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戦う薬

先日、風邪をひいたので薬局へ行った。
薬局で症状を伝え、少しの間待っていると、薬の入った袋が渡された。
「森の中で服用してくだはい。」
調剤師がべろを引っ込ませながら言った。
何故森でなくてはいけないのか分からないが、風邪を治したかった私は近場の森に訪れた。
葉の間から除く陽光が、私の事を照りつける。
葉の揺れる音と、パチパチという木の燃える音が心地よい。
この火は、先程私が吸っていたタバコが引火したものだ。
もう後戻りは出来ないな。と、少し寂しい気持ちになりながら、袋の中に手を突っ込む。
1錠だけ。1錠だけの薬が袋の中に入っていた。
すかさず口の中へ放り、飲み込む。
なんだか嬉しい気持ちになってくる。ヤバい薬なのだろうか。
薬と共に同封されていた成分表を見ると、
「戦う薬」
とだけ書かれていた。
戦う薬とはどういうことだろう。
多少、いや、かなり怖かったが、「戦う」という言葉は嫌いではない。
何しろ私はカラス専門の殺し屋をしていたので、戦いとは日常なのである。
頭上でカサカサという音がする。
何事かと頭を触ると、何かくすぐったいものがある。
手鏡で確認する。
頭から大きな鳥の羽が何本も後ろへ向かって生えていた。
顔も掘りが深くなっている。
先程まで来ていたスーツも、民族衣装のようなデザインに変わっている。
まさか、いや……これは…
私はネイティブ・アメリカンになってしまっていた。
燃え盛る森に佇むネイティブ・アメリカンとなった私は、近くの木へ齧り付いた。
自分でも何をしているのか理解できなかったが、気づけば木を歯で削り取り、槍を作っていた。
私は生粋のネイティブ・アメリカンに変貌してしまったのか。と落胆するが、放火魔よりはマシだな。と思うことにした。
そう思わないと狂気で本当におかしくなるからだ。
そう、私はネイティブ・アメリカン。
肉だって生で食っちゃうぞ。ガハハ。
これが本当にネイティブ・アメリカンかは分からない。
だが、このままずっとネイティブ・アメリカンを演じ続けるだろう。
どうか私が生きている間は、私の事を忘れないで頂きたい。

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