動画でやった気になれちゃう人

ある一言

以前、仕事でご一緒した方の一言がすごく印象に残っている。

「だって、だいたい想像できちゃうじゃないですか。」

打ち上げでの一言だった。

8名ほど集まった打ち上げで最年少だった彼に、プロジェクトの感想から始まり、いくつか質問が飛んだのだが質問がプライベートな話になっていくと空気が変わっていった。

「休みの日は何してるの?」
「いや〜、特に何もしてないんですよね。友達と連絡取ったりはしてます。」

「趣味は何かある?」
「本当に無いんですよね〜。動画とか観るのは好きなんですが、何か無いですかね。」

プライベートなことを話すのが嫌なそれではなく、本当にそうなんだなという答え方だった。

周りのメンバーはというと、「釣りはどう?」とか「スキューバダイビングとかやってみるといいよ」と自分の趣味などをおすすめしていた。

ただ彼の反応は薄いまま。それでも1回やってみると良いと誰かが言ったときの彼の返答が冒頭の一言だった。

正確には
「だって、動画とか見たらだいたい想像できちゃうじゃないですか。」

私はなかなか新しい感覚だなって思いながらも、それは違うよってニュアンスの言葉が3人位から同時に飛んだのを聴いていた。

なぜ実際にやろうとするのか

撮影機器や通信が発達して、情報の解像度が上がったことは人の感動のレベルを落としているのではないかと思っていた時期があった。情報が入って来すぎるていると。

ホームページにはホテルの部屋にしても、体験ツアーの様子にしてもベストショットが掲載されていて、実際に泊まる・体験するときにはそれよりもショボい体験しかできないんではないかと思っていた。

それでも行ってみたり、やってみることをやめないのは、友達と一緒に体験し共有する楽しさや、心像との違いを自分がどう感じるかを知りたいからだったりする。

そして何より、その体験を通して実際にやったり、実物を見たりすることが写真や動画で見ることと全く違うということを知っているからだ。

でも当時、それを自分にはうまく表現できなかった。

そんなか、今年に入ってから2つほど面白いコンテンツに出会った。

熱量

この北斎漫画の会。

浦上さんはクレイジージャーニーで拝見したことがあり、北斎漫画の世界一のコレクターなのは知っていたのだが、会話の熱がすごかった。

正直なところ話の具体的な内容は覚えていないのだが、浦上さんがとにかく喋る。広島県立美術館側のネットワークが悪く、映像がストップしても浦上さんの話は止まらない。(浦上さんは東京のお店にいたので美術館側の映像だけがストップした)

冊子内の一つの絵から、当時の背景、影響を与えた画家、北斎の私生活などどんどん話が広がっていく。"このおじさん面白い"的なコメントが何回か流れていたが、本当に面白かった。浦上さんの北斎漫画に対する、熱・愛が溢れ出ていた。

美術館で歌舞伎役者が解説している音声ガイドは借りようと思わないが、北斎漫画展で浦上さんが話している音声ガイドだったら借りたい。とりあえず浦上さんの本を買ってみた。

境界

ちょっと次元は違う話なのだが、いまデジタルアーカイブされかなり細かく絵画を見ることが出来る時代に、美術館に本物を見に行く価値があるのだろうかと考えていた時期があった。

結局、その実物と同じ空間を共有することに人は価値を感じているんだろうなと思ったわけなのだが、それは猪子さんが言う境界があるからなのだろうと思う。

この中で、猪子さんが取り払おうとしている境界を、冒頭の彼は認識していなかったのかもしれないと思った。そもそも境界に気づいてないから、動画を見て体験した気になれちゃうんじゃないかと。

一歩踏み出させるもの

私自身、新しいことを見つけたり、1つのことに熱量を注ぎ込んだりすることが得意ではない。どちらかというと冒頭の彼に近い考えを持っていたと思う。

だから私が何かをはじめるとき、「これ、すげー面白いから一緒にやってみようぜ」と誘ってくれた友人や、浦上さんのようにそのことを熱く語る人を見たことがきっかけという時が多い。

そういう意味では、当時の彼には境界に気づかせてくれる人やコンテンツに出会えていなかったのではないかと思った。 

その後の彼

プロジェクト以降彼とは連絡をとっていなかった。ただその1年後くらいにLINEが急激に広がり、彼がインストールした際に連絡帳のわたしの電話番号が読み込まれたのだろう、私の知り合いかも?のリストに彼が表示されていた。

そのアイコンはウェットスーツに身を包み、笑顔で誰かと肩を組んでいる彼の写真だった。

※このアイコンを見たから、昔の一言が記憶に残っているってのもある。

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