第4段「ドキュメントバラエティの時代は、あの日終わった」

※この記事は2016年8月18日に公開された記事です。

「現実 対 虚構」

先日SMAPが年内での解散を発表しました。2001年に『金スマ』を中居正広さんと一緒に立ち上げた自分としては、すごくさびしいです。 今回はそんな今から15年前の、『金スマ』立ち上げた時から感じ続けている、現実VS虚構の話です。
芸能界や、そこで活躍する俳優、タレント、アイドルという職業、そしてそんなみなさんが出演するテレビのバラエティ番組は、基本“作り物=虚構”だと僕は考えています。
虚構というと一見ネガティブに感じられるかもですが、僕はそうは思いません。というのもそもそも現実世界の中でどう自分をキャラクター付けして、社会の中で個人として存在するかというのは、多かれ少なかれ誰でもやっていることだからです。
そしてそれが一番顕著になるのが、時流に流されやすいテレビの中、特にバラエティ番組なのです。 なぜなら、バラエティ番組に出ている時、タレントさんはあくまで、「自分」です。ドラマなどの配役があるのと違い、基本個人の名前で出演します。みなさんそれぞれの現実の人生が当然ありますが、むしろそれを隠してor強調してor戯画化して、どうみなに求められている虚構(理想像)としてのキャラクターを成立させるのか、それがタレントだしアイドルという職分なのです。
アイドルの日本語訳が“偶像”なのもうなずけます。その現実の人間をいかに虚像としてうまく描くか?それを後押しするのが、僕らの作っているバラエティ番組の特性だとも言えるのです。
そしてそんなポジティブな虚構の世界であるバラエティ番組は、今非常に作りにくくなっています。実際以前ほど大ヒットするバラエティ番組は少なくなっています。それは現実が虚構に攻め込んできているからだと僕は思います。
さて、シンゴジラのキャッチコピーに影響されて、今回は「虚構」という言葉をたくさん使いますが、虚構とは「実際にはないけれど、作り上げたこと」です。だからこれは、クリエイティヴ全般にかかわる大きな問題なのです。

90年代のドキュメントバラエティの時代

僕がテレビ業界に入った1990年代、バラエティ番組ではアポなし取材や芸人がヒッチハイクする日本テレビの『進め!電波少年』が大人気でした。この種の番組は「ドキュメントバラエティ」と呼ばれ一大ブームを築きました。
それまでのバラエティ番組はタレントが何かスタジオで企画を行う収録がメインでした。しかしスタジオで流すロケVTR映像を、そのロケ撮影の行程をメインにあくまでドキュメンタリータッチで演出し、過剰に感情を見せるのがドキュメントバラエティです。
ドラマのようにフィクションとしてではなく、普段の人々の日常生活にころがるおもしろいことやハプニング、感動やおかしみの現実をより強調して、僕ら制作者が出演するタレントさんと一緒に番組に仕立て上げるのです。

TBSで僕が配属された『さんまのからくりTV』も、もともとは視聴者から投稿されたり、海外で放送されたおもしろビデオをお送りする番組でしたが、その流れを受けて96年には「からくりビデオレター」や「ご長寿早押しクイズ」、街行く人が英語で答えるコーナーなど、一般の方が多数出演する『さんまのスーパーからくりTV』にリニューアルし人気を博しました。
翌年には中学生、高校生が大活躍するV6が出演する『学校へ行こう』が誕生します。1999年にはTOKIOがガチンコでさまざまな困難に挑戦する若者のドキュメントを取材する『ガチンコ!』が登場、特にプロボクサーを目指す「ガチンコ!ファイトクラブ」が大ブームになり、これらの番組は視聴率20%以上を常時叩き出し、テレビ界はまさにドキュメントバラエティブームになったのでした。
21世紀を迎えた2001年、TBSではこの夏に24時間テレビを行いました。TOKIOがMCの『ファイトTV24』。番組のコンセプトはまさに全編ドキュメントバラエティです。僕は深夜枠のディレクターを任され、当時大人気だった『ガチンコ!』各コーナーの講師陣と血気盛んな若者たちが激しいトークバトルする「ガチンコ!トーククラブ」を演出しました。翌朝視聴率が発表されると、なんと深夜なのに15%越え。ドキュメントバラエティまさに全盛期です。
するとその日の夜、上司から電話がありました。電話の内容は「SMAPの中居さんと秋から番組やれ」。僕は興奮しました。だってSMAPですよ! 中居さんですよ! 中居さんのドキュメントバラエティは他局でもほとんどありあせんでした。一体どんな番組をやってみようか? 期待は膨らみます。
かくして僕はこの番組のチーフディレクターを拝命しました。それまでドラマ枠だった金曜夜9時の枠がバラエティ番組になったのです。僕らは往年の人気ドラマ“金妻”から名前をいただいて“金スマ”と名付けたのでした。
ドキュメントバラエティブームを作り続けてきた僕が、チーフディレクターを任されるのであれば、それは中居さんともっとすごいドキュメントバラエティを作れ! そういう意味だと確信しました。10月の放送開始まで僕らはその夏、朝から深夜からまた朝に至るまで、ずーっと企画会議に明け暮れました。

現実が虚構を打ち崩した日

2001年9月11日、その日も鈴木おさむさんなど並み居る人気放送作家の方々と企画会議をしていました。奥菜恵さん主演のMEGMIという女の復讐を題材にしたミニドラマの構成を考えてたら、会議室にある付けっ放しのテレビの中で、突然飛行機が貿易センタービルに突っ込んだのです。
911・アメリカ同時多発テロ事件、フィクションではない現実の、でも今までパニック映画のCG映像でさんざん見てきたような「虚構みたいな現実」。青空の中、高層ビルに旅客機が次々突っ込むというロボットアニメのような映像。テレビという箱の中にニューヨークから送られてきたそのドキュメント映像が、僕らがしこしこ作ってるバラエティ番組のためのフィクションじゃないと言い張るドキュメントロケ企画を吹き飛ばした瞬間でした。
僕らの積み上げたそのテレビの中のドキュメントロケブームなんて、なんてちっぽけで、作為的で、それこそ虚構=作り物なんだってことを一瞬で僕らに悟らせ、貿易センタービルと一緒にガタガタと崩れていきました。それを見た並居る構成作家と僕は、その映像がずーっと頭にこびりついて会議を続けられなくなり、ずーっとずーっと夜明けまでテレビを見続けました。
そしてきっとその夜、その残像は、きっとテレビで普段ドキュメントバラエティを見ていた日本国民全員の頭にも焼き付いてしまったんだと思います。まさに一夜にして日本中の空気が一変したのです。
本物のドキュメントに触れた人々を、もはや虚構のドキュメントで揺り動かすことはできません。今まで楽しんでいたバラエティ番組のドキュメント的演出映像が急に作為的で、その空虚さを一瞬で悟らせてしまったんだと思うのです。
果たしてそれは業界人の杞憂に終わらず、程なくしてドキュメントバラエティのブームは一気に収縮しました。『電波少年』も『ガチンコ!』も翌年からリニューアルを繰り返し人気回復に努めますが、2003年には終了します。
その後のバラエティ番組で人気になったのは、日常で使える裏ワザを教える日本テレビの『伊藤家の食卓』、つい人に教えたくなる知識=トリビアを教えるフジテレビの『トリビアの泉』、雑学や一般常識をクイズにするテレビ朝日の『Qさま!!』などクイズ番組です。
僕らも『金スマ』をドキュメントバラエティの番組という方向から、やがて「波瀾万丈」など有名人の現実の人生を再現VTRで見せていく方向にシフトし人気番組になります。つまり日常の現実を、あまり演出しないで、そのまま見せる方向にバラエティ番組は向かいました。

本音と建前の割合が反転してきている

この状況は現在もどんどん加速しています。
世界でさまざまな悲惨な事故、事件、災害、戦争などの現実が起こって、それが瞬時に映像で見せられるようになったことと、もう一つは先号で書いた話に通じるのですが、情報革命をもたらしたネット社会の中で、ますます虚構の中の作り手の作為がばれ易くなっているからなのです。
最近、昔ほど大ヒットのバラエティ番組がテレビの中で誕生しないのは、僕はこの虚構のやりにくさに起因していると僕は思います。
現実対虚構。今大ヒット中の『シン・ゴジラ』のキャッチコピーです。それはニッポン対ゴジラを意味していますが、まさに僕らはテレビでバラエティ番組という虚構を、視聴者のための虚像をあえて演じてきたタレントさんと作ってきて、いつも現実との間でギリギリの闘いをやってきたんだと思います。
テレビの中でも今年になって一気に賑わしている芸能界や政治・社会でのスキャンダルは、まさにそんなばれた作為が、まるで海中深くから東京に上陸して進化し続けるゴジラのように、一気に表面化した結果だと思うのです。
芸能人は今すごくバランスが難しい状況にあると思います。
スターとして、素の人間性を隠して、みんなの望む虚構を作り続けるのか。それとも、自分の素の部分をみんなに見せて楽しませるのか。はたまた、「自分の素はこうだよ」とさらけ出したふりをしつつ、そこに虚構を忍び込ませるのか。現実と虚構のパーセンテージの割合の再構成が求められているのです。
それは社会の中で言えば、本音vs建前の割合です。 現実=本音がバラエティ番組とか芸能界とかタレントとかアイドルという、ある種の虚構=建前の神話世界をどんどん崩壊させ始めています。そんな現実が虚構を侵食する中、テレビは、そして世界はどこに向かうのでしょうか?
今たまたま時流に一番敏感なテレビや芸能界で顕著になっているだけで、これからいろんな社会の局面で僕等ひとりひとりが対峙する問題なのです。
芸能界やテレビの中の話としてではなく、現実vs虚構の問題、この文章でみなさんも一考していただけるきっかけになっていただけたら嬉しいです。


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