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復興とは、人間の営み

大きなデスクトップの画面を相手に、お弁当を食べるのなんか御免だ。
味気ないじゃないか。
ただし、水曜日のお昼を除いては。

週に一度の「Brown Bag Seminar Series」。
毎週水曜日のランチタイムに、アジア・オセアニア地域やSDGsに関連する最新の研究活動のセミナーが行われる。
九州大学のアジア・オセアニア研究教育機構が主催。
最前線で活躍する九大の先生のセミナーが、無料で聞ける。
「大学って、ほんとお金持ってるよな~」なんて。
嫌味ではない。

第11回の昨日のテーマは、「九州大学災害復興支援団の活動について」。
三谷 泰浩 教授(工学研究院 附属アジア防災研究センター)によるお話。

三谷教授は、九州大学工学部を卒業後、清水建設に数年勤められ、
1997年より、また九州大学に戻ってこられた方。
今でこそ、こういう経歴の方も珍しくないが、当時としては、大手の建設会社を退職し、大学に戻る決意をする事は、どんなに覚悟の必要な事であっただろうか。


セミナーのメインテーマは、「どのように九州北部豪雨の復興に取り組んできたか。」

元々、「九州大学災害復興支援団」は、「平成29年7月 九州北部豪雨」をきっかけに設立された。
2016年に起こった熊本自身の際に、九州大学内でまとまった動きが取れなかった反省も含まれていた。

「平成29年7月 九州北部豪雨」は、九州北部、特に福岡県朝倉市や福岡県東峰村に甚大な被害をもたらした。

たった9時間で、九州の年間平均降水量の約1/3のほどの雨が降った。

「九州大学災害復興支援団」は、動き出した。

ここから、私が印象に残った取り組み、考え方を挙げていく。

①「復旧」と「復興」の違い


「復旧」とは、壊れたり、傷んだりしたものを、もとの状態にすること。
「復興」とは、いったん衰えたものが、再びもとの盛んな状態に返ること。

防災に関わる大学関係者は、学の立場から災害直後の調査、「復旧」の支援を行ってきたが、
その後の「復興」に対して地域に根ざした観点で最後まで対応・支援できない場合が多い。
九州北部豪雨がが福岡県内に大きな被害をもたらしたこと、総合大学である九州大学としては、大学の英知を結集して災害の復旧から復興に渡る長いスパンの中で果たすべき役割を考え、地域とともに、災害に対処する方法を学の立場から提案していこうと、活動を行なっている。

②集落会議の開催


三谷教授は、地域の代表者と行政担当者が話し合う「地域協議会」だけではなく、「集落会議」という、地域住民が話し合う場を設けた。
地域の代表者は、その地域で発言権の強い人であったり、昔から地域の代表として活動されてきたような人も多い。
その為「地域協議会」では、地域住民たちの本音は探れない。
そういう意図から、「集落会議」を行った。

③復興新聞


集落会議を、ただやりっぱなしにするのではなく、「復興新聞」という形に纏めることによって、住民の希望や、復興において未対応の箇所を明確化した。

④まちあるきによる被災地の状況確認ー伝承の義務と、忘れたい気持ちの葛藤


地域住民と共に被災地を回り、危険箇所や復旧状況の確認を行った。
実はこれが、意外に大変な作業だった。
災害を忘れてはいけない。
同じような被害を繰り返さない為にも、災害を伝承しなければいけない。

一方で、人間は、辛い記憶は忘れたい。
「終わった事」として片づけたい。
相反する2つの気持ちの葛藤が、復興への道のりを複雑化する。

⑤リスクマップの作成

「ハザードマップ」がご存知だろうか。
一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」とされている。(国土地理院)

一方、三谷教授が取り組んだのは「リスクマップ」の作成。
各個人が自分が住む地域において、どのような災害のリスクが潜んでいるかを考え図示した。
そうする事で、住民たちは、より「自分ごと」として災害を考える事が出来る。



三谷教授のお話の中で、印象に残った言葉があった。
「災害復興は、その地域の住民がやるもの。専門家はサポーター。」

災害復興の主人公は、あくまでも地域住民。地域住民の主体性が、何より重要だ。 
ただ、その過程で、地域住民だけでは対応出来ない専門的な事について、大学の教員を始めとするエキスパートが外部からサポートするのだ。

そして大学側は、ただの傍観者であってはいけない。
地域住民の声を掬い上げ、俯瞰的な目線で、だけど決して上から目線ではなく、サポートが出来る人でなければならない。
時には三谷先生のように、炎天下、地域住民と3時間のまち歩きを行う事だってあるかもしれない。

災害の復興とは、「人間の生活の営み」だと、
今回話を聞いていて感じた。

福岡県東峰村では、「東峰村災害伝承館」を設立し、災害の伝承や防災教育、住民が集える場所として機能している。
私も一度、足を運んでみようか。

その前に、今週から来週にかけて、九州は天気が崩れる見込みだ。
静岡県の熱海では、土砂災害が起きている。
梅雨の終わり、本格的な暑さが始まる前の束の間の雨模様。
せめて、被害が最小限ですみますように。
今は願う事しか出来ません。


※今回の記事は、下記セミナーの講演資料、講演動画より引用しております。

https://q-aos.kyushu-u.ac.jp/topics/q-aos-brown-bag-seminar-%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%82%ab%e3%82%a4%e3%83%96/




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