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BC28「自分の考えたことをカタチにするための“味方の作り方”」

どんな仕事でもそうなのでしょうが、特にテレビを作っていていつも痛感するのは、自分一人では作れないということ。自分がやりたいことがあっても、革新的なアイデアを思いついても、いろんな方の力を借りないと、結局なかなかカタチにはならないわけです。ということは自分のやりたいことをカタチにするためには、それに協力してくれる味方が必要なわけです。ということで今回は、僕のナイショにしておきたいとっておきの話、「自分の考えたことをカタチにするための味方の作り方」です。

バラエティ番組の収録でロケ現場でタレントさんと街歩きやお店まわりなどしていると、まわりにギャラリー(見物人)が集まってきます。皆さんもそんな撮影の人だかりに実際街で遭遇した経験も、そんなシーンをテレビ番組で見たこともあると思いますが、生放送の中継現場とかでは見切れるところでピースサインをする見物人は昔からいますし、サインを頼まれたり握手を求められたり、携帯電話やスマホで写真(写メ)が撮れるようになってからは、撮影現場のタレントさんをパシャパシャ撮るなんてことも非常に多くて、ひどい時には人が集まりすぎて、撮影続行困難なんてこともあります。

当然このロケ撮影で周辺にご迷惑をおかけしているのは僕らテレビ番組制作者側ですから、撮影許可を丁寧にいただいたり、近所の方に迷惑をかけないように警備員を手配したり、いろいろ策を施しますし、逆に全然集まってこないってことは、この番組やタレントさんに知名度がないことを意味することでもありますから、ギャラリーが集まることは多少覚悟しております。


しかし、それも程度の問題で本当にもう撮影中止に追い込まれるくらい人が集まってしまうと、撮影ができないわけですから、それは本当に困ります。そこで、そんな悲惨な状況にならないように集まってくるギャラリーを仕切ったり、仕切れないまでも静かにさせるのが、AD(アシスタント・ディレクター)の重要な仕事なわけです。

そんなロケ現場を僕も若い頃から何百回も経験していますが、その中で僕が学んだことがあります、つまり「ギャラリーを静かにさせる方法」。

それはそのギャラリーを当事者にしてしまうことなのです。
例えば、ある商店街で、○○さんという人気お笑いタレントがぶらり食べ歩きロケをするとします。事前にロケハンしてこの商店街で撮影しようとなると、まずは商店街に許可をいただきに交渉するわけです。

その際商店街の要職の何人かの方には、「こんなロケをします」「このお店に行きます」「○○さんがきます」とは事前説明してありますが、それが周りに広まるとパニックになるので、彼らには、周りには口外しないでくださいと当然伝えておくのですが、当日になると結構な数の方にその情報は漏れていて(笑)、撮影前にはギャラリーの人だかりができているなんてことがあるのです。
その大勢集まったギャラリーに写メを撮らないように静かにしてもらって、撮影がなごやかに進むようにするために、僕らADがやるもっとも大事なことは、それは事前説明(前説)です。僕はよくこんな風に前説してました。

「これから、これはナイショですけど、みなさんが大好きな○○さんがここにいらっしゃいます。でもですね、そこで皆さんがわーっと大騒ぎになってパニックになってしまったら、僕らは撮影できません。そうするとですね、撮影を中止してさっさと帰らざるを得ません。でもみなさんも○○さん見たいですよね!○○さんのおもしろい話聞きたいですよね。でしたらパニックにならないように写メ撮ったりしないで、まずは普通にロケ撮影を見学してもらって良いですか。そして○○さんがおもしろいこと言ったら笑ってください。○○さんもタレントさんですが、タレントさんだって人の子です。褒められたら嬉しいものです。なので皆さんが笑ってくれて、むしろ盛り上げてくれてたら、○○さんもウケたと思って、じゃんじゃんもっとおもしろいこと言ってくれますよ!きっと。」

こう説明すると、途端にギャラリーの皆さんは静かになってくれて、それで実際に○○さんが登場してもパニックにならず、ピースもせず写メも撮らず、暖かく迎えてくれて、○○さんが喋り始めれば大笑いが起こって、ロケが無事に楽しく大成功に終わるわけです。
この僕のした前説には一体どんな意味があるのでしょうか?

この説明のポイントは3つあります。
まず1つ目は、“これはナイショですけど、○○さんが来ます”って最初に付け加えること。大観衆の前で大きな声で(なんなら拡声器で)言ってるわけですから、実はナイショでもなんでもないんですけど(笑)、こう最初につけるだけで、今まで騒いでいた人たちも途端に僕の説明を聞いてくれます。みんなナイショ話を共有したいんですね。そしてそのナイショ話を共有できる特権を持っている側に回りたいんですね。特に事前に知っていて集まった人はそのナイショを事前に知っていたという優越感で、この一言で心地良くなってくれるのです。

2つ目は、“皆さんの気持ちもわかるが、皆さんが好き勝手にすると、ロケが中止になって結局何も見られなくなってしまいますよ!”と、相手の良心の呵責にさりげなく訴えたり、相手の損得の話をさりげなく付け加えるわけです。そもそもこの国にはほとんど悪い人はいません(と僕は思っています)。なのですが、そんないい人たちも集団になると個々の良心が隠れてきて、自分だけならいいだろう!と、その分悪い行動に出がちになるだけなのです。なので相手側の気持ちを汲んだ上で、個人個人の良心に訴えるように、至極真っ当なお願いをすると、普通に聞き分けてくれるケースがほとんどなわけです。

そして3つ目は、皆さんに“助けを請う”ことです。皆さんが盛り上げてくれると、○○さんももっと面白くなりますし、ロケも面白くなります、なので助けてください!とシンプルにお願いをするわけです。“皆さんも、ただのギャラリー(見物)なわけじゃなく、もはや僕ら番組スタッフと一緒にタレントさんを盛り上げるスタッフ側なんですよ!”っていうか“タレントさんをむしろ皆さんのお力でもっとおもしろくしてくださいよ!”ってくらいの共有意識で、助けを請うわけです。すると本当に、皆さんが僕らを助けてくれるのです。

逆に最悪のADの対処方法は、タレントや僕らスタッフ側がいる場所と、ギャラリーが集まっている場所にロープを引いて境界線を作り、当事者と傍観者をはっきり区別することです。ロープで排除された側にいるギャラリーは、まさに見物するだけの傍観者になって、当事者意識がなくなり、タレントさんがやってくると、我先にとロープを押して来ますし、バシャバシャ写メを撮りまくるのです。

以上の話はロケ現場での話でしたが、この3つのポイントは、なにか自分がやりたい企画をカタチにするときに、会社や関係者の方を味方につけるときの、まさに大変重要な3つのポイントとも同様なわけです。

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