第2段「“明石家さんま”は、 僕が出会った中で一番頭がいい人だ」」

※この記事は2016年7月21日に公開された記事です。

テレビプロデューサーという仕事柄、いままでさまざまな業界の方にお会いしてきました。それこそ学者や政治家、経営者、アーティスト、文化人など、職種は多岐に及びます。高学歴はもちろん、頭の良さが売りのお仕事の人にもたくさん会ってきました。
でも、「その中で誰が一番頭がいいですか?」と質問されたのなら、僕は間髪入れずにこう答えます。
「明石家さんまさんです!」
今回は、明石家さんまさんという人のすごさと、テレビのバラエティ界トップともいえる、明石家さんまさんの頭の使い方について。明石家さんまさんの知性こそが、「バラエティ化」(多様化)が進むこの世界で、これからみなに必要とされているということをお話したいと思います。

“一言多い”と“二言多い”の圧倒的な差

僕は昔から比較的“口が立つ”方でして、小学生のころ、よく妹とケンカになると、言い負かして泣かしていました。それを見た父が言ったものです。
「おまえはいつも一言多いな。二言多かったら落語家になれるのにな」
当時の僕には、一言多いと、二言多いの違いがまったくわかりませんでした。
しかし、それから20年近く経って、その「二言多い」という意味を、テレビ局に入ってから知ることになります。そう、明石家さんまさんと一緒に仕事をすることで、初めてソレがわかったのです。
そして、同時にこういうことを思いました。
「頭がいい」って頭の回転が早いとか、そういうことじゃなくて、こういう風に頭を使える人のことなんだなと。

明石家さんまさんは、みなさんがよくテレビで見ているように、本当におしゃべりです。
本番収録だけじゃなくて、楽屋でもずーっとしゃべってますし、収録終わってからもずーっとしゃべってます。そしてその言葉は、“一言多い”のではなくて、実は“二言多い”のです。それが彼の笑いを生んでいるのです。それはいったいどういうことでしょうか?

二言目は「そんなにかわいいのに」

例えばさんまさんと若い女性たちが恋愛について話す『恋のから騒ぎ』という大人気の深夜番組がかつてありました。その中で、さんまさんは、出演者の女性たちのエピソードを聞きながら、それこそボロクソにツッコミます。
「おまえは男にだらしがないなあ」
「なに、そのセンスのない服はあかんやろ」
「性格キツイすぎやわ!」
そしてその悪口の最後に、決まってこう付け足すのです。
「そんなにカワイイのに」
この二言目が足されることで、それまでの、どんな悪口でも、一瞬で帳消しになってしまって、むしろ彼女たちの褒め言葉になってしまうのです。そばで聞いてる人たちも悪い気がしません。
ツッコミが笑いを生みつつも、その場はいい雰囲気に収まります。そしてそのいい雰囲気は、電波に乗って視聴者にも届くのです。
つまり“一言多い”とは、物事への一方向からのダメ出し、つまりネガティヴな指摘のことです。

ある人が映画を見て、「つまらない」って指摘したとします。でもその指摘って、「僕はこの作品のダメなところを気づきましたよ!」って、自分の知性のひけらかしなだけなのじゃないでしょうか。だって、自分が気づいた“ダメ出し”なんて、多くの人が大体気づくところなのです。
その指摘を超えて、違う方向からの、さらに反転して褒めるところまで持っていける能力、それが“二言多い”ってことだと、僕はさんまさんに教えられたのでした。そしてその二言目を足せる能力というのが、まさに本当の意味での“知性”なのです。
これはよくある、「ポジティヴシンキングが大事」や、「ダメ出しをするなら代替案を出しましょう」という一面的なテクニック論とは少し違います。
最初に相手に鋭く切り込んでその人のネガティブな特徴をあぶり出して、相手を攻撃するとみせつつ、相手が気持ちよくなるような大事なポイントを即座に付け足すことで、相手の気持ちの振り幅を最大限にして、相手に好印象のインパクトを与えるという高等テクニックなのです。
具体的な例をもうひとつ出しましょう。

その場を一瞬でなごませた「宇宙一の味」

ある時僕が総合演出をしていた『明石家さんちゃんねる』という番組で、飲料メーカーにさんまさんとロケ取材に行きました。
『さんまの美女探し会社訪問』という企画で、有名企業の社内をぐるぐる回りながら、その中の美人女性社員を見ていくというコーナーです。
・男性も女性も、美人女性が見たい
・他人の会社の内側には興味がある
・撮影協力してくれる会社も、自分の会社のPRにもなる
と、まさに一石三鳥の人気企画でした。
その飲料メーカーではなんと、社長さんがじきじきに出演してくださって、さんまさんとトークすることになったのです。するとそのトーク中に、社長は謙遜気味にこう言ったのです。
「うちは、業界シェア第4位ですから……」
すると、なんとなく聞いていたまわりの社員の方々も自嘲気味な雰囲気になりました。するとすかさずさんまさんはこう切り返したのです。
「でも、味は宇宙一でっしゃろ!」
って。その切り返しで社内は一気に笑いに包まれました。一瞬で場の空気を暖かい雰囲気に変えたのです。このさんまさんの切り返し、本当に素晴らしいと思いませんか。
だってそもそも味に“宇宙一”なんて、測りようがありませんし、それこそ、当代一のほら吹き男、さんま流の得意の“ほら”です。しかし、その“宇宙一”ってキーワードにはそれを超える温かみがあるのです。
さんまさんは、この言葉の裏にこういうメッセージを込めていたのではないでしょうか。
「貴方の会社の従業員は、みんな自分たちの商品にプライド持って、それこそ宇宙一の味だと信じて、日々仕事に励んでいるんでしょ! それなら、日本国内での業界4位なんて、たかだか人間の中でのランキングなんて、それこそ小さい! 小さい! 全然関係あらへんがな。」
僕は、この相手の気持ちを高揚させる会話こそが、コミュニケーションの本当の価値なんだと思うのです。相手の言葉にかぶせつつ、相手をさらにいい気分にさせてしまう、これができる人が本当に頭がいい人なんだと思うのです。

そう考えると、なぜツイッターがよく炎上するのかがわかります。ツイッターって140字だから、何か感想書いていると、結局最初の“一言目”つまり文句しか書けないことが多いからなのではないでしょうか?
何かを見て、素直に「いいね!」と思えたならば、言うことなしですよね。
でも、もしちょっとでも「?」って思ったら、それをバラエティ的に違う方向から見てみて、自分の中でとらえ直してみてください。
でもバラエティ的にと言われたって、実際どのような二言目を言えばよいのでしょうか。
普段の生活でちょっと違和感を感じだ時、いろいろな一言目が浮かぶと思います。
 美人なのに、お高く止まってたら・・・
 上司の体臭が臭かったら…
 クライアントのオーダーがキツかったら…
でも一言目を思いついたあとに、そこからが勝負です。二言目でどう相手の世界を肯定できるのか、考えてみませんか。
それが難しいというあなたに、僕がよく使う簡単で必殺の5文字をお教えしましょう。
何か、厳しい意見や否定的な意見を言った後に、この5文字を付け足すのです。
「……いい意味で!」
例えば、
「美人なのに、お高く止まってますね……いい意味で!」
「◯◯部長、ちょっと体臭きついっすね……いい意味で!」
「いやー、今度のオーダーきついですね……いい意味で!」
少し無理ありますか? でも、これ付け加えるだけでも、少しはほっこりしませんか? 
ほめるのが苦手な方、おすすめです。
さんまさんほど爆笑とは行きませんが……いい意味で!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?