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BC56「600億円と660円、ホリエモンと僕」

皆様おはようございます。TBSテレビでプロデューサー/ディレクターをやっています角田陽一郎(かくたよういちろう)といいます。

[水道橋博士のメルマ旬報 vol.33 2014年3月5日発行より一部改定]

冒頭のご挨拶で「おはようございます」と書きましたが、僕らテレビ業界はいつでも朝でも夜でも出会った最初の挨拶は「おはようございます」です。先号でちょろっと書いた2009年に僕らが作ったネット配信の会社GOOMO(グーモ)というのは、この「おはようございます」の“Good Morning”から略して“Goo” “Mo”で、“グーモ”と名付けました。まあその中には“Good Movie” “Good Mobile” “Good Mode” “Good Motivation” “Good Good Money”等々の意味が込められているのですが。このグーモは一昨年に終了してしまったのですが、今放送しているいわゆる制作費のない番組『オトナの!』を生み出し、そもそも水道橋博士と出会った経緯となったのもこのグーモです。今回はこのグーモを生み出す契機となった話をしようと思います。その契機とは実は、後に『オトナの!』に出所後民放キー局初出演となったホリエモンこと堀江貴文さんだったのです。

時は2005年の2月に遡ります。当時の僕は『中居正広の金曜日のスマたちへ』のチーフディレクターと『さんまのスーパーからくりTV』のディレクターを兼務していて、笑いあり涙ありの企画を始終作っておりました。笑いも涙も大事なのは“フリ”と“オチ”です。常に“フリとオチ”ばっかり、それこそ朝から深夜、いや、ぐるーっと回って早朝まで、それも“寝ないで”いや“寝てるあいだも”ずーっと考えていました。あっ、ちなみにテレビ業界は24時間制ではありません。例えば深夜2時なら26時です。当時は27時(朝3時)開始の会議なんてざらにありました。ちなみにちなみに翌朝の10時になると翌日になるので、33時まであります(笑)。そんな僕がその日は深夜ひとり社内のデスクで領収書の精算をしておりました。領収書の精算はタクシー代や会食費など、具体的な行き先や目的、一緒にいた人などいちいち正確に書かなきゃいけないので、ためてしまうと締め切り前にあせって大量に処理しなきゃならず結構煩雑な作業で、“フリとオチ”しか考えていない僕みたいなタイプには最も苦手な作業です。それを深夜一人会社のデスクでやっておりました。テレビ局なんで社内にはつけっぱなしのテレビが目の前に並んでいて各局の放送がいつも流れています。その当時タクシーの初乗りは660円でした。「この660円のタクシーの領収書、どこ行った時だっけな、全く覚えてない・・・もう精算あきらめるか」といちいち660円でもうんうん唸って悪戦苦闘していたのですが、そんな小さい額でも精算あきらめたらいちいち自腹です。何枚もあきらめたら結構な痛手なのです。その時テレビからニュースが流れました「ライブドアが600億円でニッポン放送買収!」。当時ネット業界の話題の若手実業家ホリエモンこと堀江貴文さんが、ラジオ局のニッポン放送そして子会社のフジテレビに食指を伸ばしたのです。ホリエモンとは面識はなかったのですが、実は僕の大学の一年後輩で、彼が東京大学文学部宗教学科、僕が西洋史学科で、研究室は隣同士です。そのライブドアのニッポン放送買収のニュースに端を発し半年後の楽天のTBS買収に及んで、2005年はテレビ業界にとって激変の始まりの年なのですが、僕はその時違う意味で愕然としたのでした。「大学からずーっと、“フリとオチ”ばっかり考えてたら660円の領収書も切れないで悪戦苦闘してて、大学からずーっと“お金儲け”ばっかり考えていたら、600億円でテレビ局を買おうとしてる!!!」
600億円と660円、ホリエモンと僕。その差に愕然としました。「研究室隣りどうしだったのに・・・この差は何なんだ!?」

この時から、僕が“フリとオチ”以外も考えるようになったのです。でも思いました、正直“お金儲け”ばっかり考えるのは、つまらないしくだらないしやりたくない。これからも“フリとオチ”を考えていたい。でも660円で苦闘するのも嫌だ。なら“フリとオチ”は頭の7割くらいで考えて、頭の3割くらい“お金儲け”を考えてみようと・・・こう思ったわけです。

こうしてこの日から3割くらい“お金儲け”を考え出すと、今まで見えていたものが全く違ったものに見えてきました。それは、

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