第6段「なぜ“ご長寿”は“早押しクイズ”をするのか?」

※この記事は2016年9月12日に公開されたものです。

僕が「世界はバラエティになる」とこの連載にタイトルをつけたのには二つの意味があります。
ひとつは、世界のいろいろなことが、バラエティ番組の題材になるということ。
もうひとつは、世界そのものが今後もっといろいろバラエティに富んで(多様化して)いく、ということ。
その根っこには“バラエティ思考”という考え方があります。バラエティ番組を日々作っている内に僕が体得した、物事の本質をとらえやすくする考え方です。
何かを解決しなければならないとき、結果優先で一番の近道に走りがちです。いろいろ試行錯誤するより、マニュアル通りにショートカットすることを良しとしてしまいがちですが、結果的にやりたかった本来の目的から遠のいたりずれてしまうことがあります。
僕もそんなコトを何度も経験してきて、“近道へのテクニック”ではない、“目的地までの試行錯誤”こそが、むしろ命題への最短距離だと気付いたのです。
今回はなぜ僕がそんな風に考えるようになったのかを書きたいと思います。

テレビ局に入社して最初の「命題」

バラエティ番組は、世界で起こったことを、なんでも題材にします。でもそれは本来、番組を成功させるため(≒視聴率を上げるため)です。悪い視聴率の番組はすぐ打ち切りになります。そうすると僕らがテレビ局に入社して、制作部門に配属されて、まず最初に解決しなければならない命題は、
 いかに視聴率が取れる番組を作るか?
ということなのでした。
しかしこれには決まった解答法はありません。このようにやれば視聴率が良かったという、過去を分析して結果論で語れる解答例はありますが、それが今後も通用するかどうかはまったくわからないからです。
それは多分あらゆるジャンルの職業でも言えることかもしれません。僕たちはビジネスにおいて、解き方がわからない命題を解く作業を要求されています。
学生時代までは、出された問題を効率的に解いて、点数が取れたから合格、取れなかったから不合格という世界で生きていますが、社会人になるとそういったものは途端になくなるのでした。
「命題を解決するためには、まずは自分で問題を作って、それを解かなければならない。」
そんな困難な命題を、テレビ局員としてバラエティ番組を作る現場に配属されて、いきなり突きつけられたのでした。

『ご長寿早押しクイズ』はなぜ新しかったか

ではどうやって命題解決のための問題を見つけて、解答を見つけるのでしょうか?
日々バラエティ番組を作りながら、視聴率を取るためにいろんな試行錯誤を繰り返しているうちに、僕がたどり着いた結論は、「ものごとの本質は何か?」に一旦立ち返って考えることだったのです。
僕は視聴率を取るということの本質を考えるようになりました。
バラエティ番組はいろいろあるから楽しいのです。楽しい番組は視聴率が良いのは事実です。ではテレビ中の“いろいろあること”の本質とはなんでしょうか?
そもそも人は新しいことが大好きです。新しいものに出会うと驚き、感動し、誰かに伝えたくなります。ということはテレビの世界でいろいろあるとは、つまり新しいものをいろいろ提示していくことなのです。
しかし、新しいものは限られています。滅多にありません。そこで新しい組み合わせをいろいろ試行錯誤するのです。

僕がディレクターをやっていた『さんまのスーパーからくりTV』の名物企画で『ご長寿早押しクイズ』というコーナーがありました。お年寄り=ご長寿のみなさんが早押しでクイズに挑戦するわけです。
テレビの中でただおもしろいお年寄りがいて、それをテレビに出しただけでは、あまり新しくないですし、そもそもおもしろさも凡庸です。そこでお年寄りの一番おもしろい部分は何かと考え、お年寄りと何かの新しい『組み合わせ』を試行錯誤をしました。そして、お年寄りの動きがゆっくりで機敏な動きができないことを逆手にとって、あえて“お年寄り”に“早押しクイズ”をやっていただくことになったのです! やってみたら大爆笑でした。
そしてご長寿早押しクイズ(=見たことがない新しいもの)が大ヒット企画になり、高視聴率に繋がったのでした。

ものごとの本質=概念から考える

肩こりって、欧米人にはないと言いますよね。肩甲骨らへんの筋肉は背中(バック)というので、肩とは言わないみたいで。
僕は子供の頃、頭痛持ちでした。いつも頭が痛いと言っていて、病院に行ったこともありましたが、原因がわからなかったのです。それが思春期くらいになって、あるとき誰かに肩を揉んでもらったら頭痛が減ったのです。さらにトクホンを背中に貼ってみるとスーッと頭も気持ちよくなりました。僕が頭痛だと思っていたのは、実は肩こりなんだって、それで初めて認識したわけです。
僕は頭痛持ちなんではなくて、それ以来肩こり持ちに変わったのでした。
バラエティ思考とはそんな概念にまで立ち返ってみて、本質に近づくことです。

例えば、虹は何色ですか?

……7色ですよね。僕ら日本人は7色の虹と認識していますが、世界ではそれがバラバラです。以下はネットで見つけた情報ですが、
8色:アフリカのアル部族

7色:日本・韓国・オランダ

6色:アメリカ・イギリス

5色:フランス・ドイツ・中国・メキシコ

4色:ロシア・東南アジア諸国

3色:台湾のブヌン族・アフリカのショナ語族

2色:南アジアのバイガ族・アフリカのバサ語族”
とも言われています。
ちなみに昔の日本人は5色と認識していたのだそうですし、現在のLGBTのシンボルフラッグのレインボーカラーは6色です。
なぜこういうことになるのか? それは実際の虹は、赤から紫へと段々とグラデーション変化しているだけで、色の数とはその境目を人間がどこと認識するか? ということにすぎないからです。
画一的な思考とは、虹は7色だと信じて疑わないことです。
つまりある現象を人が◯◯だと認識するのは、「それは◯◯である」という固定観念が自分の中にあるからそう認識するわけで、違う概念を知れば、今までとはまったく違うものに見えてきます。
僕がバラエティ思考と呼ぶのは、虹は色のグラデーション変化であり、それを現代の日本人は7色と認識している(に過ぎ無い)と把握することなのです。
いろんな視点から見て、いろいろあるんだとまずは理解する。このバラエティ思考ができるようになると、相手の考え方を偏見に満ちてとらえるような、例えば虹で言うと
「7色じゃないとおかしい」
と自分たちの固定観念に執着することはナンセンスだとくだらなく思えてきます。

さらに言えば、
「そもそも世界ではこんなに認識が違って、いろいろあるんだな!」
といろいろ知ることの方が、ただ虹は7色だと思っていることより、単純に世界がおもしろくなりませんか?

いろいろあるからおもしろい

世間で転がっている情報やテクニックや固定観念を鵜呑みにするのではなく、その情報の本質はなんなのか?に一度立ち返って試行錯誤してみる、それが遠回りしているようでいて、実は命題解決への一番の近道なんじゃないでしょうか。
あなたがもし学生なら、先生が出した問題に答えるだけではなく、その先生はなぜその問題を出しているのか?まで考えてみることです。
するとその問題の構造、
「ケアレスミスを誘引するようなひっかけ問題」
「何をあなたが理解しているか知るための問題」
「授業をよく聞いていた人だけわかる問題」
等の本質が見えてきて、結果的に解答力もあがるのです。
そしてもしあなたがビジネスマンなら、あなたは自分の今抱えている命題解決のために最初にどう問題を作りますか? そしてそれを、どう解きますか?
いろんな観点からバラエティにとらえ直してみる。
一度腰を据えて試していてはいかがでしょう?
みなさんの“目的地までの試行錯誤”に、今回の連載が少しでもヒントになれば光栄です。

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