見出し画像

映画『マトリックス』に登場する名前について

 あけましておめでとうございます。
 すっかり間隔が開いてしまいました。昨年12月、ついに『マトリックス・レザレクションズ』が公開されましたね。時季を逸した感もあるのですが、今回はマトリックスの「名前」について書いて行こうと思います。なぜなら、マトリックスは私が人生で初めて「映画に登場する名前って深いな」と感じた作品だからです。

マトリックスってどんな映画?

 主人公のネオは、自分の生きている世界に言い知れぬ違和感を覚え続けていました。ある日、彼はモーフィアスという人物から接触を受け、自らの疑問の答えを知り「目覚める」ことを選択します。彼の知った真実とは、今まで暮らしていた世界が電脳世界が作り出した虚構に過ぎないということでした。機械の囚われ人となった人間は肉体を小さなカプセルに閉じ込められ、意識だけが仮想現実(=マトリックス)を生きているに過ぎなかったのです。「いつか人類を解放するために現れる」と予言された救世主に、ネオはなれるのか・・・。というストーリーです。
 公開当時小学生だった僕はこの映画にどハマりし、買ってもらったVHS(!)を毎日学校帰りに観るという謎の習慣を持っていました。100回は観たんじゃないでしょうか・・・。まず上で述べたような設定に驚いたのですが、これは電脳世界での自分の分身「アバター」というものが一般化した現代においては、かなり想像しやすくなった設定ですね。

名前について

 当たり前なんですが、映画を作る人は登場人物の名前をただなんとなくで決めるはずはないんです。でもこの映画の名前の由来を調べて、子どもの頃の筆者はその奥深さに衝撃を受けました。
●ネオ
本作の主人公。
「Neo」は「新」を意味するラテン語であるとともに、彼のまたの名である「the one」(救世主)のアナグラム(文字の置き換え)にもなっています。彼のマトリックス内での名前は「トーマス・A・アンダーソン」ですが、これは聖書に登場する使徒トマスに由来します。トマスは、イエスの弟子でありながら彼の復活を信じなかった者、彼の処刑された傷口に手を入れて確かめた者として伝えられています。確かにネオは、終盤まで自分が救世主であることを信じていませんでした。またスミスに撃たれた際、自分の傷口を触って確かめるシーンがあるのは、使徒トマスの伝説を踏まえたものと見られます。
 本編には多分関係ないですが、アンダーソンという苗字も聖人アンデレに由来するそうです。
●モーフィアス
 ギリシア神話に登場する夢・眠りの神、モルぺウスに由来します。同じ語源の言葉にはモルフィウム(=モルヒネ)があります。ネオを眠りから覚ます彼の役割を暗示しています。
●トリニティ
 「三位一体」を表す宗教用語です。よく神父さんがいう「父(神)と御子と聖霊の名において」というのがこの「三位」です。ざっと調べただけですが、キリスト教は一神教なので、この三つはあくまで一つの神の現す位格である、という概念のようですね。多分ですが、ネオのまたの名である「the one」に対照的な、数字と宗教に関する名前を当てはめたのではないかと思います。これは後述のサイファーにも当てはまります。
 三位一体を調べる過程で、面白いことがわかりました。ネオは「救世主」つまりジーザスなので「御子」にあたります。父とは神のことですが、これに近いものは創造主、つまりマトリックスの設計者アーキテクト(マトリックスリローデッドに登場)を指すのかなと思いました。「聖霊」についてはまず定義が諸説ありすぎて全然わかりません。シリーズ全作に登場する女性、「愛が大事なの」と言いながらクッキーを焼くオラクル(預言者)が近いかなと思ったのですが、この結論はあまり関係ないので棚上げします。それよりこの図です。(wikiより)

 これは三位一体を表した図式で、中央にあるのが唯一神、DEUSと記述されていますよね。マトリックスの3作目、『レボリューションズ』で登場するマシン軍の親玉は「デウス・エクスマキナ」という名前です。太陽を模した姿で登場し、単騎乗り込んできたネオとの談判を行いました。確かに彼こそは現実世界もマトリックスも支配する、唯一絶対の存在です。彼の指示でアーキテクトはマトリックスを設計したし、オラクルも彼のプログラムのひとつです。そして最終的にはある意味でネオと合体したような描写がなされていましたね?沈む夕日を眺めてオラクルはネオに思いを馳せます。ふむふむ・・・。
●ネブカドネザル
 人名ではなくネオたちが乗り込む船の名前です。これは新バビロニア王国の第2代の王の名です。「バビロン捕囚」(紀元前6世紀ごろ、ネブカドネザルが捕まえた捕虜を首都バビロンに連行した)を行った人物として知られ、ネーミングの由来もこのエピソードによる可能性が高いと思います。マトリックスを解放された人々は、地下都市「ザイオン」での暮らしを余儀なくされるわけで・・・。
 ちなみに、かつて王国の大都市であった「バビロン」をググると「人口:0」という記述が出てきて不思議な気持ちになりました。ヨブ記3章14節・・・。(『ミッション・イン・ポッシブル』参照)
●サイファー
 ネオより先に解放されていたメンバーの一人。「空」「ゼロ」を表す言葉です。ネオのまたの名である「ザ・ワン」と合わせるとコンピュータの言語である0と1を表すことになり、二人が対照的な存在であることを暗示しています。密かにコンピュータ側のエージェント・スミスと接触し、モーフィアスを売り渡そうとした人物です。
 1作目であっけなく死んでしまうのですが、実はある意味復活します。2作目『リローデッド』で登場するベインという人物がいますが、ヒゲといい顔つきといいサイファーを意識したようなルックスです。また、スミスに脳をハッキングされ、ネオと現実世界で対決するという重要な役割を果たします。

まとめ

 いかがだったでしょうか。
 アメリカの映画を見ていると、聖書の記述やキリスト教がらみの言葉がどんどん出てきて、たまに首を傾げることもありますよね。前の記事でも言及したように、英語という言語そのものの中にキリスト教は避けがたく混ざっています。この映画でもいきなり「救世主」とモーフィアスが口にしたところで初めはなんのこと??という感じだったんですが、実は序盤からネオが救世主になる伏線は張られています。
 以下は本編冒頭8:40あたり、チョイ(この名前も少し補って相方の「ダジュール」と合わせると「choise of the day」となります)のセリフです。

hallelujah. you are my savior man. my own personal jesus christ.
(ハレルヤ。あんたは救世主だ。俺のイエスキリスト様よ)

また、このチョイはこんな暗示的なセリフも口にします。

it sonds me like, you need a little unplug, man. take some r&r?
(ちょっと休んだ方がいいんじゃないか?たまにはゆっくりしろよ)

この場合の「unplug」はこの前のセリフの「コンピュータのやりすぎじゃねぇか」という台詞を踏まえて、ちょっとは休めよという意味で使われています。ネオはマトリックスから解放されるとき、文字どおり全身からプラグが抜かれることになります。これらは明らかに、この後の展開を暗示するものですよね。2回目以降観たときにニヤリとしてしまうようなセリフでした。
 マトリックスについては、また改めて記事を書いてみたいと思っています。この他にもマトリックスに登場するお名前のエピソードがありましたら、ぜひ教えてください。
 それでは!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?