第1段「1分ネット動画 VS 30分テレビ番組? すべての鍵は「おもしろ原理主義」にある。」

※この記事は2016年7月14日に公開された記事です。

みなさまはじめまして。テレビプロデューサーの仕事をしている角田陽一郎と言います。
今やスマホが当たり前になって、動画配信サービスやAbemaTVなどが快進撃を続けています。
この連載では、テレビ・メディア・広告・芸能界の激変する未来を通して、僕たちの生活や人生、社会がどう変わっていくのか? というお話をテレビマンの目線でしていきたいと思います。
キーワードは“バラエティ”です。バラエティとは多様性、つまりいろいろあるということ。
題しまして「世界はすべてバラエティになる」。
芸能、都政、経済……、いますべてのニュースがバラエティ番組に消費されていると思いませんか。真面目なことを不真面目に見て「おもしろがる」のは、いわゆるゴシップですね。おもしろいとなんでもコンテンツになってしまいます。
でも、今のその“おもしろがり方”は、僕は一面的で“おもしろくない”と思っています。
だから「もっと違う観点からとらえ直してみよう!」と思っています。
平成の終わりを、経済から語る。アイドルの解散を、歴史的に語る。流行の音楽を、科学的に語る。都政の混乱を、家庭の出来事のように語る。
そんな風に、多視点でモノゴトを見ると、今まで見えてこなかった未来が見えてきます。
第1回目は、映像・動画にも2種類あるというおはなしです。


歴史にくわしいテレビプロデューサーです

自己紹介が遅れましたが、僕の仕事はテレビのバラエティプロデューサーです。
大学では西洋史を専攻していました。専門はフランス革命です。そんな出自もあって、昨年末『最速で身につく世界史』という本を出したら、これがありがたいことに売れていまして、11刷り(!)もかかっています。

でも本職はテレビマン。1994年にTBSテレビに入社して、今年で22年。今まで基本的にはずーっと制作局のバラエティ制作部に在籍して、いわゆるバラエティ番組を作ってきました。
ディレクターとして『さんまのスーパーからくりTV』で「ご長寿早押しクイズ」や「からくりビデオレター」等を作ったり、『中居正広の金曜日のスマたちへ』をチーフディレクターとして立ち上げました。プロデューサーとして『明石家さんちゃんねる』『EXILE魂』『オトナの!』を制作。
その間にはgoomoというネット動画配信会社を立ち上げたり、『げんげ』という映画を初監督したり、音楽フェスや舞台演出、トークイベントなどまさにバラエティにやっております。バラエティ番組のプロデューサーではなく、バラエティにいろいろやるプロデューサーです。

1万円で30秒の動画がつくれる時代に

先日、あるネット広告会社の社長と会食しました。
その社長は以前講演会でこういうことを言っていたのです。
「今、ネット動画は1本1万円くらいで作れちゃうんですよ!」
それをたまたま聞いていた知り合いのテレビマンはちょっと憤慨していました。それって僕らテレビマンの制作費があまりに少なく見積もられてるって話ですから。
僕らが作るテレビ番組は、ゴールデンの1時間番組だとだいたい1本、1000万から2000万。深夜の30分番組でも安くても1本200万くらいで作られています。制作費1万円ってそれじゃ何もできないじゃないですか!
その社長と会食することになったので、発言の真意を聞いてみたのでした。するとなかなかおもしろい話が聞けたのです。
彼は先日新しい無料のネット動画サービスを始めました。それは雑誌的な情報発信サイトで、30秒の動画が200本以上あって、毎日どんどん更新され、グルメだったり、ホテルだったり、ライフスタイルの提案だったりとかを、主に女性向けに、きれいに洗練した編集で作ってあります。
動画の下には少しの文字解説が付いています。でも30秒なので、動画自体にはフリとかオチとか、おもしろさがあるわけでもなく、当然芸能人やレポーターが出てくるわけでもありません。でもその動画が紹介するホクホクのベーグルはぜひ食べてみたくなりますし、そこで紹介されるおしゃれなホテルには泊まってみたいと僕も思うものでした。
まさに欲しい情報だけを最小限に詰めた30秒の動画なのです。
その動画は、自社で元雑誌の女性編集長が率いる数名のチームで作っているそうです。担当になった人は、自分一人でリサーチし、一人で取材交渉をし、一人で撮影して、一人で編集して、一人でアップする……その作業を換算すると、だいたい1本平均1万円で作られているというのです。
つまり彼は、深夜番組1本分の制作予算200万を使って、まさに200本の動画を最初に作り、動画サービスをローンチして、それを広告ネットビジネスとして成立させているわけです。
テレビだと深夜の30分番組1本作るのに200万ならば、その30秒のネット動画ならば200本分を作ることができるわけです。ということは、仮にその200万を使ってタレントさんをブッキングして30分のテレビ番組みたいな動画を1本アップしたサイトと、1本1万円の30秒動画を200本アップしたサイトではどちらがアクセス数や視聴者数が多くなるでしょうか? 
単純に200倍とはいかないでしょうが、200本の30秒動画がある方が、一人が何回も見てくれる可能性があるわけです。つまり、そちらの方がはるかにコスパがいい。
「ネットビジネスとはつまり、こういうことなのです!」
彼は確信的な面持ちでそう言っていました。
実際サービスローンチ以降人気も上々で、広告収入で運営されていて無料なため、結構な人がこのサイトを訪れ、すでに黒字だそうです。
そんな時代にテレビでは今もスポンサーに、「CMを毎週30秒流してあげるから、何百万ください!」「1時間のドラマ番組のスポンサーは月ウン︎億円です!」みたいな既存のテレビビジネスを死守しようとしています。僕は彼の考えを聞きながら、なるほどと深くうなずきつつ、さらに考えが巡ったのでした。
「それでもやっぱり、ひとは感動するもの、おもしろいものも見たいのではないだろうか。タレントさんが出演したり、フリとオチがある番組だったり、感動するドラマも見たいんじゃないだろうか?」
そう考えて、思い至ったのです。実は動画にも「書籍的な動画」と「雑誌的な動画」の2つに分けられるのではないかと。
紙の雑誌の衰退が叫ばれて久しいですが、それはネットに置き換わったからです。でも雑誌はそもそも、情報カタログとしての側面が強いものでした。ですので、それは宿命といえるでしょう。
雑誌そのもののポテンシャルはやはりすごくて、一番秀でたところはその情報量の多さです。しかしその雑誌の文字情報量をそのままにネットで電子版を作ってみても、実際ネットデバイスではあまりに文字が多くて読む気がしない。
そこで雑誌を意識した動画サイトを新しく設計してみたところ、30秒動画をたくさんアップすることだと思い至ったというのです。むしろ雑誌をネット上で作ろうとしたら30秒動画=「雑画」の集積になったとのことでした。実際そのサイトは雑誌編集者たちが運営しているわけで、紙の雑誌を作る時のノウハウが盛り込まれているから、まさに成功しているとも言えるのです。

今までは僕らは容れ物(パッケージ)が技術的に進化すると、新たな容れ物のための中身(コンテンツ)を提供してきました。例えばレコードからCDみたく変化しつつ音楽を提供してきました。でも情報革命を生み出したネットにおいては、パッケージング自体が自由というのが味噌なのではないでしょうか。
今やそのパッケージの概念自体を更新しなければいけません。もはやそのパッケージの進化の文脈で語れないくらいのバージョンアップ、まさに“概念の革命”なのです。
そのバージョンアップの中で紙の雑誌の本質的な価値をリデザインしたら、ネットの雑画集になったということです。
では僕らテレビマンは「書籍のほうの動画」=テレビの概念をどうバージョナップするのか? その“概念の革命”を僕らは今探求しているわけなのです。

鍵は「おもしろ原理主義」

こういう常にパッケージや文脈の更新が求められる「バラエティ(多様性)」の時代に、大切にしなければと思う原点を、僕は「おもしろ原理主義」と唱えています。ものすごくシンプルに言うと、おもしろいもの(コンテンツ)はどんな世の中になっても求められるということ。
テレビというおもしろいを届ける形(パッケージ)は変わるでしょうが、そのコンテンツの出し方の概念を新しくしていけば、むしろどんどん新しいおもしろいことが産まれてくると思っているのです。そしてそのおもしろいものを産み出すためには、作り手であるクリエイターにお金が集まる仕組みを新たに作りたいのです。
今日は7月14日、1789年にはパリでフランス革命が勃発した革命記念日です。
自由・平等・博愛という理念を掲げたこの革命が、(いい意味でも悪い意味でも)今の僕たちの自由民主主義国家の暮らしのはじまりとなりました。そして現在はそれ以上の革命=“情報革命”が進行中の真っ只中なのです。
“情報革命”なんてもう聞き飽きているかもしれません。でも多分それは、幕末の坂本龍馬だってそうだったと思うのです。「幕藩体制は終わる」「時代は変わる」「新しい時代がくる」とみなが口にしていた中、彼は明治維新の前に暗殺されてしまいました。ということは、龍馬は、自分が“幕末に生きている”ってことを知らなかったわけです。
期せずして、昨日7月13日に天皇陛下が生前退位のご意向があると報道されました。2年後の2018年は明治維新からちょうど150年。本当に新しい元号で“○○維新”って言われるように、まさに歴史が動いて来ているのかもしれないのです。
1989年に、昭和が終わり、サルバドール・ダリが亡くなり、手塚治虫が亡くなり、中国で天安門事件があって、ソ連でペレストロイカが進んで、東欧各国で革命が起こって、ドイツでベルリンの壁が崩れて、マルタで冷戦が終了して、それがちょうど1789年のフランス革命から200年だったってことに、ちょうど高校卒業して浪人生の僕は歴史的な“偶然だけど必然”のドキドキ感を感じたのでした。
今も、その時と同じドキドキ感を感じてたまらないのです。歴史は偶然起こったとしても、起こったという意味では必然なのです。
まさに7月14日の革命記念日からこの連載を始めたことも何かしらの必然かもしれません。
たくさんの視点(バラエティ)でみると、世界はもっと楽しくなる。
それが僕の考えるバラエティ的世界です。

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