声をあわせて、親愛の情に心震わせながらも、「よのなかばかなのよ」と中島みゆきの調べに乗るのも一興確実である。そして、懐かしい歌たちを聴きながら戦後民主主義を生きたことの重みを噛み締めながら、ひと時ではあるが、いつも見ていたあの青空を取り戻すことができる。

ツアー公式サイトは以下で。

https://imashow.jp/schedule/334/


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