第8段「組織か? 個人か? いや、これからはバンドの時代である!」

※この記事は2016年10月15日に公開されたものです。

cakesでの連載「世界はバラエティになる」を昨年7月から開始したのですが、3ヶ月近くお休みしていました。
それは僕がTBSテレビを昨年末に正式に退社するのを待っていたからです。
7月いっぱいで退職届を出したのですが、有給休暇が残っていたのでした。よくアナウンサーがフリーになる前にお休みしますよね、あれもだいたいは有給休暇の消化なのです。
それで、はれて完全退社しましたので、連載を再開することにします。
やっぱりある組織の中にいると、なかなか書けないことも多かったからです。
「世界はすべてバラエティになる」本年もよろしくお願いいたします。
僕が再開するにあたり、まずは“働くこと”特に独立することについて書きたいと思います。
きっと会社を辞めて独立したいと思っているサラリーマン読者の方も多いと思うので、少しでも参考になれば嬉しいです。

これからの新しい働き方

そもそも人はなぜ独立したいのでしょうか。
多分、条件面とか人付き合いとか、組織に縛られているといろいろ窮屈だからでしょう。
僕が会社を辞めた理由は(もちろんたくさんありますが)、個人の名前で勝負したいという思いがありました。
それは、僕の個人的な思いでもありますが、むしろ情報革命やAI革命が進む未来は否が応でもそうなっていくという予感がしてならないからです。
一人一人の個人が、今までは直接会ったり組織としてまとまらないと結べなかった信頼関係を、今ではSNSを通じて交換できるようになりました。それぞれの信用を相手と交換しあって、コミュニケーションしてビジネスして生きて行く、何か大きなプロジェクトを行う時は、同じ価値観を共有する者同士がその瞬間集まって、集団を形成し、成し遂げて、やがて解散する。そんなアメーバ状のイメージを未来の社会に対して僕は持っていたのです。
「これからは組織にまとまる必要がないのではないか?」
「組織がいらないのではないか?」
「つまり、個人の時代だ」
それを確かめたい、自分を実験台にしてみよう、それが僕が組織を飛び出した理由の一つでもあるのです。
こうして自分が半年くらい実験台になってみて、わかったことがありました。
結論から言うと、“組織”がやっぱり大事なのでした。
特にテレビ番組を作るなどの一つのことを成し遂げようとする時、コミュニケーションや信用を、ネットを通して交換しているだけでは、うまくいかないことを実感したのです。
組織を離れて、それでもいろんなスタッフとSNSでコミュニケーションをとっていろいろやっていますが、正直組織内で距離が近かった時より、成果物のクオリティが下がっているような気がしてなりません。
それはなぜなのでしょうか?

コミュニケーションの本質はリアルな体感である

いろいろ理由を考えて、気づいたことがあります。
それは、“コミュニーションの本質”です。
僕らはコミュニケーションを取ろうとすれば、ネットでも電話でもスカイプででも取れるのですが、実はコミュニケーションの一番のキモは、
「コミュニケーションを取ろうとしていないのに、コミュニケーションが自然と発生すること」
です。
そのためには、やっぱり直接近くに一緒にいることが必要なのです。
近くにいれば、コミュニケーションを取ろうとしてなくても、むしろなんも用がなくても挨拶したり、冗談を言ったり、昨日見たテレビの話をしたり、そんな風に相手とコミュニケーションをつい取ってしまう(取らざるを得ない)のです。
そんな雑談をあえてSNSでやるというのは、遠距離恋愛でうまくいっている恋人関係ならば可能でしょうが、ビジネスにおける人間関係だとなかなか難しいことなのです。
距離があると、むしろ伝えたいことがある時だけ、コミュニケーションしようとします。つまり結果、距離が遠いと、コミュニケーションにも距離が出る……それを僕は体感したのでした。
今、体感と書きましたが、そうなのです。つまり相手を実際に“体感”するということが、コミュニケーションですし、それが本来の信用の基盤なのかもしれません。
情報革命において、ネットで距離を気にせず、僕らは自分の情報を交換し合えるようになった時、実はだからこそ身体的に情報以上のものをリアルに実感することが、これからはさらに必要になっていくと思います。

組織か? 個人か?

では組織は、今までのような会社組織でよいのでしょうか?
今までの組織って、むしろ人間同士の距離は物理的に近いのに、むしろ距離感を感じる関係のような気がしてならないのです。
営業部が何部もあって競わされたり、何か企画を立ち上げようとしても関係各所のお伺いを立てて、ハンコをもらって、というような大きな組織にあるようなピラミッド型の上下関係だったり、それに起因する組織の硬直性はむしろ邪魔です。
そんなことを考えている中、有給休暇中の昨年秋から冬にかけて僕はムーンライダーズという結成40周年のロックバンドのツアーに同行させてもらいました。高校時代から大好きなバンドの“追っかけ”です。まさに有給休暇中だからできることでした。
そして、バンドのメンバーと一緒にいて気づいたのです。
これからの仕事における個人と組織の形態は“バンド”なのではないか。
バンドのメンバーは友達ではありません。だからって会社の同僚というのとも違うのです。同じ意思を共有した、その意思を達成するために必要不可欠な構成員とでも言いましょうか。
バンドには普通ベースは二人いません。ギターだって、弾いているパートが違います。その都度その都度楽曲に合わせて、自分のパートに責任持って、時には一緒に歌い、楽器を奏でるのです。
もしこれが個人一人だと、当然ソロアーティストというのはたくさんいますが、一人だと使える楽器は限られますし、一人で演奏しようとしてもやはり限界はあります。ライブをやるにもサポートメンバーが必要です。
個人が個人でやれることにはやはり限界があり、一つの意思共有した個人同志がバンド(結束)する必要があるのです。
つまり、個人が個人同士で各パートを受け持ち、やりたい企画、やるべき案件をそれぞれが遂行していくような、まさにちょうどいい人数の集団(バンド)です。
そのバンドが3ピースなのか、交響楽団のような大人数バンドなのかは、それこそやりたいプロジェクト次第だと思うのですが、情報革命が進む中、SNSを通してデジタルでコミュニケーションするのは大前提で、その海の中を同じ意思をもって進むアナログのリアルな関係をもつというのが、これから個人で独立する人には、あるいは、組織自体の構造としても、求められているのではないでしょうか?
個人でもない組織でもない、”バンド”をどうやったら結成できるのか?
僕はこれからそんな人生の実験をしようと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?