BC14「番組タイトルの付け方2—文字数と音感がコンセプトを作る」

[水道橋博士のメルマ旬報 vol.75 2015年12月10日発行「オトナの!キャスティング日誌」より]

皆様おはようございます。TBSテレビでバラエティプロデューサーをやっています角田陽一郎(かくたよういちろう)といいます。
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先号では番組タイトルに付与される“意味”について書きました。『オトナの!』というタイトルには、視聴者へのメッセージ以上に、番組を作っている僕ら自身へのメッセージも含まれている!と。ただ、それだけで『オトナの!』に決まったわけではありません。今回は、番組タイトルのつけ方のさらなるお話です。

『オトナの!』って、タイトル短くないですか? 最後の“!”まで入れてちょうど5文字です。なぜ短いのでしょうか?「短いと覚えられやすいから」・・・それも確かにありますが、実は深夜番組ってのはだいたい5文字以内なのです。テレビ東京の「ゴットタン」もちょうど5文字ですよね。
なぜかというと、新聞の番組欄、通称“ラテ欄”(ラジオ・テレビ欄)の深夜帯の文字数は5文字までだからなのです。みなさんも新聞のラテ欄思い出してください。ゴールデン帯(19時〜22時)はたっぷり書く欄がありますし、昼間もそこそこあります。それに比べて深夜は欄が少ないですよね。ほぼ1行です。そこに収まらないと、表示されないからです。僕が以前やった深夜番組には、アンタッチャブルのザキヤマさんと矢口真里さんが司会の『あいまいナ』という番組がありますが、これも5文字で考えたタイトルです。各ジャンルのアーティストがパワーポイントで自分のコンセプトをプレゼンする番組は『カタリダス』。これも5文字です。
E-girlsとやった番組『E-girlsが!モンクの叫び』は、5文字ではありません。でもE-girlsを新聞のラテ欄に入れたいですし、girisはラテ欄では通常日本語表記になります。なのでE-girlsはラテ欄上では、Eガールズになります(TOKIOもトキオって、ちょっと違和感がある表記をラテ欄でされているのを見たことありませんか?)。“Eガールズ”はちょうど5文字ですよね。ということでむしろ“モンクの叫び”という内容がわかる長いタイトルに正式名はして、ラテ欄上ではタイトル全部を表記することをいさぎよく諦め、ラテ欄には『Eガールズ』だけ表記されるようにしたのです。

一方でゴールデン帯の番組は、ラテ欄が大きいのでもっと長く付けることができます。2時間、3時間の特番だと、それこそ欄が大きいですから、もう番組内容全体がわかるような、むしろタイトルとは言えないような解説調の長いタイトルが付けられているのもあります。通常ゴールデン帯のラテ欄の1行は10文字なので、その10文字に入るようにタイトルが付けられることが多いです。『さんまのからくりTV』は、ちょうど10文字です。僕が名付けた『明石家さんちゃんねる』もちょうど10文字ですよね。金スマは『中居正広の金曜日のスマたちへ』が正式タイトルですが、金スマと略されることを念頭に、ラテ欄では『中居正広の金スマ』で8文字なのです。

そしてそんな文字数制限を考慮してスタッフはあーでもない、こーでもないとかなり悩んでタイトルを決めます。なので、番組タイトルには、先号で述べた“メッセージ”という意味以上に、その番組の成り立ちやその時の世相が反映していて、それがまたなかなか興味深いです。
例えば2006年に始まった『明石家さんちゃんねる』ですが、タイトルを付ける時に僕らが考えたのは、MCがさんまさんだから、“さんま”か“明石家”を入れることがマストでした。“さんまの◯◯”とか“明石家◯◯”とか、それこそ数ヶ月悩みました。さんまさんは“さんちゃん”と呼ばれることもあります。「そうか“さんちゃん”をタイトルにしてもよいよな!」とか思いつくと、ちょうどその頃流行っていたもの、それはネット上の“2ちゃんねる”だったのです。ならば“2ちゃんねる”の次に来るもの、それは“3ちゃんねる”だろう!そう発想したのでした。当時の地デジ前のアナログ放送の時、関東圏では3チャンネルはNHK教育テレビです。そしてTBSは6チャンネルです。
「6チャンネルの中に3チャンネルがあるのって、おもしろくないか?」
こうして発想がさらに膨らみました。要するに“NHK教育テレビ”ならぬ、“TBS教育テレビ”というコンセプトで行こう!と。さんまさんが司会の“TBS教育テレビ”、いったいどんな教育するんだ!?って、それで番組のコンセプトが固まり、それがNHKの“きょうの料理”でおなじみだった“登紀子ばぁば”がさんまさんと料理に挑戦する料理のコーナーだったり、ニュースを題材にする大喜利『ニュースの密林』だったり(これは『ニュースの森』というニュース番組があったので、それを上回る“密林”になったのです!)、さんまさんが各企業を訪問する『さんまの美女訪問』という企画になっていったのでした。

なぜ『金スマ』の正式タイトルが『金曜日のスマたちへ』なのか?“スマたちへ”の“スマ”って何だ?と思われませんか?多分スマップのスマだろうと想像つくだろうけど、でもそれだと『中居正広の金曜日のスマップたちへ』って意味になり、中居さん自身がスマップなわけで、もう意味がわからなくなりませんか??
そもそもタイトルを決める上で僕らが考えたのは、人気アイドルのスマップのスマを絶対入れることでした。でも、『スマスマ』もありますし、『ぷっスマ』もあります。当時は『サタスマ』もありました。中居さんと女性が沢山いる番組というコンセプトだけは決まっていたので、『女スマ』とかなんとか考えましたが、何を付けても二番煎じ、三番煎じは免れません。そうするとなかなか社内で許可が下りなかったのです。でもいろいろ考えた末、「金曜日のスマ番組だから、シンプルに“金スマ”がいいよね!」となり、僕らはむしろ『金スマ』というタイトルで、どうやって社内を納得させるか?に主眼を置いたのでした。
そこで僕ら番組スタッフが考えたのは、むしろその名付ける経緯でした。金曜21時はもともと金スマ以前はドラマ枠だったのです。金曜ドラマといえば、代表的なのは“金妻”と略された『金曜日の妻たちへ』です。TBSの伝統のドラマ枠に敬意を表し(ってことにして)、“金曜日の妻たちへ”ならぬ“金曜日のスマたちへ”なんだと。それを略して“金スマ”なんだ!と。むしろ略称ありきで、後から正式名を考えたのでした。
なので、実はスマにはもともと意味がないのです。「むしろ意味がわからない!」から「どんな意味だろう?」って注意が喚起されるのじゃないか?と思って、ねらって付けたのでした。

そして僕はそのタイトルの音感や語感を特に重要視します。例えば『あいまいナ』という番組は、『太麺と細麺の境界線は?』等の“あいまいなことをはっきりさせる”がコンセプトの番組ですが、当初は「はっきりさせましょう!」的な、より内容がはっきりわかる番組名が議論されました。でも僕はそれだと論が立ちすぎて、なんかもっとあやふやな“オノマトペ”的なニュアンスを入れたかったのです。「なんか聞いたことがある語感だけど、意味がいまいちわからない」って方が、意味がはっきり伝わるより、むしろそのタイトルから想像される領域が広がるのではないか?そう思ったのです。あいまいなことがコンセプトの番組、ならば『あいまいナ』でいいんじゃないのか?むしろストレートに!ってこの時も思いました。それによく話し言葉で「そんな、あいまいな・・・」って当惑したりしますよね。この当惑した打ち出しが弱いニュアンスがあった方が、番組が優しく見えると思ったのです。この当惑感が、結局番組の主軸コンセプトになり、番組のナレーションは素人の女の子(番組のAD)が下手くそにしゃべる、という方向に向かったのでした。このように、結局、そのタイトルの音感すらも、番組のコンセプトを決定付けるのです。

そしてこの音感が、番組コンセプトを思わぬ方向に向けさせたのが、実は『オトナの!』です。『オトナの!』はローマ字表記だと“OTO-NANO”です。“音”という音があります。そこから「なんか“音”にまつわることやりたいよね!」って想像がひろまり、やがて『オトナの!フェス OTO-NANO FES!』という音楽フェスを毎年開催するようになったのでした。
読んでいただきありがとうございました!

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