卒論でずっと考えていたガンダムのモヤモヤを書いてみた ジオンの地球侵攻の必要性

見て下さりありがとうございます。
自分のゼミが割と自由なとこで、教授もアニメに博識なため機動戦士ガンダムについて書こうと決めたのがこの卒論の始まりです。

で、お題のガンダムのモヤモヤとはなにか。それはネットでちらほら見受けられる、ジオンは地球に攻める必要はなかったという意見についてです。

個人的にこの意見割と見るなと思う反面、その地球に攻めなくていい理由を誰も語っていないため、なぜジオンは地球侵攻する必要はなかったんだろうとずっとモヤモヤしていました。

そこでじゃあ卒論で自分で明文化してみよう!となったわけです。(教授がガンダムを観ている方でよかった)

以下は私の卒論を一部修正したものになります。
卒論ですので長いですがお付き合いいただければ幸いです。

機動戦士ガンダム 一年戦争におけるジオンの地球侵攻の必要性

はじめに

 私が今回このようなテーマを取り上げた理由は、ジオン軍の地球侵攻は必要ないと長年感じていたからである。それはあくまで短絡的な思考からくるものではあるが、ジオン軍の地球侵攻について個人的に無謀な作戦に思えたからである。しかしこれに関して述べているものは意外にも少ないことから自分なりにその無謀に思えた理由がなんなのかを考えてみたいと思ったのだ。
 この問題は機動戦士ガンダムの一年戦争に由来するが、一年戦争(ジオン独立戦争)とは宇宙世紀0079年に、地球と宇宙を舞台に、地球から宇宙を支配していた人類統一政府である地球連邦政府と、地球から最も遠いスペースコロニーのサイド3(ジオン公国)との対立が激化し、勃発した戦争だ。ジオン公国は連邦の統治や政策への不満を背景に、地球に対する独立を求めて戦争を始めた。これに対抗する形で、地球連邦政府は既存の覇権を維持するため、ジオンの要求に抵抗した。
 戦争の引き金となったのは、ジオン軍の奇襲攻撃であった。ジオンは巨大なモビルスーツ(以下MS)と呼ばれる巨大な人型兵器を用いて地球連邦に侵攻し、ジオンは劣勢の立場ながらMSの投入で戦局を急激に変化させ地球連邦に多大な被害を出させた。一年戦争は激戦を繰り広げ、多くの人命が失われた。地球と宇宙各地の戦場で熾烈な戦いの末、物語は戦争の終結で幕を閉じる。一年戦争はジオン公国の敗北で決し、ジオンは国家を動かしていたザビ家主要人物の全員の死もあり、ジオン公国は解体され再び共和制へ移行した。
 以上が機動戦士ガンダムの一年戦争の要約となるが、根本的に宇宙に人が住んでいる理由が本文において重要になるため触れておきたい。ガンダムの世界において宇宙居住者が発生したのは、人類が増えすぎたことによること、それによる環境破壊による地球環境悪化が原因である。環境破壊の抑制や人口増加を解決するには地球のみに人類を納めておけないと地球連邦政府は判断し、宇宙にスペースコロニーという人工の都市を建設し半ば強制で移民政策を行った。宇宙移民政策が進行していくにつれて地球人口問題や環境破壊問題に一定の効果が現れてきたことにより、やがて宇宙移民は中止されるようになっていった。こういった状況の中、一部特権階級や政府関係者、連邦軍部中枢の要員の地球残留や、宇宙移民者はスペースコロニーの建造費回収のための重税を強いられていることや、地球からの一方的な政策や差別的な風潮もあり地球居住者(アースノイド)と宇宙居住者(スペースノイド)の間で潜在的に対立が酷くなり、弾圧とそれに対する反抗、そしてまた弾圧、反抗という悪循環を生み、一年戦争のようなある種のスペースノイドの感情爆発と取れるような事象まで起こってしまう。こういったことは機動戦士ガンダムの作中であまり語られない部分でもあり、派生作品等で補足されていることが機動戦士ガンダムシリーズでは多い。

ガンダム世界における地球圏の位置関係である。L1からL5はラグランジュポイントという地球と月の重力と慣性力、遠心力の均衡が取れるポイントであり、このラグランジュポイントを起点にスペースコロニー群の各サイドやルナツーという地球連邦軍拠点の小惑星、ジオンの宇宙要塞等が周回している。

本文

 さて、一年戦争の一連の流れや背景は先述の通りであるが、機動戦士ガンダムでは他の作品でありがちな単純な正義と悪の戦争というような内容ではなく、我々の生きる現実世界の戦争のような複雑な要因を孕んでいるため、一概に一つの結論にまとめることはできないことを理解していただきたい。そのため複数の結論を出すことを許していただきたい。
まずはジオンの抱える諸問題を考えていきたいと思う。

1.ジオンが戦争に踏み切った要因

 ジオンの科学者であるミノフスキー博士によって発見された新たな粒子は、散布することで広範囲に電波障害を引き起こすという特性を持っていた。これは無線通信や誘導兵器、レーダーなどを無力化することができ、地球連邦軍の得意としていた長距離砲撃や誘導兵器を黙らせることができる。ミノフスキー粒子を用いることで宇宙空間での戦闘は有視界でしか戦えなくなるが、地球連邦軍の圧倒的な攻撃を封殺できるためジオンとしては夢のような発見である。このミノフスキー粒子を用いた技術などは後にミノフスキー物理学という学問にまで発展し宇宙世紀においてとても重要な役割を果たしていくことになる。しかしミノフスキー粒子がなんにでも作用するわけではなく、可視光線には影響がないため通信はレーザー通信や接触通信、発行信号を用いればいいし、武装の照準には光学照準を用いれば対処可能ではある。しかし通信環境はこれまでとは悪化し、現実世界の現代よりも未来なはずなのに、ミノフスキー粒子の登場で通信環境に至っては20世紀と大して変わらない状態になってしまい、ミノフスキー粒子の影響で通信環境が悪い状況が本編でも何度か描かれている。光学照準は半ば人力で敵に狙いを定め無ければならないため射手の技量によって左右される。また光学照準で武装を使用せざるを得ないということは有視界の範囲でしか戦闘できないということでもあり、交戦距離が必然的に短くなるということである。しかし地球連邦軍の主力である宇宙艦隊をミノフスキー粒子の効果で誘導兵器や長距離砲撃を封印させることができ、艦艇は近づけば近づくほど撃破することが容易になることや、対空砲火があったとしても機動性で優れるMSは回避行動に余裕が生まれ、対艦戦闘では無類の力を発揮することが期待できるだろう。
 ミノフスキー粒子の有名な応用例としてビーム兵器とIフィールドがある。これまでビーム兵器というのは宇宙艦艇のような巨大な動力炉をもった兵器でしか運用できなかったが、ミノフスキー粒子の登場でMS単位でも応用次第でビーム兵器が使えるようになった。ジオンではMS用のビーム兵器開発が難航したが、地球連邦ではガンダムがその代表例で、ガンダムが装備するビームライフルは艦砲並みの威力をもち、ビームサーベルは実体剣ではないため場所を取らず、発生されたビームの高熱によって攻撃できるというこの二つの武装は後の宇宙世紀のMSのスタンダードな武装となった。
 そしてIフィールドはビーム兵器の攻撃を防ぐことが可能であるが、実弾の攻撃を防ぐことはできない。またMSに搭載するには発生装置が大きすぎるため大型モビルアーマーや後世の大型MSに搭載されることが多い。
 話を戻して、この新たな粒子の発見とジオンにはもともと機動警察パトレイバーの世界のように民間で使用される人型の重機としてモビルワーカーが使用されており、それらを製造していた企業も国内にあった。これに目を付けたジオン軍はモビルワーカーを発展拡大させ18mの巨大な人型兵器であるモビルスーツを開発し、ミノフスキー粒子の研究で得られた応用でIフィールドを生成させ、これを用いて製造された熱核反応炉は従来のものよりも格段に小型化されMSの動力炉として搭載されるようになる。そして開発されたMSは多数のスラスターを装備し、宇宙空間での仮想敵である地球連邦の航宙戦闘機よりも機動性を高めることに成功させた。また様々な環境を想定して機体内部に武装を埋め込むと汎用性が損なわれるということから、あたかも人間のように武装を手に持たせて、戦闘だけでなく手による作業も可能なように仕上げた。これが後のザクシリーズに繋がっていくわけだが、仮想敵である地球連邦軍は宇宙艦艇と航宙機が主力なため、MSの機動性を活かして連邦軍艦隊に肉薄し至近距離から対艦攻撃を与えることで連邦軍に打撃を与えられるとジオン軍は確信を持つことができた。またこれら以外にも様々な政治的要因も絡んで独立戦争を仕掛けるに至ったわけだが、それらは後述する。

2.ジオン軍の兵器事情

 ジオン軍は兵器構成そのものに問題があるように思う。
 ジオン軍の兵器で有名なものでザクやドム、グフ、ゲルググなどが挙げられるだろう。これらのMSはコンペティションでジオン軍に採用されておりジオンに3社ある軍需企業のジオニック社、ツィマッド社、MIP社によって製造されている。問題なのは戦時下でもコンペティションという時間のかかる手法でMSの採用を決定している点と各社でMSの規格や武器の規格が異なり、兵站に多大な影響を及ぼすことが考えられる点である。コンペティションは複数の案から優れたものを選択できるという長所があるが、顧客からの発注をもとに各社で製造案を試作していかなければならないため採用までに時間がかかってしまう。ジオン軍内部にも兵器開発を行う部門があるようだが、既存MSの量産よりもニュータイプ用MSの試作や実験、コンペティションで採用された兵器の試験評価などが主だったようで国家主導でのMS生産が厳しい状況だったのかもしれない。しかしジオン軍で一番普及しているMSであるザクⅡなどを製造しているジオニック社は半官半民の企業なので、ジオニック社を国営企業に据えてMS製造を国家プロジェクトとし、ジオニック社を中心に各社でライセンス生産やノックダウン生産などで数をそろえ、必要になれば各社の得意とする技術を用いたMSを提案・製造していくのが戦時下では効率的であると考える。
 またコンペティションで兵器を採用しているにしても規格が異なる兵器を過剰に採用しすぎている点も問題である。この問題で特に酷いのが地球侵攻時に用いる水陸両用MSで、ズゴックや水中型ザク、アッガイ、ゴッグ、ゾッグ、ゾゴック、アッグ、アッグガイなどこれら以外にも多数開発されている。大半は試作機同然だが製作されても少数のみでほぼすべてが地球侵攻で失われたという。しかしこのような実態になってしまうことは仕方のないことでもある。理由としてMSはジオンによって最初に生み出され、宇宙や陸で開発・運用する面ではノウハウがあるだろうがそれでも手探りの状態であり、スペースコロニーでは海や河川などはあまり再現されておらず地球の環境に適したMSを開発するというのは難しいというのは容易に想像できる。そのため地球の環境、特に水が七割を占める地球では水際での戦闘が頻発すると考えたのだろう。そこでどういった特性を持った水陸両用MSが適しているか探るため複数採用されたのだと考えられる。その結果として、機動戦士ガンダム本編ではズゴックやアッガイ、ゴッグの登場頻度が高かったことから水陸両用MSはこの3機で妥協を得られたのだろう。しかし実際に地球で運用してみると地球連邦軍本部のあるジャブロー攻略以外では目立った活躍はなく、わざわざ水中で行動するよりもSFS(サブフライトシステム)というMSを航空機の上に乗せ移動し輸送する方法や、MSそのものの性能向上により水陸両用MSでなくともある程度水中で行動できるようになったため、後年ではわざわざ開発されることがほぼなくなった。
 ジオンのMSの規格の話題に戻るが、ジオンでは各メーカーや各MSごとに規格が異なっており、ザクⅡでは使える武装がドムでは使えないというような事例が多数起きていた。これにより各MSごとのパーツや弾薬を各部隊へ供給せねばならないため兵站への過剰な負担になることや、パイロット育成や他からMSへの機種転換時に各MSで統一された操縦方法ではないため、ほとんどの機種で一から教育せねばならず、時間の浪費を招いてしまう問題も併発していた。これにより熟練兵がたとえ高性能なゲルググを受領できたとしても機種転換を嫌い、結果として乗り慣れているザクⅡに乗り続けるという事象もあったようだ。これに対処するためジオン内部でも統合整備計画というものが行われてはいた。具体的な内容としてはMSの使用する武装の統一、コックピットの操縦系規格の統一、各メーカーで共通のパーツを使用し生産性の向上とパーツの量産効果によるコスト抑制などであった。しかしこの計画が始動したのが一年戦争末期であり何もかもが手遅れであったことは否めない。またこの計画にも欠点があり、従来生産されていたパーツや武装、弾薬等との互換性が全くなかったと考えられる。

 例としてザクⅡシリーズに用いられていたマシンガンの口径と統合整備計画製のマシンガンでは口径や構造が根本から異なること、既存MSと統合整備計画製MSの外見からでも判断できる構造の違い、同じ統合整備計画製MS同士でも外見上の共通点が見られず、パーツが共有されているのか疑問な点が挙げられる。これらは各MS製造メーカーが異なるために外見上の共通点が見られないことや各MSによって特性や性能が異なることが要因であると考えられるが、機体内部の構造まで設定されていないためここからは憶測の域を出ないことを理解していただきたい。おそらく本計画では内部構造のパーツなどはある程度統一され、外観は各MSの改良やデザインの刷新に留まったのではないだろうか。本気で規格を統一したいのであれば生産するMSを汎用性の高い機種に一本化し、武装や装備によって幅広く対処するというのが効率的であろう。また武装も既存兵器を基礎としつつマシンガンならマシンガン、バズーカならバズーカでそれぞれ規格を統一するなどの方法が考えられたであろう。これに対し地球連邦は連邦軍上層部の懐疑的な意見が多数でMS開発こそジオンに遅れるものの、いざ生産までこぎつけるとジオンとの国力差を見せつけるかのように宇宙や地球各地にある連邦軍工廠によって急ピッチに大量に同一規格のMSを生産しており、たった数ヶ月でかの有名なガンダムの簡易量産機を数千機も生産している。操縦系規格も既存の戦車や戦闘機などと類似した技術を用いて構成されておりパイロットの機種転換を行いやすく、また規格が統一されているため兵站への負担を最小限にしつつ、大規模な主力兵器の転換を行っている。またこのMSはジオンのザクⅡよりも性能は上であるとされており、連邦軍がいかに本腰を入れて反攻の準備を進めていたかがうかがえる。効率性を考えて様々なことを実施するのは良いことだと思うが、実施する前にある程度予想できたのではないだろうか。ジオンは一年戦争中様々な面で迷走してしまう悪い癖があるようだ。

画像:ベース機と統合整備計画製の比較用

リック・ドム
リック・ドムⅡ(統合整備計画製)
ザクⅡ
ザクⅡ改(統合整備計画製)

 次にMS以外の兵器が地球環境に適していない、もしくは連邦軍兵器よりも劣っている点が挙げられる。該当するのがドップという戦闘機とマゼラアタックという戦車である。ドップはそもそもジオンが地球侵攻を予定していなかったため、地球侵攻時に急遽開発された戦闘機である。地球の大気圏内を飛ぶ航空機開発においてコロニー国家であるジオンに開発のノウハウがあるはずがなく、コンピュータシミュレーションによって開発されたが、そのせいか機体の空力性能が悪く、大出力のエンジンと多数のスラスターで機動性を保たせているため燃料の消費が激しく航続距離が短いという運用面に難がある兵器になっている。このためジオンでは大型の輸送機搭載し長距離での作戦に投入したり、飛行基地防空のために運用する描写が見受けられる。しかしジオン軍が地球で使える戦闘機はこれしかなく、短期間で開発・配備されたこともあり新たな戦闘機を開発する余裕はなかったらしく、否が応でも使うほかないというのが実情であったようだ。次にマゼラアタックだが、この戦車は通常の戦車のように主砲を旋回することができず、その代わりに砲塔部分が飛行するようになっている。これは通常の兵器ならば上面から攻撃を受けることは少ないため装甲が薄くおり、その弱点を狙うために設計された機構であるが、飛行すると主砲の命中精度が著しく低下することや、取り残された車体には武装が機関砲ぐらいしかがなく、仮に主砲だけが生き残っても車体が破壊されて帰還できない問題を孕んでいることや、砲塔そのものの飛行可能時間が5分と短く、これならば飛行してまで相手の装甲の薄い箇所を狙うほどの戦術的価値があまりないなど、理に適ってははいるがここに関しては技術や性能が戦術に追いついていないのだろうと考えられるだろう。また鹵獲された地球連邦の戦車とマゼラアタックをジオン軍が比較した際、ジオン軍ですらマゼラアタックよりも地球連邦の戦車のほうが優れていると評価しているようで、マゼラアタックを製造するくらいなら陸戦用のMSを増産して地球侵攻の際の戦力を増強していたほうが効果的だったのかもしれない。

画像:ジオン製戦車と戦闘機、連邦製戦車と戦闘機の比較用

ドップ(ガルマ・ザビ専用機)
マゼラアタック
地球連邦軍多用途戦闘機セイバーフィッシュ
地球連邦陸軍61式戦車5型

3.国家体制そのものの欠陥

 ジオンは国家体制として立憲君主制のような政治体制をしている。議会と首相が存在しているが、国家元首にあたるデギン・ザビをはじめ、軍の総帥や司令官にデギンの子息を据えるなど実情としてはザビ家の独裁に近い政治体制になっている。特にジオン軍総帥であるギレン・ザビが国家の実権を握っているといっても過言ではなく、一年戦争末期に実妹に暗殺されるまで一年戦争を指揮していた。ジオンにおける独裁制の優れる点として戦争という状況では効率的に国家運営が可能なこと、欠点として指導者の思想がそのまま国家運営に反映されやすいこと、仮に為政者の思想が極端なものだった場合、戦争に勝利するか反対する国民を排除しない限りその思想が社会的に受け入れられない点、為政者の権力行使に抑制が効かなくなる点が考えられる。
 まずジオンにおいて独裁制が優れる点として、ジオンが一年戦争をしかけた理由として地球連邦からの完全な独立が目的であり、独立するには妨害となる地球連邦軍を倒さねばならない。この点ギレン・ザビはIQ240の天才と言われるほどに指導者としてはこの場合において適任であり、一年戦争初期における予想のしやすい短期決戦で地球連邦軍を攻略していった点は評価できる。また新型兵器として汎用性の高い人型巨大ロボットであるMSとミノフスキー粒子の実戦投入を決断したのもギレンであり、一年戦争初期に地球連邦宇宙軍の主力であった艦艇群をMSはその機動性とミノフスキー粒子の強制的に有視界距離で戦わせる効果を活かして実際に活躍し、その結果このMSとミノフスキー粒子の二つは宇宙世紀をジオン軍地球連邦軍問わずに既存兵器の概念を覆し新たな戦術と戦法として運用されるようになった。ギレン・ザビはこういった新しいものに対して懐疑的にならず評価し、いかに運用するかというのを導き出したという点、その頭脳からか冷徹さからか考え出された戦争指揮能力という点で優れているだろう。
 次に欠点として、これはジオンだけでなく現実世界の過去にも現在にも言えうる独裁国家の特徴でもあるが、まず指導者の思想が国家運営に影響されやすいことだ。ジオンの場合、旧第三帝国のヒトラーなどと比喩される場面も本編にあるようにギレン・ザビは選民思想を抱いておりジオン国民を優良人種と扇動し、ギレン・ザビの雄弁も相まって地球連邦に強い不満を抱いているジオン国内においては熱狂的な支持を得た。このことからギレン・ザビの吹聴したプロパガンダによって国民の思考は停止し、戦争こそジオンの正義を代弁できるという風潮を生み出し、ジオンの目的である地球連邦からの独立のため戦争を起こしやすくなるというメリットはあるが、その選民思想はジオン国民以外の一般人には否定されるような狂気じみたものであり、ジオンが建国される理由の一つともなった全人類が宇宙へ移民し進化するべきという意味のジオニズムという思想を先鋭化しているようで否定しているように感じる。そしてこのギレン・ザビの思想はジオンが地球連邦を打倒し地球圏を支配するようになって、半ば強制ではあるが初めてジオン国民以外の一般人に受け入れられるものであるため、一長一短と言えるのである。独裁制の欠点の二つ目である為政者の権利行使に抑制が効かなくなるという点だが、ジオンの場合、一年戦争初期にギレン・ザビ指揮の元、BC兵器の使用や大質量を伴うスペースコロニーの地球落下作戦などで地球圏総人口の半数を死に追いやっている。また一年戦争終盤でのソーラレイでの連邦艦隊攻撃では和平交渉に出向いていた父であるデギン公王が連邦艦隊とともにいるにもかかわらず、連邦艦隊もろとも葬り去ってしまっている。ギレンからすれば、邪魔な存在であった公王を消せたため戦争指導をよりやりやすくなったかもしれないが、これらの行動は元を辿れば選民思想から来る大それた権利行使と考えられる。詳細は後述するが、ギレン・ザビはジオン国民以外の人類をその思想からか人ではないと考えているとも本編からは観て取れなくもないため、思想と為政者が権利行使に歯止めが利かなくなる点においては繋がりがあるのではないかと思う。
 ジオンの行く末を担っているザビ家だが兄妹同士で対立があり、戦争を進めていくうえで弊害になる場面も多々見受けられる。第四子で突撃機動軍司令官のキシリア・ザビと第一子で総帥のギレン・ザビとではお互いの政治思想や軍の運用の話で何度も対立が起きており、キシリア・ザビはギレン・ザビに不満を抱いていたようである。これはジオン軍の行動にも現れており、キシリア・ザビはニュータイプという革新的に進歩した人類の研究を配下の機関に行わせているが、ギレン・ザビはニュータイプの存在を否定はせずとも戦争には不要と考えているようであり、実際に本編で活躍したジオン軍のニュータイプであるララァ・スンやシャア・アズナブルなどはギレン・ザビの考えるニュータイプではないと捉えられているようである。またこのようなお家騒動が結果として本編上におけるジオンの敗戦の原因にもなっていると考えられ、キシリア・ザビの一年戦争最終盤で、防衛戦の指揮を執っていたギレン・ザビを暗殺し、その暗殺のせいで指揮系統に一瞬の隙が生じたことが原因で連邦軍が攻勢を強め、ジオンはこれを抑えきれなくなり結果敗戦してしまったのだ。
 キシリア・ザビはギレン・ザビだけでなく第三子で宇宙攻撃軍司令官のドズル・ザビとも軍事面で対立しており、一年戦争開戦前にMSを中心とした軍備増強を唱えるキシリア・ザビに対し、宇宙艦隊を重要視していたドズル・ザビとで意見が対立し、結果としてギレン・ザビの調停もありジオン宇宙軍は海兵隊などを運用しMSを中心に編成されたキシリア・ザビが指揮する突撃機動軍と、MSも運用しつつ宇宙艦隊を主力としてドズル・ザビが指揮する宇宙攻撃軍に再編成された。この対立が尾を引いているのか本編ではドズル・ザビが拠点にしている宇宙要塞ソロモンに連邦軍が侵攻された際に、ソロモンから援軍要請をキシリア・ザビは受けていたが援軍を出すタイミングが明らかに遅くソロモンは陥落してしまった。以上の事柄だけだとキシリア・ザビはただ対立したがりな駄々っ子な妹という印象を抱いてしまうかもしれないが、ギレン・ザビが冷徹無慈悲で狂った思想を抱きつつも政治力に秀でていて、対するドズル・ザビは政治には関心がなく大艦巨砲主義を抱く軍人気質である。それら兄たちと比べればキシリア・ザビはギレン・ザビほどの政治力はないがギレン・ザビとの政争のためにドズル・ザビや宇宙攻撃軍、シャア・アズナブルなどを利用するなど政治力が皆無というわけでもない。またキシリア・ザビはニュータイプの存在が宇宙での戦いで有効なのではいう先見の明と、この両極端な兄たちとは思想的にも政治的にも対立してはいるがザビ家の中では父同様まともなほうであり、弟のガルマ・ザビや父のデギン公王が殺害された際は家族愛のような描写もあるため感情に任せて動いていたというわけではないと考えられる。

4.地球侵攻しなくてもよいのではないか

 ジオンと地球連邦の国力差を鑑みてみると、ジオンはわざわざ地球に侵攻しなくてもよいのではないだろうか。このように考えた理由は、地球侵攻を開始すると地球各地へ定期的に補給物資を地球軌道上から投下していかなければならないからだ。これはジオン軍の補給線が間延びすることを意味し、補給線の間延びは部隊への物資の供給先が増えることになり安定的な物資の供給に問題が起きる可能性がある。またジオン本国は地球から最も遠いサイド3にあるため、地球に向けた物資輸送だけでもコストがかさむことが容易に考えられ、財政をさらに圧迫することになるだろう。
 またジオンはコロニー国家であるため地球出身者が少なく、スペースコロニーと地球とでは環境に差がありすぎることから、ジオン兵が地球に適応するまである程度時間がかかるのではないだろうか。地球とスペースコロニーでは地球の重力を1Gとした場合、スペースコロニーでは0.8Gほどしかないらしく、このことから地球に降下したジオン兵はあまり自覚することはないが身体的疲労が早く来ることが考えられ、作戦行動に支障をきたす恐れがある。
 しかしこれらをまとめて考えてみても民衆や風潮を抑えつけることは難しいということである。思想や風潮は抑えつければ抑えつけるほど不思議と広まり力を増すものであるため、そこからもたらされた抑圧の解放のため強硬派があらわれたり、広まった風潮によってジオン国内は第二次世界大戦直前のドイツや日本のような戦争の肯定や賛美、どこからか湧いてくる戦争に勝利できるという自信と慢心に満ち溢れていると考えられる。しかも南極条約締結直前までは戦争遂行が順調に進んでいるということからも、ジオン国民の地球連邦への国民感情も相まってさらに地球侵攻を望む世論にあふれかえることは容易に想像できる。またこれは軍内部も同じでいくら軍人と言えど人間であるためなにかしかの思考や思想を持つはずであり、それが憎き地球連邦に対して直接手を下せる軍人という立場なら尚更こういった風潮は強いのではないだろうか。そのため地球侵攻を回避または選ばずとも、東条英機元首相が失敗したように世論や風潮的に地球侵攻に向かって行ってしまうのではないかと考える。

5.戦略的に考えるジオンの独立戦争

 これらの諸問題から鑑みて、本題であるジオン軍の地球侵攻は必要だったのか。結論として、短期的に考えるなら必要無いが、長期的に考えれば必要になると私は考える。
 まずは短期的な考え方として、本編にてジオンは地球圏において一年戦争初期における一週間戦争やサイド5で起きたルウム戦役で、地球連邦宇宙軍や地球そのものに壊滅的な打撃を与えており、その結果宇宙はジオン軍がほぼ自由に行動できる制宙権を得ている状態である。また一週間戦争で中立地帯や戦略的重要度の低い箇所を除いてほとんどのサイドと月のグラナダを制圧もしくは殲滅しており、地球連邦宇宙軍もしばらくは再起不能なことから事実上の降伏勧告や停戦、講和の意味を込めてジオンは地球連邦に対し南極条約締結を持ちかける。ここまでは本編(アニメでは語られないが時系列として)で語られる内容であるが、本編ではここでルウム戦役時に捕虜になっていたレビル将軍という地球連邦軍の事実上最高指揮官の脱走と、捕虜となりジオンの実情を見たレビル将軍によるジオンに兵なし演説という徹底抗戦を訴える演説により、地球連邦は講和から継戦へ舵を切ることにし、南極条約は戦時条約に留まることとなり、交戦規定の設定や大質量兵器、NBC兵器の使用禁止などが制定されるだけとなった。(詳しくは安彦監督のTHE ORIGINを見ていただくとわかりやすい。もしくはギレンの野望をプレイしてみてね)
 ジオン軍はここから地球侵攻に向かっていくわけだが、私はここで地球侵攻はしない方が良いのではないかと考える。理由としてレビル将軍にも見抜かれるほどジオン公国自体が疲弊している点や、制宙権がある状態ならば一年戦争初期は戦略駅重要度が低かった地球連邦軍唯一の宇宙拠点であるルナツーを、残っているジオン軍を投入し地球連邦宇宙軍再建を妨害することの意味も含め制圧し、宇宙での地球連邦軍の脅威を完全に排除し完全な制宙権確保した状態を作ったうえで、一週間戦争でのブリティッシュ作戦で地球連邦軍の妨害で失敗した、地球連邦軍本部があり兵器製造の一大拠点でもある南米ジャブローへのコロニー落としを再度決行すれば、妨害がないため完全に遂行できるのではないだろうか。コロニー落としという大質量兵器の使用は南極条約締結後のため条約違反にはなるが、地球連邦が壊滅すればそもそも条約の違反すら咎められないため問題とはならないだろう。これが成功すれば地球連邦軍本部の破壊による連邦軍内の混乱やそれに乗じた二度目の降伏勧告の意味を持つ講和条約を持ちかけ、地球連邦からの独立に乗り出せるのではないだろうか。
 また国力が地球連邦の30分の1しかないジオンでは南極条約締結時点で、制宙権こそあれど国力差や兵力差を鑑みて長期戦には向かず短期で戦争を決したいというのが実情である。この時期地球連邦軍は宇宙軍艦隊再建のためビンソン計画というのを実施しており、宇宙艦艇を南米ジャブローで建造しまるで二次大戦時のアメリカの週刊空母のように数日に一度の頻度で宇宙へ打ち上げていた。地上から打ち上げられた艦艇は宇宙のルナツーへ向かい集結するのが定石であったが、ジオンはこの打ち上げられてくる連邦艦艇を第一次・第二次世界大戦時のドイツのUボートが行っていた補給線荒らしのように、地球軌道上に部隊を待機させ連邦艦艇を攻撃していき、地球連邦のビンソン計画を妨害しつつ、制宙権の継続的な維持と先述の地球攻撃を目標に行動していくのが短期的な考え方によるものである。
 次に長期的に見た考え方として、ジオンは資源に乏しく、戦争を継続するには資源をどこかから入手せねばならない。方法としては地球の資源地帯から採取しジオン本国へ輸送するか、あるかどうかわからない資源を宇宙の小惑星などから採取する二つに限られる。この二つの方法なら資源の場所がある程度わかりやすい地球から採取するのが妥当だろうと思うが、宇宙は制圧できても地球は地球連邦のお膝元であり、世界中に連邦軍が駐留している。しかしジオンの目的は地球連邦からの独立であり、これを拡大解釈すれば地球連邦を打倒すればジオンは独立を勝ち取ることができるということである。そのため資源採取のためにもジオンの目標達成のためにも地球侵攻は有効的である。またジオンの国民感情としても地球連邦に不満を抱いているため、地球連邦への復讐という潜在的な側面も発散できることから、ジオンからしてみればこの上ない選択肢だろう。またジオンはそもそもこの戦争をコロニー落としによって地球連邦軍本部ジャブローを壊滅させ短期で終わらせる予定であったが、レビル将軍の演説によりようやく独立をつかみ取ることができるはずだった講和条約である南極条約がただの戦時条約になり下がってしまい、独立を認められるわけでもなく戦争を終わらせることもできず、なし崩し的に地球侵攻に移行して行くということも考えられる。

6.政治と環境破壊

 ここで今一度宇宙移民が行われた理由を今一度思い出していただきたい。ジオンの地球侵攻及びコロニー落としは、そもそも地球から宇宙への移民が始められた理由の一つである地球環境のさらなる悪化を招いており、一部の特権階級や政府関係者などが地球に残留したとはいえ宇宙移民が行われた意義が損なわれてしまう。特に失敗に終わってはしまったがコロニー落としは標的である南米ジャブローから外れ、オーストラリアのシドニーと北米大陸に落着した。このコロニー落としで地球全体に天変地異が起きたとされ、特にスペースコロニーのもっとも質量を伴う部分が直撃したシドニーは被害が深刻でありシドニーは消滅し、スペースコロニーが落ちた箇所には巨大なクレーターを生みシドニー湾とのちに呼ばれるようになる。
 また後の作品である機動戦士ガンダム逆襲のシャアでは、ジオン・ズム・ダイクンの遺児であるシャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)も地球連邦の腐敗した政治を正すために、小惑星フィフス・ルナやアクシズを落として地球連邦の完全な破壊や核の冬を起こして地球に残る人々の殲滅、人類が地球に住めないようにすれば誰も地球に近寄らないし地球を休ませることができるという横暴な思想をもとに行動を起こすのだが、これも腐敗した政治を正すという意味で聞こえはいいが、やっていることは父の思想に基づいたことなのかもしれないが、回復してきている地球の環境を完全に破壊することになるため善い行いとは言い難いだろう。
 確かに地球連邦は一貫して腐敗した政治を執ってきているし、スペースノイドに対しても長らく差別的な姿勢を取ってきたが、原点に戻ると全ての人類の故郷である地球を存続させるために執られた宇宙移民政策であるため、その意味を推し量ろうとせず自らは半ば強制で移民させられたといつまでも被害者意識を持つスペースノイドの器量の狭さも一年戦争に発展した要因なのかもしれない。だがしかし、大概の人々はそんな大義名分よりも、例えばスペースコロニー建造費回収のための重税で生活苦を強いられ、今の生活を改善してほしいというような、目の前のことにばかりしか目を向けられないため仕方のないことなのかもしれない。このことから政治と環境破壊には因果関係ががあり、政治による国家の強制力とそれを強要させられる国民とで互いの理解を得られないことが、最悪の場合反動として戦争に至るのではないかと考える。

おわりに

 この研究を始める前は、ジオンの地球侵攻は無謀な作戦であり、やらないほうが効率的かつ優位に戦争を進められると考えていた。これはジオンが宇宙にあることやMSやミノフスキー粒子は宇宙で用いられる兵器として当初は開発されたものだからだ。結果それらは有効に効果を発揮したわけであって、私はこれをもとに地球侵攻は要らないと考えていた。しかし研究を進めていくうちにファシズムや帝国主義のような思想、ガンダム本編でも出てきたジオニズムやジオン軍自体の問題などもあり結果として侵攻する・しないとでふたつの結論を出すに至った。
 機動戦士ガンダムというアニメの内容なので、アニメの展開の問題や人間関係を描写するうえでジオンの地球侵攻という展開は仕方ないと思う。またこういった戦略的な話は、現実世界で起きた過去の戦争を現代の人がこうすれば勝てたと言っているのと同じになってしまうため仮にジオンが地球侵攻しなかった場合、私が考えつかなかった状況が生まれるかもしれないし、地球侵攻しなかったとしてもジオンは敗戦していたかもしれない。
しかしアニメの中で起きていることだからなんでもありというメタ的なことはガンダムの作品では言いづらく、SFのようで現実に則した部分もあるため今回はジオン軍の立場に立って論文を書いてみた次第である。
 しかし今回の研究では主に一年戦争初期を舞台に研究したため、一年戦争中期後期のジオンの衰退していく上での兵器開発や戦略についてほとんど触れることができなかった。また宇宙世紀を舞台にした作品はまだまだたくさんあり、作品ごとに面白さも違うためこれからもガンダム作品を見続け、研究していきたいと思っている。
 また私個人としては、士郎正宗・押井守が描いた現実の中にSFやIFを用いたアニメも面白いと思うし名作だが、今現在の若年層にはあまり知られていないこともあり、これはアニメの内容が現実敵過ぎて一般受けはあまりしなかったからと私は考える。そして仮に観たとしても内容が難解なため面白くないと感じてしまうだろう。そういう意味では現実の延長線上を基礎にしつつ(本編での宇宙世紀とは西暦の後のものである)、SF・IF要素でMSやミノフスキー粒子、宇宙移民があったという設定を加えてある程度どの年代にも見やすくし、話の真意で現実世界の戦争や政治を架空の戦争で批判しているというガンダムシリーズは何度見ても新たな発見が得られるだろうと思う。

以上が私が書いた卒論です。
正直な話ですが、戦略の話は、私は戦略家でもなんでもないただのミリオタ・アニオタなため自信がないです。
ですがありがたいことに、こんな内容でも教授からはなかなかいい反応をいただくことができました。
今思えばおわりにの最後の部分、現実世界の戦争や政治の批判が一番如実に表れているのはリメイクシリーズの宇宙戦艦ヤマトですね。現実の日本の国防体制や民主主義を世界観の主軸としつつも外からの攻撃にそれらが耐えられるかがわかりやすく描写されてる気がします。そろそろ3199もやりますし。

読んでくださった皆様、稚拙な論述にお付き合いいただきありがとうございました。


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