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会員様寄稿【連続小説】『ラコタ』(2)台湾有事は日本の有事 直人の部隊のヘリが墜落…

中国人民解放軍による台湾封鎖から3ヶ月がたった。

台湾周辺では航行ができなくなり、タンカーや貨物船は迂回を余儀なくされた。
そのため、様々な生活用品が値上がりし始めた。

さらに政府は早々と嗜好品の増税を決定し、タバコと酒税が上げられた。

しかし、増税した分は東日本大震災のときと同様に、現場の自衛官の装備や補給に回ることはなかった。
政治家の支援団体へのバラマキや官僚達の天下り予算となった。

また、「頑張れ!台湾」キャンペーンが開始され、テレビや新聞で贅沢や不要不急の活動の自粛が呼びかけられた。

夜の街は寂しく、ネオンだけが光っていた。ラコタも同様であり、客足はめっきり減っていた。

ラコタのカウンターで、直人が心配そうに美嘉に声をかけた。

「お客さん減ってるけど、美嘉大丈夫?」
直人が尋ねた。

「ウチは昼も働いてるから平気。でも直人こそ大丈夫?」
美嘉が微笑みながら答えた。

実は直人と美嘉は付き合うようになっていた。直人は少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「警戒のため、なかなか外出できなくてごめん。」
直人が言った。

「いまは有事やからウチが文句なんて言ってられへん。」
美嘉は気丈に答えたが、その瞳には不安が見え隠れしていた。

実は直人は既婚者であり、単身赴任で九州に来ていた。数年前から妻の不倫が発覚し、夫婦仲は冷え切っていた。

自衛官は転勤が多く、このような問題は直人だけでなく他の自衛官にもよくあることだった。

美嘉も今は有事で国のためだと頭では理解していても、気持ちは納得できていなかった。

その日も静かな夜が続いていた。突然、ラコタの入り口が開き、直人の部下である桜林大貴が慌てた様子で駆け込んできた。

「直人さん、大変です!俺たちの部隊のヘリが中国海軍の潜水艦を警戒中に墜落したらしいんです!」
桜林が伝えた。

「何だって?詳細は分かるか?」
直人はすぐに立ち上がり、真剣な表情で桜林に問いかけた。

「まだ詳しい情報は入っていませんが、操縦していたのは俺の同期の奥山でした。」桜林の声は震えていた。

美嘉は二人の様子を見て、胸がざわついた。

「直人、気をつけてな。ウチはみんなの無事を祈ってる」
美嘉は言った。

「ありがとう、美嘉。心配させて悪いな。でも、俺は大丈夫だ。じゃあ、行ってくる」

「うん、無事で戻ってきてな。」

ラコタの静かな夜は、緊迫感に包まれたのであった。

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