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「○○を食べるとがんが消える」の本が出版されている、あまり知られていない理由。

がん患者さん・ご家族の家庭の食事に役立つレシピサービス「カマエイド」を運営している門間です。カマエイドでは、「味を感じにくいとき」「便秘」「下痢」の悩みを抱えているときなど、悩み解決につながる「食事の工夫(レシピ・コラム)」を掲載しています。

突然ですが、「○○を食べるとがんが消える」。このような目を引くタイトルの本が販売されています。近くの本屋でも並んでいますし、Amazonでも見かけます。

これらの本が出回っていることを危惧されているがん専門医の方も多く、「食事でがんは治ることはない」と、メディア・SNSで情報を発信してくれています。Facebook・Twitterなどでは、医療従事者の方々の情報発信が増えてきていますので、これらの情報ががん患者さん・ご家族の目に触れる機会は減ってきているかもしれません。

しかし、ふとした疑問として…。
なぜ今でも本は出回っているのか…??

医師や医療従事者でない方は「本になってるし、ちゃんと根拠や効果もあるんじゃないの?」と感じる方もいるかもしれません。また、学生時代の名残りなのか、「本屋や図書館に並んでいる本は正しい情報である」と考える方もいるかもしれません。

カマエイド事業をやっていますので、私も食材や食事面について質問を受けることがあります。「人参とかブロッコリーがいいんですよね?」「玄米とかも?」などなど。私は医師・医療従事者ではないので、食事に限らず治療方法など医学的な効果効能については個人的意見はあまり話さないようにしていますが、前述したような質問を受けた時は、薬機法の食品定義についてお伝えすることにしています。お伝えした後は、大体の方が「知らなかった」「本(情報)の見方が変わりました」と感想を伝えてくれます。

どういう内容かというと。
まず健康食品など食品は、薬機法では以下ように定義されています。
①医薬品・医薬部外品
②保険機能食品(特定保険食品、栄養機能食品、機能性表示食品)
③健康食品(一般食品に分類)


それぞれチラシ・Web・広告などで表現が認められている範囲については、以下のとおりです。
①医薬品・医薬部外品
⇒効果効能あり。効果効能はあるけれども、処方箋に関する広告は出稿してはいけないなどの規制も。
②保険機能食品
⇒特定の範囲で効果効能あり。臨床試験などで確認できた範囲のみ、効果効能を謳って良いとされています。
③健康食品
⇒効果効能はない(わからない)。特定の病(癌やアトピー等)、特定の体部位(臓器・肌・免疫等)への効果効能を示唆してはいけないと規制されています。(あくまで栄養成分を補給でき、普通の食品より健康に良いとして販売されている食品)

この定義でポイントなのが、食材やレシピといった「明らか食品」については薬機法の対象になっていません。極端な話、仮にまったく効果効能がなかったとしても効果効能を謳えてしまいますし、本も出版できてしまいます。(本に限らず、TV等のメディアでも発信してOKです。TVで「○○の食材が●●に良い」みたいな番組が多い理由もわかります。)

健康食品は一般食品として分類されているものの、薬機法の対象となっており、特定の病や体部位への効果効能を示唆することが禁止されています。では、健康食品と同じ一般食品である食材やレシピといった「明らか食品」が、なぜ薬機法の対象となっていないかというと・・・「明らかに食品だからみんな医薬品と間違えないですよね」という理由とのこと・・・。

という背景(薬機法の抜け道?)があり、「効果効能の根拠があるから本になっている」のではなく、食材やレシピは薬機法の対象にならないので、効果効能の有無に限らず出版してもOKということのようです。他にも、景品表示法や健康増進法など関連する法令もありますが、「○○を食べるとがんが消える」という本は、絶妙な感じで抵触する法令が見当たりません…。
この薬機法の対象範囲については、知っている方はなかなか少ないと思いますが(私も網羅できているわけでありませんが…)、この対象範囲を説明すると「本(情報)の見方が変わりました」と感じていただける方も多いです。

食品については、特定の効果効能が見られる場合、医薬品でなくとも「保険機能食品」という枠が設けられていますので、本当に効果効能があるなら本ではなく「保険機能食品」になっていると思っています、という個人的意見を付け加えておきます。

ここまでの薬機法の対象範囲については、広告などで薬機法に関わっている方以外で知っている方は少なく、あまり知られていない視点だと思います。

さらに続けて。
ここからは個人的見解も強めです。先程の薬機法の抜け道に加えて、「本がマーケティング(宣伝)に活用されている」場合、また捉え方も変わってくるのではないでしょうか?
私も何度か出版の営業を受けましたが、実は自費出版として数百万円で出版できるかつ、全国の本屋さんの割といいところに置いてもらえるとのこと。クリニックを運営されているようでしたら、セカンドオピニオンや診察などで出版費用を回収できるため、ひとつの宣伝方法として費用対効果が良いのかもしれません。仮にそういう目的でなかったとしても、結果としてマーケティング効果はあるでしょうし。。。出版社の方には嫌がれるかもですが「癌」に関する出版は是正されてほしいです。
本の中身の効果効能に関する否定としては「食事でがんは治ることはない」と医師の方々が発信してくれています。私からとしては「法令に触れないようマーケティング(宣伝)に利用されている情報」という、別の視点から否定してみました。実際、これらの「○○を食べるとがんが消える」系の情報を発信している人(本だけでなく最近はYoutubeなども)は、クリニックを運営していたり、無農薬野菜の生産・販売をされていたりします。信念からくるものか、マーケティング活用なのかは本人にしかわかりませんが。。。

「○○を食べるとがんが消える」と本の中で紹介されている食材やレシピにも、良い点もあるかもしれません。伝え方や、メッセージの出し方の問題ですよね。。。インパクトがないと情報が伝わらりづらいというのも理解はしていますが、「癌」という深刻な病、藁をもすがる思いで情報を探している患者さん・ご家族に対しては、不適切な伝え方だと思っています。

最後に補足として。
このような「○○を食べるとがんが消える」については、全く研究されていないわけではなく、JSPEN等の栄養系学会のテーマとして挙がっているものもあります。糖質制限・ケトン食などです。これらについて、研究されていないわけではなく、まだエビデンスが不足しているため、標準治療(および支持療法)として提供はされていません。逆にいうと、今の段階でこれらを推奨しているのは怪しんだほうが良さそうです。プレスリリースもありましたので、以下に大阪大学の研究についてのリンクも貼っていますが、糖質制限・ケトン食は医師・管理栄養士などしっかり栄養状況の数値が見れる専門家のサポートが必要であり、個人レベルで取り入れるのはリスクが大きいようです。(大阪大学含め、基本的には、臨床研究の機会は提供されていないと思います。)
参考URL:大阪大学における癌ケトン食療法5年間の取り組みについて
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/53/5/53_207/_pdf/-char/ja

長くなりましたが、以上です。
薬機法・景品表示法等の解釈に間違いがありましたら、指摘していただけると助かります。

次は、補完代替療法について書こうと思っていますが、先にトピックスとして。最近、補完代替療法の講演会に参加しましたが、がんに対して効果(がんを縮小するなど)がある補完代替療法は現在でも無いとのことでした。。。また書きます。

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