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【公民連携】「アンビシャス」に学ぶ自治体の機動力と投資回収の視点

声を形に、新しい日南!

先日、「アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち」(鈴木忠平著、文藝春秋)を読了しました。

めちゃくちゃ面白かったです!
そして、まちづくりという観点からも、いろいろ学べるところがありました。


どうして北海道日本ハムファイターズの本拠地が、札幌市から北広島市に移ったのか―。
総工費600億円のボールパーク事業が、どのように成功したのかー。

北広島市役所、札幌市役所、住民、球団職員。さまざまな関係者が織りなす人間ドラマがその背景にあったことを、丹念な取材に基づいて描いています。

この本で私が学んだのは、

公民連携において自治体に大事なのは、スピード感

まちづくりにおいて大事なのはビジョンと利益追求

の大きく二つです。
以下にその理由を書いていきます!


その目で見て圧倒されたエスコンフィールド

どうして、この本を読もうと思ったのか。
それは昨年、日ハムの新球場、エスコンフィールドHOKKAIDOを擁する北海道ボールパークFビレッジを見て、圧倒されたからでした。

私が訪れたのは残念ながら野球のオフシーズンだったのですが、それでもこの球場が野球を楽しむだけではなくて、「野球を基軸としたまちづくり」の施設だということが伝わってきました。

ボールパークは球場だけではなく、ホテル、グルメ、温泉、ショッピングなどさまざまな施設が複合的に備えられており、まさにそこに行けば野球観戦以外でも、1日中遊べる環境なのです。

私が特に感動したのは温泉です。

球場を見下ろしながら温泉に入って飲むビールは最高でした。
これを野球を見ながらできたら本当に最高でしょうね。

温泉でビールを飲みながら見下ろせるフィールド

また、パーク外には分譲マンションや認定こども園も整備されており、球場を中心としたまちづくりが進んでいます。それによって、めちゃくちゃ地価も上昇しています。

ボールパークによって、北広島市というまちは完全に生まれ変わりました。

誰も知らなかったまち「北広島市」

北海道に行けばだいたいの人が乗ったことがある「快速エアポート」。
新千歳空港と札幌市をつなぐ重要な路線です。
その快速が停まる北広島市。
北海道に行った誰もが一度は電車内で停車駅のアナウンスで耳にしたことはあるはずですが、その存在を球団移転の話以前に認識していた人はほとんどいなかったようです。
かくいう私もそうでした。
この本の中では、球場移転前に北広島市の認知度を観光客向けにアンケートしたところ、まさかの認知度0%だったという悲しいエピソードも載っています。

日ハムは札幌市などが所有する札幌ドームに、毎試合、800万円前後と言われる多額の施設使用料を支払っていました。
他球場では球団側に入るはずの広告看板や場内の飲食収入などもドーム側に握られていたので、球団側には不満が募っていました。

しかしこの本を読むと、単純に札幌ドームが嫌で日ハムが北広島市に移転したわけではないことがわかります。

熱意と理論で構想を導いた二人のキーマン

そもそも日ハム側には、単純に「野球を楽しむ球場」ではなく、「野球を基軸とした総合エンタメ施設を活用したまちづくり」をしたいという思いがありました。

並々ならぬ熱意を持っていたのが、前沢賢さん(北海道日本ハムファイターズ事業統括本部長)という方です。
この本では、前沢さんが、壮大なボールパーク構想の重要な立役者として描かれます。

開閉式の屋根を備えた球場

球団の親会社の日本ハムはそもそも精肉会社で、本業でもない球団経営に、会社始まって以来の巨額の資金600億円を支出することについて、社内では反対派がいたようです。
会社もビジネスなので、スポーツに対する熱意やボールパーク事業へのロマンだけでは、首を縦に振らなかったのです。
しかし、経営陣からのシビアな指摘に対して、しっかりと収益が確保できるという試算をはじき出して成功に答えたのが、三谷仁志さん(事業統括副本部長)でした。
三谷さんは、商社から球団職員に転身した財務のスペシャリスト。
前沢さんの熱意と三谷さんの理論という両輪によって、事業が前進したと言えます。

実際、エスコンフィールドを運営するファイターズスポーツ&エンターテイメントの開業1年目の球場売上は251億円。札幌ドームを本拠地としていた19年と比べ93億円の増収をたたき出しました。

https://biz-journal.jp/company/post_377121.html

民間の考え方がまちづくりで大事な理由

私は、まちづくりについては、こういう民間の考え方が大事だと思うのです。
まちづくりだから、地域のためだから、スポーツ振興は大事だから。そういった理由で採算を度外視したお金を投入することは誰のためにもなりません。まちづくりに、投資という側面は欠かせないのです。
投資である以上は、利回りがプラスにならないといけませんし、そのためにはしっかりとした採算がとれるという裏付けをもって取り掛かることが必要です。
もちろん、ロマンや熱意も大事なのは言うまでもありません。そうした明解なビジョンがなければ、一つの物事に向かって多くの人を動かすことは不可能です。
しかし、それを支えるだけの理論がしっかりあってこそ、本当の発展的な成功があるということを、この前沢&三谷のコンビから感じたのでした。

ダグアウトから見た球場

「どこ」でやるかより「誰」とやるのかー。札幌と北広島の明暗を分けた機動力の差

札幌ドームからの移転が決まったのちの論点は、どこにボールパークをつくることになるのか。札幌市か、北広島市か。
物語の最後まで、北広島市への移転決定に至るまでのプロセスが描かれます。
作中で前沢さんの心境が次のような趣旨の言葉で表現されています。

「どこで事業をやるかより、誰と事業をやるかの方が大事だ」

作中で、札幌市はどこに決定機関を持っているのかわからない軟体動物のようにたとえられます。
6万人規模のまちである北広島市に比べて、200万人規模の札幌市。日本の五大都市に数えられる同市は、財政規模も大きく、企業誘致に関しては多額の企業優遇の予算を割くことができたはずです。

しかし、北広島市は機動力において圧倒的に札幌市を上回っていました。

早々と建設予定地を決定して細かい論点まで協議を重ねていた北広島市に比べて、札幌市は最後まで建設予定地ですら、満足に決定できないまま、タイムリミットを迎えてしまいます。

北広島市職員のフットワークの軽さを担っていたのが、市長の右腕である川村裕樹さんです。
川村さんは1998年夏、公立の進学校ながら甲子園に出場し「ミラクル開成」と呼ばれた札幌開成で4番バッターを務めていました。
各所に登場する野球好きの男たちの熱意を描いているところも、この本の見どころの一つです。

最後に

北広島市の発展は、人口5万人という同程度の規模の日南市にも希望を与えるものだと思います。
日南市はフットワークの軽さを生かして、民間企業と協力しながら発展していく。もちろん日ハムほどの球団が来るような素晴らしい話はめったにないでしょうが…。
いや、いつなんどき巡ってくるチャンスに向けて普段から靴紐をしめておかないといけません。そういうときに必要なのは、スピード感と実行力のあるリーダーであることは言うまでもありません。

私もこの本を読んでさらにモチベーションが上がってきました!

さあ、新しい日南をつくっていきましょうー!

写真左奥は筆者

余談ですが、この本を読んでもう一つ思うことがありました。
記者時代、私は新聞社で月に1回、コラムを書いていましたが、そもそもおもしろいコラムになるかどうかは、書く前から決まっているのです。
取材相手が魅力的で、かつ充実した取材ができていれば、勝手にすらすら筆が走ります。
この小説に登場するさまざまな人たちもとても魅力的な人物です。
その素材の良さが、ノンフィクション小説としてのこの作品の内容を極限まで高めています。鈴木忠平さんの「嫌われた監督」もそうでしたが、そもそもの題材選びがとてもうまいですよね。


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