第9段「金スマの視聴率を劇的に上げた、ほとんどの男たちが忘れがちなこと」

※この記事は2017年2月25日に公開されたものです。

視聴率を獲るための秘伝教えます

テレビ番組を作っているときの至上命題、それは視聴率を獲ることです。
視聴率を取らないとどんなにいい番組を作っていても、番組は終わってしまいます。そうならないように僕らは心血を注いで日々番組を作り続けます。
僕が2001年に金スマを立ち上げたとき、最初の1年半はなかなか視聴率に苦労しました。しかしある日、ちょっとした事実に気づいた瞬間、瞬く間に視聴率が上昇したのです。
今回は、そんなとっておきのお話をしたいと思います。
題して、“視聴率を上げるとっておきの秘密”

“おばちゃん”が見る番組は視聴率が高い。

僕らがよく耳目にする視聴率とは世帯視聴率です。しかしその視聴率は性別と年代別でカテゴリーに分かれても出ています。
 4歳から12歳がC層(チャイルド)
 13歳から19歳がT層(ティーン)
 20歳から34歳が、男性がM1層で、女性がF1層
 35歳から49歳が、男性がM2層で、女性がF2層
 50歳以上が、男性がM3層で、女性がF3層
みなさんもご存知だとは思いますが、日本の高齢社会化にともない、M3、F3が多く、いくらティーン層に受ける番組を作っても、高齢層が見ないと、結局は全体の視聴率が取れないのです。そして特にテレビを見ている方は女性が多いので、必然的に僕らはF2層、F3層に見てもらえる番組を目指します。
F2層、F3層いわゆる“おばちゃん”ですね。いかにおばちゃんに好きになってもらうかで、番組の視聴率は変わるのです。
金スマは、中居正広さんMCの番組です。まさにターゲットは女性。セットの後ろには100人の赤いミニスカートの制服を着た女性がいます。まさに女性が見たくなる番組を作ろうと2001年に立ち上げた番組なのでした。僕は立ち上げの時、チーフディレクターをやっておりました。
視聴率を上げるため、いかにもおばちゃんが好きな企画をやりました。ホスト企画もやりましたし、お掃除企画、安売り企画、ダイエット企画、しかしなかなか視聴率は上がらず、苦戦していたのでした。
「おばちゃんは一体どんな企画だったら見たくなるのだろう?」
そんなことを日々考えて連日遅くまで放送作家やスタッフと企画会議を続けていたのでした。

番組を一変させたスマップのエピソード

そんなある日、悶々とした会議中に、構成作家の鈴木おさむ氏と二人で深夜に雑談していてふとスマップのライブコンサートの話になったのでした。
おさむさんは言いました。
「スマップのライブのお客さんには、それこそあらゆる年代の女性がいて、たとえば木村拓哉さんがステージ上でセクシーなポーズとかとったりすると、それこそ小さい子供もおばあちゃんもキャーキャー言いながら喜んでいる。女性は何歳でも夢見る乙女なんです!」と。
その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏にある言葉が浮かんだのでした。
「おばちゃんも女である!」
あっ、すみません! この文章を読んでいる女性のみなさん、本当に失礼なことを言って大変申し訳ありません。バカな男の戯言だと思って、最後まで聞いてもらえたら。これはかなり重要なことなのです。そしてこれを読んでいる男性諸君、この事実に気づくだけで、きっとあらゆるビジネスがうまくいく、まさにとっておきの秘訣なのです。
それは、それこそ本当に「おばちゃんも女である!」という事実なのです。
どういうことかというと、つまり、ほとんどの男は女性を2種類に本能的に分けて考えがちなのです。
当然すべての女性は女性であると概念的には、倫理的には、頭ではわかっていますが、心の中では、自分が付き合ってもいい女性を“女”と考え、それ以外を“おばちゃん”と無意識に分けて捉えているのだと思います。それはもしかしたら“女”と“母”の違いと言ってもいいのかもしれません。
つまり女に向けて対応する態度と、おばちゃんに向けて対応する態度が、(男はアホだから)無意識的に分けているのではないか? と僕はそのスマップのファンの話を聞いて気づいたのです。その時の番組スタッフはほとんど男性です。
おばちゃん向けの企画をやると、視聴率が上がる、そのことばかり考えて、僕らは、つまりおばちゃんも女であるという事実を忘れて、あくまで、僕ら男性から見て、“自分のターゲットではない女性=おばちゃん”という意識で、その架空の存在に向けて企画を練っていたのでした。
でも当たり前のことですが、おばちゃんも、何歳だろうが『夢見る乙女』なのです。いや、すべての女性は『夢見る乙女』なのです。ならば、“夢を見せるエンターテインメント=テレビ番組”は本当の意味ですべての『夢見る乙女』に向けて作らなければいけない。そうなっていないのは、僕ら男が、この大事な事実に気づいていないか、あるいは気づいていても軽視しているからではないか?そう気づいたのです。

すべての女性をターゲットにする

僕は急遽男性スタッフを集めました。そしてその場で言ったのです。
「いいですか、みなさん! これから大変大事な話をします、おばちゃんも女なのです!」
それを聞いたスタッフは、ポカーンとしていました。
でもそれこそ細かく説明するうちにだんだん僕の言っている真意がわかったみたいです。
「僕ら男はアホなのです。なので今から、僕ら男性全員、おばちゃんも女なんだと、あえて意識して番組を作ろう!」
そう宣言したのでした。
すると翌日から、同じ番組でも全く雰囲気が違う別物になっていったのでした。
たとえば、それまではスタジオの赤いミニスカートの制服女性は若い女性を配置していました。若い綺麗なモデルさんのような女性がたくさんいてミニスカートで足を組んでいます。僕らは女性のための番組と標榜しているにもかかわらず、男性目線で女性を見た目で選んでいたのかもしれません。
でもまずその考え方が変わりました。なぜ赤い制服の女性が若い娘ばかりなのだ、おばちゃんがいないほうが不自然だ! となったのです。だってこの番組はすべての女のための番組だから、そこに差はないのだと。
そして番組の企画もかわりました。むしろ“おばちゃん”世代の人生、歳を重ねて酸いも甘いも経験した、自分の夢を叶えていろんな分野で活躍する女性の波瀾万丈の人生を描けば、すべての女性が興味をもつのではないか? それが『金スマ波瀾万丈』という企画を産んだのでした。
そうしたら効果はすぐに現れました。視聴率がどんどん上がっていくのです。またたくまに『金スマ波瀾万丈』は人気企画になって、するとどんどんビックな方や話題の方が出演していただけるようになり、さらに視聴率も上がり人気番組になって、『金スマ』は今も続いているのです。
いかがでしたか? 気づいてなかった僕がアホなだけかもしれません。でも女性のみなさんだって“おじさん”とか“オヤジ”というだけで変な固定観念を持っているかもしれませんし、そして男性諸君、そこを知るだけで、すべての女性が僕らの味方になってくれるかもしれないのです!
そしてそれは、もしかしたら性別だけでなく、年齢や人種や宗教、あらゆることにあてはまることなのかもしれないのです。自分の思い込みを改めてすっとばして、バラエティ的に考えてみる、すると新たな世界が待っているかもしれないのです。

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